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発覚



 ……もうー無理やって。無理やってぇ。

 スマホの画面を待ち受けに戻して、明崎は布団に突っ伏した。

 あかん。全っ然浮かばん。どうしよー……。

 溜息しか出てこなかった。

 あれに一体どうしろと。不可能やろ。

 明崎はそれなりに努力したのである。学校でも積極的に声をかけてみたり、わざわざファーストフードを持ち帰って笠原と夕食を共にしようとしてみたり……

 どれも不発に終わった。

 明崎だけならまだしも、笠原は本当に誰とも関わろうとしない。何が楽しくて毎日過ごしてんねんやろ……という思いで毎度その背中を見送った。

 そもそも俺が「迷惑」って言われとるしなぁ……

「……寝よ」

 起き上がって、自室を出た。

 まだ二〇時だが、今幾ら考えたところで何も思いつきもしないだろう。ただでさえ、頭の中で「アンタ迷惑極まりない奴だな」がぐるぐる回っているのだ。

 うわぁあああ何かヤダもう俺死にたい。

 とりあえず歯ぁ磨いたら、ちょっとはマシになるかな。

 そういや歯磨き粉何味やったけ。せや、漢の塩味やん。そろそろ無くなるんちゃうかったっけ。新しいの買わんな。

 次何にしよっかな。ゴールデンパイン味とか無かったっけ。それにしよ。

 うん、うんうん……。


 ――アンタ迷惑極まりない奴だな。


 ひぃぃぃっ。

 残念ながら笠原の声は消えない。相当なダメージである。

 もう嫌や……。寝るのが一番だわ。

 渋い顔で、洗面所と浴室に繋がるドアのノブに手をかけた。

 ――開けたら、ちょうど浴室から出てきたらしい笠原の背中が見えた。



 そう。

 背中が、見えた――



 笠原が弾かれたように振り向いた。

 背中が半ば見える姿勢のまま、頭から冷水を浴びせられたような顔で明崎を凝視している。

 一方の明崎は言葉を失った。


 何だ、

 あれは一体、何だ――


 笠原の表情が、ゆっくりと消えていった。後には冷たく、張りつめた気配が残った。

 ――笠原が口を開いた。

「……気持ちが悪い。だろう?」

 その声から感情は見えない。明崎は何も言えず、ただ凝視している。


 その背中は、ぬめった光沢を放つ鱗にびっしりと覆われていた。


 楕円形の親指の爪ほどの大きさで、銀色と緑色が混ざった色である。ぬめって見えたのは背中が濡れていたからで、まもなく表面の水がじわりと鱗に吸い込まれて消えた。

 すると、鱗は玉虫の羽のような硬い光沢を見せるようになった。

「……笠原、」

「どうしてアンタたちと関わろうとしなかったのか。……これで分かっただろ」

 笠原は、バスタオルを肩から羽織って背中を隠した。

「……そこ、どいてはくれないか」

 籠から服をまとめて取り出しながら言う。声が冷え切っている。

 そこで我に帰った明崎は足を一歩踏み出した。

「待って、」

「寄るな!」

 鋭く叫ばれた瞬間、明崎は何かが風呂から飛び出したのを見た。大きな何かが弾丸の如く迫って、あっと思った時には呑み込まれていた。


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