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――キーンコーンカーンコーン
「うぉっ、もうそんな時間!」
「お前らさぁ……いい加減上がれよ」
ずっと蚊帳の外だった須藤はうんざりした顔でため息を吐く。
「何で俺を連れてきた」
「そりゃあこういう時の為の須藤君ですから?」
「このカスまじムカつく」
「とか言うても連れてってくれるやろ? 何だかんだ」
明崎のふざけた態度に再度ため息を吐く須藤。
「……とりあえず、笠原早く上がれ」
「あ、あぁ……」
促されて、笠原が先に上がる。続いて縁に手をかける明崎だったが――須藤の手が明崎に触れた。
「んぎゃっ」
ザブンッ!
次の瞬間、明崎は再び溜池の真ん中へ吹っ飛ばされていた。ぎょっとする笠原の隣で須藤が「はっ」と鼻で笑った。
「ちょっとは困れ」
須藤が笠原の肩に手を置く。それで笠原は思い出した。
そうだ、この人はテレポートを使えるのだ。
「じゃな」
呆然とする明崎の前から、二人が消えた。
「……わー」
服どーしよー。
途方に暮れた明崎の頭上で、授業開始のチャイムが鳴る。
「明崎は?」
「失踪しました」
「あ、そう」
伊里塚は相変わらずの気怠い態度で、明崎の失踪事件をあっさりスルーした。
「失踪しました」って……池に落としたのはアンタだろう。
須藤は何食わぬ顔で授業を受けている。無論、明崎を気にした様子は無い。
あの人……大丈夫だろうか。
今頃ずぶ濡れのままでどこか彷徨っているのでは――
ガラガラスパァーンッ!
物凄い音で前方の引き戸が開いた。クラス一同が仰天して凝視する中、ゼーゼー肩で息をする生徒が一人。
「お、出た」
数式を書いていた伊里塚は特に驚いていない。
「やーすんません、伊里塚君……。ちょっと、池に、落ちまして」
明崎だった。
「嘘吐け。服も髪も濡れてねぇじゃねぇか」
伊里塚の言った通り、制服も髪もしっかり乾いている。
なるほど。
明崎は近くまで来てから、笠原の能力を使って水を全部取り払ったのだろう。本当にちゃんと使いこなせるのだな、と思わず場違いな感心をしてしまう。
「え……あぁー!」
一方明崎は指摘されてハッとした様子で髪を触ってから――絶叫。叫びながら髪を掻き回す姿は、傍から見るとただの馬鹿である。
「しまった。くぅーっ!」
「何が『しまった。くぅーっ!』だ、バーカ」
宿題、追加な。
伊里塚が一言言うと、明崎は灰と化した。
「須藤、後で覚えとけ」
「ざまぁー」
忌々しげな顔を作ってすれ違う明崎に、須藤がまた意地悪く鼻で笑った。




