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「……え?」
今、何て。
「ちょ、先生! 待っ――」
『ピーッ』
「…………………」
霧ヶ原は無言でスマホを耳から降ろした。
「……え、何? どしたん?」
突然会話の途中で電話を切った霧ヶ原に声を掛けた。何か様子がおかしい。
すると――
「……ふざっけんなぁああ!!」
霧ヶ原は絶叫してダンッとアスファルトを強く蹴った。唐突にブチ切れた霧ヶ原に明崎は口をぽかんと開け、その光景を唖然と見る――んな場合ちゃう!
「待って待って! 何なん、何言われたん」
「あいつ紛らわしい留守電設定するとか何なの! 死ぬの!? 死にたいのか!? クソまじ腹立つ!」
うわー伊里塚君……! 大体の事情を察した明崎も思わず苦い顔になる。
そらキレるわ。しかも何で繋がらへんの。
「……先生にも望みナシか」
平淡な反応をした須藤は自分のスマホを取り出して、どこかへ電話を掛けた。
「2‐Aの須藤ですが、伊里塚先生いますか? ……あー、分かりました。失礼します――学校にもいねぇ」
霧ヶ原は急に黙り込んだ。
明崎が恐る恐る顔を覗き込むと、……霧ヶ原は顔面蒼白になっていた。
「こうしてる間にも、何かあったらどうしよう。笠原君意識無いし、無事で済むはずがないよ。あんな……」
酷く取り乱している。無理もなかった。この只ならぬ不安な状況の中で、唯一手掛かりになる彼の追体験が、肝心な時に発動しないのだ。
普段は勝手に発動して「知りたくもないことを見ちゃうから困るよ」と苦笑いをしているくらいなのに、さぞかし歯痒いだろう。
悔しいのも分かる。……けど。
「キリオ君……それは言わんとこ。不安しか煽らんで」
明崎だって同じことを思っている。今だって身を焦がすような焦燥感に襲われているのだ。
霧ヶ原は再び口を噤んでしまった。
その横で須藤が「須藤です、笠原誘拐されました。至急連絡下さい」と言って電話を切った。
伊里塚の留守電にメッセージを入れたらしい。
「……くそ、何か方法ねぇのかよ」
「使えへんかな……」
明崎はスマホを取り出して操作する。
ネットで検索して、まず携帯会社のホームページを見た。
すると、GPSのサービスページを見つけた。
「……うわぁああIDとパスワード!」
どうやらこちらのブラウザからでも操作は可能らしい。
ただしIDとパスワード認証必須。絶望的である。




