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影の中

 腹を蹴られて、笠原は目を覚ました。頭がガンガンする。気持ちが悪い。何が何だか分からないまま咄嗟に腹を庇おうとして、気づいた。

 腕が背中で縛られている。手と足がガムテープでぐるぐる巻きにされていた。

 ――それで、全て思い出した。

 自分の身に何が起こっていたのかを。腹の底から捻れていくような恐怖が蘇った。みるみる喉が干上がっていく。

「お、起きた」

「何だよ、そのまんまヤっちまっても良かったじゃん」

「起きてた方がおもしれぇだろ?」

 男たちは相変わらずの会話をしている。埃っぽい匂いに混じって、微かだが潮の匂いもする。

 海の近くだろうか……?

 笠原はコンクリートの床へ直に転がされている。一方で男たちは少し離れた所でタバコを咥えながら、卑下た笑いを上げながらスマホを弄っていた。

 どこに連れ込まれたのだろう。薄暗い室内だ。広いのに、物はほとんど無い。天井も二階建ての建物くらいの高さにある。使われていない倉庫なのかもしれなかった。

「しっかしキレーな顔だな。ホントにモノついてんのか」

 突然すぐそばにいた男が、笠原の前髪を鷲掴み引っ張り上げた。さっき蹴ったのはこの男だ。拘束された笠原は抵抗できるはずもなく、されるがままに起こされる。

「お前さっきからそればっかだな」

「もーさっさと脱がせよ。うっとうしい」

 男は野次を背に受けつつも、じっくりと笠原の顔を眺めている。髪が引っ張られて痛い。床に手を着いて支えることもできない笠原には、この体勢が苦しかった。

 しかし苦痛に顔を歪めながらも、男を精一杯睨みつけた。

 冗談じゃない。見られる訳にはいかないのだ。背中をこんな奴らに見られてしまう訳には――。

 その時、不意に男の顔が迫った。

 びくりと身体が跳ねる。そのまま男にのしかかられ――首にぬるりとしたものが滑った。

「ひっ……」

 ぞくりと肌が粟立った。首を舐められた。男に。

「離せっ……ぅあ」

 男は一度に留まらず何度もしゃぶるように舐め、シャツをずらして露わにした肩も噛んだ。

 気色悪い……!

 悪寒が背筋を走る。堪らず笠原は激しくかぶりを振ったが、向こうは慣れているのか全く動じる様子はない。

 犯される。このままじゃ、こいつに――!

「ヒュー! あいつホントにやってら!」

「何、アイツ男でもイけんの」

「記念に撮ってやるよお前ら」

 囃し立てる男たちが悪ノリして笠原のところまで近づいてくる。計五人。

 笠原は水を呼ぼうとしたが、男の行いのせいで上手くイメージができなくなっている。

 気持ち悪い。やめろ、やめろっ……


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