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捜索


「……あ、笠原まだ帰ってねぇの?」

「そーいやまだ帰って来てへんなぁ」

 珍しく玄関から帰って来た須藤が、靴の数を見て訝しげに言った。先に帰っていた明崎と遊びにきていた霧ヶ原は一緒になって、居間から顔を出す。

「普段もっと早く帰って来てるよね」

「すぐ部屋に引き篭もるからあんま違和感無いけどな」

「もう十八時半だけど……ふぅん、珍しい~」

「むしろ毎日十六時帰りの方がおかしいって。小学生の門限じゃあるまいし。男子高校生たるもの遊んでなんぼだろ」

 須藤の意見に明崎も全く同意である。

 明崎ならば半日部屋に閉じ込められただけで、喋れない苦痛のあまり死ねる自信があるというのに、全くもって真面目すぎる。

 顔だって最高に綺麗なのに全然使っていなくて、宝の持ち腐れもいいところだ。

 ヒッキーで終わらすにはあらゆる意味で、本当にもったいなかった。

 年頃なんやし、ちょっと遊んで来やんなアカンで。

「まぁ明崎は少し大人しくしてろって思うけど」

「はぁっ!? 何でよ!」

「あーそれ俺も思うわ」

「やかましいわ! 俺にとってなぁ、遊ぶことは使命や! 炭水化物や!」

「驚きの意味不明さだわ」

「うわーキモいキモかったどうしよう須藤」

「楠臣。諦めろ、こいつもう手遅れだ」

「……何か、日に日に俺の扱い酷くなってへん?」

 なんてくだらない軽口を叩き合っていた、その時だった。

 不意に霧ヶ原が眉根を寄せる。

「……どしたん、キリオ君」

「笠原君――知らない車で横になってる。何で?」

 追体験をしたらしい。

 霧ヶ原は今みたいに突然過去を視ることがよくある。

「車ぁ? あの人そんな知り合いおらんで多分」

「ちょっと待って。何か……様子がおかしい」

 霧ヶ原の頭に入り込んできた笠原の記憶。

 普段なら余すことなく体験するはずの感情も身体の感触も視界も、グラグラと遠ざかったり近づいたりして、上手く掴めない。

 酔いそうだ。

 こういう時の原因は二つのケースがある。

 一つは向こうの意識が朦朧としているか、あるいは強い眠気に襲われている場合。もう一つは、とてつもなく強い感情に支配されている場合……例えば、 恐怖とか。

 恐らく後者だ。

「ぼやけてる。何だろう、何が――」

 霧ヶ原は言葉を途切れさせた。新たに別の記憶が滑り込んできたのだ。

「あ――」

 明崎にも、見えた。

 ……水の中だ。耳元でゴォオオ、と水の動く音が聞こえる。大量の水が海から飛び出した。

 高台の道路を走る真っ黒い車に向かって行く。

 大きな水の玉が大砲のように突っ込んでいく――笠原の姿が見えた。それと、突き付けられているナイフも見えた。


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