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2

「見ててや」

 それからテーブルに身を乗り出して、おもむろにテレビのリモコンを掴んだ。

 次の瞬間。


 パッと、リモコンが消えた。魔法のように。


「――!?」

「オモロイやろ?」

 びっくりして目を白黒させる笠原に、明崎が楽しげに笑ってみせる。

「リモコンはテレビ台の上やで」

「……あ」

 本当だ。信じられないことに、テレビ台の上にリモコンがあった。明崎の手は先ほどリモコンがあった所から一ミリも動いていない。投げた訳じゃないのは分かる。

 でも、何が起きた――?

「これは須藤の能力。テレポートってヤツやな。ほんで、」

 これが笠原さんの能力。と、明崎が言うと、彼のコップのウーロン茶が歪な球体になって、ゆっくりと縁から顔をせり出す。

 そうだ。確かに笠原は水を操れるから、液体を宙に浮かばすこともできる。

 明崎は胸元まで持ってきたウーロン茶をグニャグニャと星形やハート形に変えて遊んでいる。

「コピーできんねん、君らの能力を。――これが俺の能力」

「コピー……?」

 段々、現実離れしてきている。

 笠原も言えた義理ではないが――テレポート? コピー?

 ……能力?

 まるでファンタジーのようだ。

 それに、須藤さんも――?

「ちょっと……整理してもいいか? つまりその、明崎さんも須藤さんも……俺もアンタの言う『能力』持ちで、他にも何人かいると。……この学校に集められているのか? 何の目的で?」

「観察対象やねん。俺ら」

「は?」

 観察対象って。

「あー……心配せんでも、変な人体実験とかはされてへんよ。何かよう分からん簡単なテストはするけど。俺たちの力が何かしらの役に立たないかって研究されてんねん。――俺らは、研究員の人らに〈セカンド・チャイルド〉って呼ばれとる」

 要は超能力者っちゅーことやんな。

 いよいよスケールはSF映画級になりつつある。話の展開に追いつくので精一杯だ。

「セカンド・チャイルド……」

 呼称までそれらしい。

「――あ」

 ……思い出した。この学校に転校を決めた理由。

 前の学校では背中を見られて、大変な騒ぎになったのだ。

 そこへ図ったようなタイミングで、波江高校のパンフレットが届き、笠原はそれに縋ったのである。

 全寮制で、成績優秀者は特待生として授業料も寮の管理費も免除。笠原は前の学校でも特待生制度を利用していたので、その辺は充分クリアできる。

 転校しようと、すぐ決めた。

 ……ただ、今思うと入学シーズンが終わった直後にパンフレットが来るなんて、おかしな話なのだ。

 けれど、その時の笠原に余裕はなかった。

 化け物扱いされ、笠原が姿を現すだけで悲鳴が上がり、面白半分の虐めを受けるようになってしまっていたから。

 苦痛しかないその学校にいたい訳がなかった。

 騒ぎが騒ぎだっただけに、担任も校長もあっという間に転校の段取りを組んでしまった。後から何かしら考える間もなくトントン拍子に話は進み、そして今に至るのだが……誰かが、笠原の情報を波江高校に流したとしか思えない。

「研究所の人らが聞きつけたんやろなぁ」

 話したら明崎はそう答えた。

「紹介状、伊里塚君の名前で来てへんかった?」

「……そういえば」

 頷きかけて、はたと気づく。何故あの教師も関係するのだろう。


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