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何で……益田がここに。
というか、これが間違いなく「波江高校生徒会会計」のあの「益田敬介」であるなら、非常に関係無い記憶のはずである。霧ヶ原が思わず引くぐらい優しい笑みをこっちに向けているが、いらない。
今は本当にいらない。
「何か気になる所あった?」
霧ヶ原が視界を借りている人物は、最初首を横に振ろうとしていた。
が、その時霧ヶ原は不思議な感覚を覚えた。身体がぐんっと引っ張られている。この人物が引っ張られているのではない。霧ヶ原の意識だけが引っ張られているのだ。
抗う間もなくあっという間に吸い込まれた霧ヶ原は、その視界で幾つかの風景を視ることになった。
――踏切 電車が前を通り過ぎて行く
「うわっ、甘っ。これもうコーヒー牛乳じゃん」ストローが刺さった有名チェーン店のプラスチックカップを持つ手 益田の声
駅の駐車スペース 停まる黒いワゴン車
電気ケトルでマグカップにお湯を入れる 自分の手
『で、どこ行くんだよ』『K‐02区の倉庫に行く』 知らない男たち
「最近良く寝るよね~」 益田の声
見下ろした本 紙を捲る音
ドアが閉まる
ちゅ、とおでこにキスされた ふわっと包み込んでくる益田の香り 体温
「――あそこ」
視界の主が初めて口を開いた。
同じ年かそれより年下らしき少年の声である。いつの間にか、意識が彼の所へ戻っていた。
……何だ。何だったんだ、今の。
「あそこ? どこら辺?」
益田が聞く。少年は指を差した。
その先には駅のバス広場があって、待ち合わせしているのであろう路面駐車の車が何台もある。
――黒い車をその中で見つけた。ワゴン車だった。そこに金髪と茶髪の男が乗り込もうとしていた。
間違いない。さっき見た光景だ。
そこで霧ヶ原の頭の中に別の風景が流れてきた。




