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 時刻、十八時二十七分。

 笠原はそのおおよそ二十分前まで、まだ行ったことのなかった街のエリアを当てもなく歩いて探索していた。今は帰り道の途中、海沿いの人気がない道路を歩いている。あと十分ほどで家には到着するだろう。

 それにしても、と笠原は思う。

 背中は見られる。明崎は自分と同じように水を操れて鱗まで持ってしまう。さらに笠原の周りには、似通った連中が集まっている。

 テレポートに追体験、身体が浮く、電気エネルギーを起こす……

 妙な状況になってしまった。一箇所に何人も笠原と同じような体質の人間がいて、しかも普通に生活している。

 呆然と突っ立ってしまうような驚愕の光景だった。今まで、こんなの自分だけだろうと思って、隠れて生きてきたのだから。


 片っぽ暴発したらもう片っぽが抑えるっていうの。 どう?


 今日言われた言葉を、心の中で反芻する。

 驚いた。まさかこの暴発を抑えられるかもしれないなんて。それならどれだけ安心できることか。

 なのに……明崎にまだ感謝の気持ちを伝えられていない。虚勢が染み付いてか、あるいは罪悪感か、たった一言言うのに酷く勇気がいるのだ。

「いかん……これでは」

 小さく溜息を吐いて、ぽつりと呟く。帰ったら、きちんと礼を言うのだ。

 そうしたら彼は、また笑ってくれるだろうか。

 やがて道が二つに別れた。一方に家の前を通る車道がある。そこへ足を踏み入れた。あともう少し。

 そういえば、今日の夕食をまだ何も考えていない。冷蔵庫に今あるのは、確か……

 後ろからゆっくりと車が追い抜く。

 ……不自然な程スピードを落としたそれが、急に止まった。

 笠原の、すぐそばで。

 その瞬間、冷たい危惧が背筋を走った。


 おかしい。何故そこに。


 咄嗟に逃げようとしたら、車のドアがスライドして開いた。中から男が飛び出し、襲いかかってくる。

 男は慣れた様子でTシャツの襟元を引っ掴み、腹に膝頭を勢い良く叩き込んだ。

「ぐっ……ぁ」

 重い衝撃を喰らって、息が詰まった。けれど痛みを感じたことで逆に必死になり、男の手から逃れようと笠原は抵抗する。

 しかしもう一人仲間が降りてきて、二人がかりで押さえ込んできた。男たちが何か言っているが、それが耳に届くことは無い。水を操れることすら忘れていた。

 今度は頬を思い切りぶたれ、視界がガクンと激しく揺れる。敵いようがなかった。あっという間に車へ引きずり込まれ、座席シートに身体を叩きつけられた。

 倒れる笠原にすかさず男がのしかかり、笠原の腕を後ろ手にまとめ、頭をシートに押し付けた。


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