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2

 水色っぽい視界の中。鮮やかな朱色の金魚や黒い鯉が散り散りに端へ逃げた。水面で砕けた太陽の光がチラチラとさざめいて、魚の細長いシルエットがその間をすり抜ける。

 明崎と共に雪崩れ込んだ大量の泡が、巻き戻し再生するかのように地上へ逆流していった。その中心で体勢を整えた明崎は、笠原の姿を認めると、自分も魚のように力強く下へ潜る。

 笠原はただ呆然と見上げている。

 彼は目の前まですぐやって来た。降り立つと、スッと手を差し出される。訳が分からず、明崎とその手を交互に見ていると、無言で手首を掴まれて上に引っ張られた。

 連れ帰ろうとしているのだ。

 ……そう分かったけれど、抵抗はしなかった。

 明崎相手には無駄な気がしたから。笠原の身体が水底から離れる。

 そうしたら、後は明崎に身を任せるだけ。



「……ぷっは! ――殿! 新手のニートをひっ捕らえて参りましたっ!」

「うむ。よくやったぞ明崎。褒めてつかわす」

「はっ! 光栄至極にございます、殿!」

 水から顔を出すなり、このノリツッコミ。どうして戦国設定なんだ。そして新手のニートって、なんだ。

「……で、新手のニートって何」

 それは須藤にも同じことだったらしい。

「聞いてや須藤くん! この人水中の隅っこで体育座りしとってんで」

「あー、確かにニートだな。新手の」

「水中型ニートで何か流行らんかなー。オモロいわー。イデッ」

 明崎がそう言ってケタケタ笑うので、笠原は背後から後頭部にスコンと手刀を落とした。

「……失礼な」

「イッテェー。ってか俺ん中で君ニートやからな!」

「はぁっ!?」

「人間関係に消極的やしー、人避けるしー、行動起こさへんしー、とどめに溜池の底で体育座りやで? これを新型ニート言わずに何て言うんよ」

「こいつっ」

 ムカついた。

 すると笠原の回りに拳程度の水の玉が何個も浮かび上がってきた。

「げっ」

 明崎が思わず身を引くと、

 ひゅんっ、びしゃっ!

 顔に水玉が勢いよくぶつかった。

「うぶっ、こいつ! 実力行使しよる! ニートの癖に!」

 水を取っ払い、ニヤリと笑った明崎の周りにも全く同じ様な水玉が浮かんだ。そのうちの一個が笠原に飛んでいったが、笠原は自分の所の水玉を投げて打ち消してしまった。

「アンタ本当に失礼な奴だな!」

「ほんだらここに潜るのやめや」

「俺の勝手だろう!」

「ほらそれがニートやねんて。何でそこまでして意地張んの? 別にええやん、誰かとおっても。飯かて俺らんとこで食うたらええのに」

「だから、」

「はいはい水がどうとか言いたいねんやろ? それ言うたらキリ無いから。俺の知ってる喧嘩っ早い不良君とか陰険なチワワ君の方が、周りに迷惑掛けてるわ自分悪くないわ俺も須藤もキリオ君も奔走するわでよっぽどタチ悪いで。君の方がまだ許せるわ。事情かてちゃんと知ってるし……むしろ俺と一緒におった方が暴発せえへんのちゃうんかな?」

「……どういうことだ?」

「ほら、俺も一緒にいる間は水操れるし。片っぽ暴発したらもう片っぽが抑えるっていうの。どう?」

 明崎は笑みを浮かべて首を傾げた。

 あ……

 笠原の中で、パチンと泡が弾けたように何かが消えた。


 可能、ではないだろうか。


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