明崎が飛ぶ
「……あれから脈ナシか」
「な〜んか怖がられてる気がする〜」
「明崎に襲われるって思ったんじゃない?」
「むしろ俺が襲われてましたがね」
明るい兆しを見た……気がした明崎であったが、今やその光は弱弱しくなって消え去ろうとしている。
今日であれから三日。
笠原が寄って来ない。というか、いつものように避けられている気が……。
「甘かったか」
「甘かないわ阿呆! 自分どんだけ死ぬ思いしたと思ってんねん!」
「まぁあの死闘はねぇ……」
相変わらず他人事な須藤と、遠い目で笑う霧ヶ原。霧ヶ原も間接的な手段で事態を把握している。と、言うのも。
「あ、見たん?」
「勝手に見えた。明崎が笠原君笠原君うるさいせいでね」
霧ヶ原もセカンド・チャイルドなのだ。
彼が持つ能力は追体験と呼ばれるもので、過去の出来事、記憶をまるでその場にいるかのように体験してしまう。
痛みも恐怖もそのままにパノラマ再生でトラウマ要素満載である。
「もう放っといたら? どうせここから出たくなくなるって」
「それやねんあの人が怖がってるん」
「……というと?」
「暴発が怖いらしい」
「ははぁ……」
合点がいって霧ヶ原が頷く。
「それで周りに人寄せ付けない訳。よく生きてるね〜そんなんで」
「かくいうキリオ君の方がよっぽど殺人マシーンやと思うで」
「自分でもそうだと思う」
うわっ、さらっと肯定した。と明崎と須藤はドン引いた。
「……で、ところでさぁ」
霧ヶ原が不意に足を止め、窓を見る。
「あっちにいるのって笠原君じゃない?」
「あっち」とは対岸の渡り廊下のこと。例に漏れずガラス張りのため丸見えだ。
二人は「ん?」と見遣り――仰天した顔で明崎がガラスに張り付いた。
「アイツら何してんねん……!」
向こうの廊下で笠原と――何故か会長の取り巻きズが対面していた。
「俺と生徒会長の問題だ。アンタらには関係のないことだろう」
笠原は知らない五人の生徒に声をかけられ、どういう訳か因縁をつけられていた。話を聞く限り、彼らは生徒会長の取り巻きらしく。
「分かってないなら教えてやるよ転校生。俺はその態度が気に食わねぇ。あ? テメェは誰にでもそうなのか。『アンタ等ニハ関係無イダロ』とか偉そうに。でも寂しいよなぁ、一人は」
ご丁寧に馬鹿にした口真似までして、後ろにいるメンバーもクツクツ笑っている。一瞬カッとして口を開きそうになったが、馬鹿馬鹿しくなってやめた。
……言わせたいだけ言わせるしかないのだろうか。




