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2

 やがて男は笠原の首から離れた。歯を食い縛って耐えていた笠原はようやく詰めていた息を吐き、肩で呼吸をする。

「意外と勃つかも……」

「やっべーこいつマジだ!」

「男に目覚めたか!」

 そう言った男に周りはギャーギャーと騒ぎ出す。よく見るとスマホで動画を撮っている男もいる。今のを全部撮られていたのか。そう思うと、羞恥と怒りでカッと身体が熱くなる。

「脱がすか」

 その言葉を聞いて笠原は今度こそ後ろへ逃げようと身を捩らせた。しかし男の一人が「逃げんな」と笠原の腹目掛けて蹴りを入れた。

 ドッと衝撃が叩き込まれる。

「ぐっ……げほ、げほっ」

 痛みのあまり身体に力が入らなくなってしまった。咳き込む笠原は造作も無く押さえ込まれる。

 首を舐めた男は笠原のシャツにかけた。制服なのでボタンがついているが、男はいちいちそれを外すようなことはしなかった。

 ビリビリッ

 襟元から下へ一気に破いてしまった。ボタンが弾け飛んだ。

「嫌だっ……」

 服は邪魔だとばかりに背中側にずり降ろされた。

 もう駄目だ――

 笠原はギュッと目を硬く閉じた。

「うわっ、何だこれ!」

 案の定、声が上がった。男たちが声に釣られて背中を覗きに回ってくる気配を感じる。

「鱗!?」

「げっ、気持ち悪ぃー!」

「造りモンじゃあ……ねぇ。まさかトカゲ人間とか言うんじゃねぇだろうな」

 次々に降りかかる侮蔑の言葉。明らかな害意を捉えた笠原の身体が恐怖で震え始めた。

「一枚剥がしたら分かんじゃねぇ?」

 誰かが、おぞましいことを口にした。

 剥、がす――?

 竦み上がった身体を複数の手で床に押さえつけられた。背中を指で突つかれる。虫か蛙でも触るかのように。

「ぅわ、爪みてぇ」

「ちょ、誰かライト点けろ」

 鱗の輪郭をなぞるように何度か触れられると、やがて僅かな隙間に爪を宛がわれた。

「やめっ――」

 笠原の制止も虚しく、べリッと容赦無く鱗を剥がされた。

 プシュッと血が飛び散り、笠原の視界も真っ赤に染まった。

「ぁあああああっ!」

 生爪を剥がされたような激痛が走った。悲鳴を上げる笠原をよそに男たちは鱗へ群がる。鱗の片端が血に濡れていた。

「すっげー、本物かよ。色がエグいな」

「気持ち悪い通り越してグロい」

「うわ、何か動いてる。……へこんだ」

 覗き見て口々に感想を述べる間に、鱗はたちまちぼこりと中心がへこみ、やがてコンタクトレンズのようにパリパリに乾いた。

「あ、割れた」

 試しに力を加えた男の手の中で、鱗は脆く割れた。虫の羽のように。

 笠原は男たちの足下で、涙ぐみながら荒く呼吸を繰り返していた。背中の紅い傷からは一筋の血が流れている。

「……萎えるわー」

「そりゃお前、ヤるっつったら正気疑うわ」

「まぁ金にはなるしな。別にいいだろ」

「研究所とか何個かあるよなぁ、そういう感じの。拉致ったり買い取ったりしてるっつー話じゃん?」

「鱗も何枚か取っちまおうぜ、売れるかもしんねぇ」

「しっかし……なんでこんなのが生まれる訳? 人間じゃねぇだろ」

「化け物だな」

 笠原の耳に捻じ込まれる残酷な言葉の数々。完全に恐怖と苦痛に支配された頭では、水を思い浮かべられない。

 震える身体を抑えることも、涙を止めることもできなかった。目の前が真っ暗になった。



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