3
「何故あの人が?」
「あの人も研究所の人やで。観察員っていうて、俺らの面倒とか能力の経過とか見てくれてんねん」
だから転校当初から接点があったのか、と笠原は納得する。
「伊里塚君、面倒臭がりやけどめっちゃええ人やからさ。よかったな、こっちきて」
「……本当によかったのか?」
嫌な予感は拭えない。明崎にあんな事をしてしまった後では。
「そーゆーことにしときよ。あんまええ方には考えとらんみたいやけど、それを決めるのは後やで」
「そう、か」
明崎は気持ち悪がらない。
本当のところどう思っているのか分からないが、それでも笠原の中で救いになった。
……しばらくは、もう何事も起きないと。できればそう信じたい。
「心配しとってもしゃあないよ」
「あぁ……」
その通り、だな。笠原はぽつりと思った。
彼の顔に柔らかさが戻る。その様子を見て、明崎もホッと胸を撫で下ろした。
これで、少し考え直してくれたらええんやけど。
「……ところで」
「ん?」
「コピー能力といったか? アンタの……その力」
およ。この無口な美少年から質問が来るとは。
お喋りしようサインと見ていいんちゃいますのん、これ。
「うん。何でできるんかはよう分からんけど……とにかく、相手の身体的な性質を俺も持つことができんねん。結構オモロイで。便利やし。ただ、半径十メートル以内にその相手がおらんと使えんし、遠かったら遠い程薄れてく」
「というと、さっきのリモコンは?」
ほら、返ってきた。
「あれは須藤のテレポートを使ってんねんけど、アイツ二階におるやろ。せやからちょうどテレビ台の距離までしか動かせへんねん。そばにおったら身体ごと一瞬で街でも学校でも行けんねんけどな? すごいであいつ。それと笠原の鱗。あれも君から十メートル離れたら消えるわ」
「それじゃあ、今も」
「あるある」
「コピーしたい時にできるのか?」
「や、勝手になんねん」
「それは……その、絶対に離れないと鱗は消えないと?」
「まーそうなるわな」
笠原の表情が一気に曇った。
あ、やっべ……! 明崎は慌てて手を振った。
「いやいや、気にせんといてや! ってかあれホンマに綺麗やったから」
「綺麗って……あまり気を遣うな」
どうせ気持ち悪いのだから……という声が聞こえそうなくらい、笠原の表情がさらに暗くなる。
ああああかんあかんあかんっ!
せっかく心開きかけてきたのに!
ここで無に帰す訳にはぁっ!
焦る明崎のトークはどんどん加速していく。




