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「見ててや」
それからテーブルに身を乗り出して、おもむろにテレビのリモコンを掴んだ。
次の瞬間。
パッと、リモコンが消えた。魔法のように。
「――!?」
「オモロイやろ?」
びっくりして目を白黒させる笠原に、明崎が楽しげに笑ってみせる。
「リモコンはテレビ台の上やで」
「……あ」
本当だ。信じられないことに、テレビ台の上にリモコンがあった。明崎の手は先ほどリモコンがあった所から一ミリも動いていない。投げた訳じゃないのは分かる。
でも、何が起きた――?
「これは須藤の能力。テレポートってヤツやな。ほんで、」
これが笠原さんの能力。と、明崎が言うと、彼のコップのウーロン茶が歪な球体になって、ゆっくりと縁から顔をせり出す。
そうだ。確かに笠原は水を操れるから、液体を宙に浮かばすこともできる。
明崎は胸元まで持ってきたウーロン茶をグニャグニャと星形やハート形に変えて遊んでいる。
「コピーできんねん、君らの能力を。――これが俺の能力」
「コピー……?」
段々、現実離れしてきている。
笠原も言えた義理ではないが――テレポート? コピー?
……能力?
まるでファンタジーのようだ。
それに、須藤さんも――?
「ちょっと……整理してもいいか? つまりその、明崎さんも須藤さんも……俺もアンタの言う『能力』持ちで、他にも何人かいると。……この学校に集められているのか? 何の目的で?」
「観察対象やねん。俺ら」
「は?」
観察対象って。
「あー……心配せんでも、変な人体実験とかはされてへんよ。何かよう分からん簡単なテストはするけど。俺たちの力が何かしらの役に立たないかって研究されてんねん。――俺らは、研究員の人らに〈セカンド・チャイルド〉って呼ばれとる」
要は超能力者っちゅーことやんな。
いよいよスケールはSF映画級になりつつある。話の展開に追いつくので精一杯だ。
「セカンド・チャイルド……」
呼称までそれらしい。
「――あ」
……思い出した。この学校に転校を決めた理由。
前の学校では背中を見られて、大変な騒ぎになったのだ。
そこへ図ったようなタイミングで、波江高校のパンフレットが届き、笠原はそれに縋ったのである。
全寮制で、成績優秀者は特待生として授業料も寮の管理費も免除。笠原は前の学校でも特待生制度を利用していたので、その辺は充分クリアできる。
転校しようと、すぐ決めた。
……ただ、今思うと入学シーズンが終わった直後にパンフレットが来るなんて、おかしな話なのだ。
けれど、その時の笠原に余裕はなかった。
化け物扱いされ、笠原が姿を現すだけで悲鳴が上がり、面白半分の虐めを受けるようになってしまっていたから。
苦痛しかないその学校にいたい訳がなかった。
騒ぎが騒ぎだっただけに、担任も校長もあっという間に転校の段取りを組んでしまった。後から何かしら考える間もなくトントン拍子に話は進み、そして今に至るのだが……誰かが、笠原の情報を波江高校に流したとしか思えない。
「研究所の人らが聞きつけたんやろなぁ」
話したら明崎はそう答えた。
「紹介状、伊里塚君の名前で来てへんかった?」
「……そういえば」
頷きかけて、はたと気づく。何故あの教師も関係するのだろう。




