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突入


 K‐02区。

 数ある港のうち比較的小さい規模の所だが、大型の倉庫がずらりと立ち並んでいる。どこかの会社が受け持っている敷地らしく、船や倉庫にロゴマークが塗装されている。

「全く反応ねぇな」

 苛々した須藤の声。

「なぁ、本当に海の近くなんだよな?」

「間違いない。あいつらの記憶から揃って波の音が聞こえた」

 捜索を開始してかれこれ一時間半。

 K‐02区にテレポートした一行は、海沿いを七メートルごとにテレポートして移動していた。その度に明崎が水の反応を見る地道な捜索。

 半径十メートル以内に笠原が入れば海に何かしら反応が起きるはず、という明崎の推測を元に浮かんだ方法だった。

 大分の距離を移動したと思う。

 須藤がいるお陰だし、霧ヶ原も笠原や犯人と思しき男たちの記憶を拾って海の近くにいることを突き止めたのだ。

 この二人がいなかったら何の手掛かりも無いまま、当てもなく街を探していただろう。

「胸糞悪ぃ連中だな。ふざけやがって」

 須藤が忌々しげに舌打ちをした。

「あの倉庫を一個一個調べると思うとさらに腹立つな」

 そうなのだ。普通の一軒家よりも大きい倉庫が、ざっと見ただけでも相当な数が建っている。

 距離も明崎の能力範囲に入るか入らないか、際どい所である。ぶっちゃけ明崎自身も力が使えるか、自信がない。

 ――と、思っていたのも束の間。

 三十何件目かの倉庫の前である。

 明崎が何度も頭に浮かべていた、海面から水柱が吹き上がるイメージが、ようやく現実でも起きた。ザバッと勢いよく水柱が上がったのだ。

「あれや!」

 良かった、使えた!

 須藤が即座にテレポートをやめた。

 明崎は頭の中で、水に別のアクションを起こさせる。とりあえず、その倉庫にぶっこむところを想像した。

 ぼんやりとしていて、不鮮明である。水がどれぐらいの大きさだとか、海からどう動かすのかとかも全く考えていなかった。

 すぐ横の海水が荒く波立った。

「……え」

 明崎は目を見開いた。

「何?」

「……水が、」

 水が……頭の中で勝手に動き始めた。はっきりと、鮮明に輪郭と色彩を持つ。動きが……おかしな言い方だが明崎が想像していたものより遥かに水らしくなり、滑らかにその身を踊らせた。まるで、独りでに意思を持ったかのように。

 錯覚ではない、何故……。

 訳が分からず呆然とする明崎の頭の中でも、目の前の海面でも現象は続く。

 円をぐるぐる描き、まず水は渦を作った。段々と盛り上がって、太い水の塊が螺旋状に空へ向かって行く。龍の如く身をくねらせて昇り始めた。

 そこまで細かく過程なんか考えちゃいなかったのに……。

 ゴォオオオ……

 呆気に取られる一同の前であっという間に、音を立てて渦巻く海水の柱が出来上がった。それもハリウッドのパニック映画に出てきそうなデカい竜巻みたいで。

「ちょ……おま、何作ってんの」

 須藤が恐る恐るといった様子で聞いてきた。

 いや、作ったも何も。勝手に水が動いたのだ。そこから全く明崎のコントロールなんて効かなかった。

 こんなスケールのデカすぎるものを作るつもりは無かったのに。

 ……それでようやく笠原の恐れていたことを痛感する。

 笠原の手にも負えないのだ。というか、そもそもこれが人間如きに操れる代物なはずがない。もしも笠原が言うように、これが暴走してしまったら? 確かに、これは怖い。

 ――不意に、水からイメージが届いた。

 曰く、この荒れに荒れた竜巻状態で倉庫に突入する、と。

「はっ!?」

 そりゃ、思い浮かべたけど!

 その状態で突っ込んだら悪党もろとも笠原が死ぬから!

 死んじゃうから!

 しかし水は全く意に介した素振りも無く、大きく身体をたわめ、

「――わぁああああっ‼」

 明崎の絶叫と共に倉庫目掛けて突進し、勢いよくシャッターをぶち破った。



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