迎えにきたよ
園芸部のスペースがある裏庭の溜池。
鯉や金魚が悠々と泳ぐそこは、魚がよく見えるようにと底に濾過装置が設置されており、ある程度の清潔さと透明さを維持している。
そして濾過装置は水深五メートルの底に置いてあり、笠原もまたその隣に潜んでいた。
緩くちゃの黒髪がゆらゆらと揺蕩っている。
以前探索に来て見つけて以来、最近はここが根城となっていた。独りで考え事がしたい時には、この場所が大いに役立つ。ただ単に、集団の中に身を置きたくないというのもあるが。
水の中は、落ち着く。騒々しい地上とは違って、ここは静かだ。耳を澄ませば水の流れが聞こえる。鼓動が聞こえる。
水の生きる音が全身を包み込む。それに安心するのだ。
本当の居場所はここなのではないだろうか。ここなら一人でも、ずっと生きていられる。
もうこのまま、静かにいられるなら――
笠原は閉じていた瞼を上げ、水面を見上げる。太陽の光が砕け散ったようにチラチラと輝いて、目に眩しい。
俺があの場所にいていいのだろうか……
誰かそばにいて欲しい訳じゃない。独りはもう慣れている。
――でも、苦しくない訳ではないのだ。
できるならそう、背中の鱗にも水にも怯えること無く、普通に過ごしたい。池上の言う権力も金もいらない。笠原が望むのは平穏な日々、それだけである。
明崎や須藤は事情を知った上で、笠原を迎えてくれた。
とても嬉しいことだが、それに甘えていいのか。不安になる。
平穏な日々は確かに望んではいる。けれど、彼らにとっての平穏を笠原が壊してしまうかもしれないのだ。彼らを傷つけたくない。彼らのような温かい人たちだからこそ、自分は離れるべきなのではないだろうか。
ツキン、と胸が痛む。それをやり過ごすように笠原は目を閉じ、体育座りした膝に顔を埋めた。
その時だった。
水がみよーん、と伸びる感覚を捉えた。
「!?」
な、何だ!
ガバッと真上を見上げると、本当に水が引っ張られている。そして、声が。
「おる。おるわ」
「え、お前入んの」
「しゃあないやん。聞こえてるかも分からんし」
明崎と須藤の声だ。でもどうして。
そんなことを思っている間に、ザブンッと明崎が飛び込んできた。




