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4

「うぁっ――」

 湯の大玉が跳ね返り、なんと笠原を呑み込んだ。

「……っ…」

 驚く間もなく顔が水面に上がる。笠原は顔の水を振り払って目を開けた。――愕然とした。

 自分が、水に捕らえられている。

 何故――

「もぉー……ホ〜ンマびっくりした。めっちゃビビったって……」

 そこへ半ば脱力した関西弁の独り言。はっとして正面を見ると、明崎はもう水に取り込まれておらず、床にへたぁ……っと座り込んでいた。ただし別に身体がどうという訳でもないようで、すぐにけろっとした様子で立ち上がった。

「アンタッ……一体」

「笠原さん全然話聞いてくれへんからさぁ。そんな攻撃してくることないやんか」

「だからアンタ、一体なんなのだ!」

 くそっ……と毒づきながら、水の拘束から逃れようとする笠原だが、全く思うようにいかない。

 しかし次の言葉を聞いて、笠原はピタリと抵抗をやめることになった。

「そもそも君だけちゃうねんで、そーゆー体質」

「……え」

「見せたろか」

 と言って、明崎は突然Tシャツを肩まで大きく捲り、こちらに背中を向けた。

 笠原の表情が凍りつく。

 なんと明崎の背中にも全く同じ鱗が、肩から肩甲骨にかけて広がっていたのだ――

「……や、そんな深刻なモンちゃうで。離れたら消えるし」

 向き直った明崎は、笠原の表情を見て苦笑した。

「笠原さんと俺は同類っちゅーこと。ただ形が違うだけ」

 言いながら水の大玉から笠原を解放してやる。するりと床に降ろされた笠原は膝を着き、呆然として明崎を見ている。

 水は従順な飼い犬のように大人しく浴室へ帰って行った。

「……ひとまず向こうで話す? その方が落ち着いて聞けるやろ」

 Tシャツを着直しながら明崎は「服着ぃや」と笠原を促す。

「風邪引くで。パンツ一丁とか」

 言われて笠原は自分の格好を思い出した。だが……どうでもよくなってきている。一体何なのだ、これは。言葉が浮かばない。

 しかし服を着なければ何も始まらないので、のろのろと床に落ちた服を拾い上げた。

「笠原さん」

 顔を上げると、明崎はまたTシャツを捲り上げて、鏡に写った背中を見ていた。彼の動きに合わせて、銀翠色の鱗がチラチラとさざ波の如く輝いた。

「これ、綺麗やと思うで」

 思いがけない言葉に面食らった笠原は、すぐに返事ができなかった。

 明崎は軽快な足取りでリビングへ行ってしまう。残された笠原も今度は慌てて服を着て、後を追った。


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