転校生、来たる
ゆっくりと沈んでいく
背中から深い、深い水底へ――
同じ夢だった
水に取り込まれて、水面の光から遠ざかっていく
身体はいつも重くて、動かない
ただ、無抵抗に落ちていく
息苦しくはない
押し潰されそうなほどの孤独感が、スゥッと溶けるように消えていく
ここが俺の居場所なのだ
当たり前のように思う
もっと、深く、深く
落ちるところまで……そうしたら
――やがて暗くなったところで、少年は目を覚ました。
低く重たいエンジン音が、身体の中まで微かに響いている。
フェリーの中だ。少年はその目に深い憂いを浮かべて、壁に取り付けられたモニターを見た。あと数分で島に到着するらしい。
透季島。神奈川県相撲湾に位置するそこは陸からフェリーでおよそ二十五分かかる。
大きな人工島で、科学関係の企業が軒を連ね、国立の科学研究所も建つ「科学の島」で知られていた。
住宅地もあり、モノレールや大型ショッピングモールなどの設備もできているのだという。最早、普通の街と変わらない。
今日から少年は、そこに住むのだ。
窓の外を見遣る。見渡す限りの海。時折、カモメかウミネコらしい鳥がどこからか飛んでくる。少年は海をじっと見つめた。
幾重にも波を織り成して揺らぎ続ける海面を。
水に還りたい
もしかして俺は、そう望んでいるのか
……『水』に融けて、やがて消える
同じ夢
同じ繰り返し
同じ望み
地上から遠ざかる
そんな夢を――
明崎は三日前に言われたことなどすっかり忘れて、いつも通り学校生活を過ごしていた。
授業を受けて、スマホでちょっとゲームやメールをして、それからちょっと寝る。板書はしっかり写した。休み時間は友人達と下らない話で笑い転げて、放課後は霧ヶ原を手伝って諸々の雑務を処理した。
特に変わったことはなかった。
今日に限って伊里塚はおろか、霧ヶ原ですら転校生の話に触れなかった。だから夕方に家へ戻ってみたら……玄関前に荷物が置いてあるではないか。段ボール箱数箱に黒いキャリーバッグが一つ。遠くからでも確認できた。
「え、何で……?」
思わず呟いてから、ハッと思い出した。
そうだ、伊里塚は今日転校生が来ると言っていたのだ。けれど転校生らしき人物の姿は無い。
慌てて走りながらスマホで時間を確認する。不在着信一件の表示があったが、確認するどころではない。
到着は十六時前後と聞いていたが、現在十七時〇二分。
うわー一時間待たせとるやないかい自分。アホやろ、どんだけアホなん。
玄関の引き戸には鍵がかかっていた。荷物が外に放置されている辺り、鍵は持っていないと思うが、一応鍵を開けて踊り場を見た。
靴は、やはり無い。
……どこ行った転校生。




