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5

「そんな……」

 霧ヶ原から失望の声が漏れる。

「……十分前っつたら、車だろ? もうかなりの距離移動してんぜ」

「アイツら、笠原君のスマホの電源切ったんだ……。もう思いつかないよ、他に」

 明崎は無言で画面にタップし、マップの表示地域を拡大させた。

「……や、そうでもないで」

「え?」

「しばらく一本道やねん、ほら」

 その言葉に再び画面へ目を戻す二人。確かにその先は一本道だ。けれど何キロも距離がある訳ではないから、次の分かれ道でまた考えるしかない。

 須藤がなるほど、と頷いた。

「……ならもう行った方が良いな。でも俺、ここの道通ったことないぞ」

 須藤のテレポートは距離も関係なく、思い浮かべるだけで地球の裏側に行けるという能力だ――理論上は。

 というのも、これには大きな欠点がある。一度訪れたことのある場所でないと移動ができないのである。

「そこからちょこちょこ移動して行くしかないか……」

「それでも徒歩よりは断然早いよ。見たら数メートルは先に行けるよね」

「ああ」

 三人はすぐさまテレポートした。

 須藤の記憶を辿って知っている所まで行き、後は十数メートルごとに移動を繰り返した。

「こりゃ追いつくか分からんぞ!」

「何とかなる!」

 渋面の須藤に明崎はそう言った。今はそれしか言えなかった。

 そうして、移動すること一時間。

 幸い、霧ヶ原が時折記憶を拾えるようになったので、それを手掛かりに一本道から先の分かれ道も乗り切った。

 ただ途中で霧ヶ原が「○○区にいる!」や「○○号線走ってる!」といった具合に追体験を受信したので、あちこち飛んで行ったり来たりしている。

 それでも、それらしき車は一向に見つからない。

 須藤の集中力も切れ始めた。

「ちょ……タイム」

 休憩を申し入れた須藤はバテバテの状態でアスファルトにどさっと座り込んだ。

「……まさかこんなに疲れるとは」

 深く息を吐いた須藤の額には汗が滲んでいる。一時間ぶっ続けで、しかも二人連れて何キロも移動したのだ。

 もし二人をおんぶに抱っこで徒歩に換算したら……そりゃあ疲れない訳が無い。

「水……飲みてぇ」

 明崎もひとまず腰を下ろした。

「……キリオ君?」

 霧ヶ原が突っ立ったまま、内陸の方を見ている。というか、明後日を見ている目をしている。

「おい楠臣」

「……街が、見える」

「街? ……追体験か!」

 最初、怪訝な顔をした須藤も合点のいった表情に変わる。

「違う……笠原君じゃない。誰の記憶……?」

 眉間を険しくして、霧ヶ原はその記憶に身を委ねた。


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