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「あの……さぁ」

 明崎の声から立ち昇る苛立ち。

「こっち来てからずっとそれやけど……何なん? 何がそんなに嫌なん?」

 とうとう、怒り出した。

 やっとか……。そんな冷めた思いで明崎を見返す笠原。

「そら君がそんな喋らん性格なのは分かっとるけど……返し方ぐらいもうちょいなんとかならん? さすがに気分悪いわ」

「俺はずっと、アンタらと関わるつもりはないと態度でも示していたはずだが」

「……なんやそれ」

 明崎の声音がさらに低くなった。

「そんな嫌われたいの?」

「嫌なら関わらなければいい。俺からもアンタらに近づくつもりは無い」

「だからそーゆー訳にいかんやん。同居してんねんから」

「同居しているから、何だ? 同居しているからといって馴れ合う義務はないのだろう? ……そうやって他人に自分を押し付けるのか。アンタ迷惑極まりない奴だな」

 我ながら容赦ない切り返しをしたものだ。

 明崎が口を噤む。そして追い越すように先へ行ってしまう。

 もう知らない、勝手にしろ。そう言われた気がした。

 怒って当たり前だ。嫌われるつもりでずっとこの態度を取っていたのだから。むしろ、今までよく怒らず話しかけてきたものだ、と感心したくらいである。

 ……慣れたもんだな、追い返すことに。

 段々遠ざかる明崎の背中を見て、胸の奥で一瞬、虚無感が揺らめいた。気づいたけれど、見て見ぬ振りをした。

 ……ああ、水に触りたい。



 〈LIMEにて〉

明崎:しっつもーん!

伊里塚:どうした

明崎:笠原クンのあの誰も寄せ付けへん感じって、何なん? あれホンマ何なん? 何で俺をこんな怒らすのん?

伊里塚:何だ、ギブアップか

明崎:無理ですお手上げです

伊里塚:頼んだ俺が言うのもなんだが、お前はよくやってると思うわ。いやー、まさかお前に匙投げさせようとするとは……あの侍君、ツワモノだな

明崎:ホンマ他人事やなー! 皆薄情過ぎやせえへんか

明崎:何であんな人間不信みたいなことなってるん? イジメにでも遭っとったん?

伊里塚:あー、それは当たりだわ

明崎:えっ

明崎:あ…あー…。

明崎:適当に言うたつもりが当ててもうたー。うわー笠原さんごめん、何かごめん

伊里塚:ホントだぞ全く。デリカシーの無いヤツは嫌われんぞ

明崎:ギクッ…!

明崎:で、何でいじめられとったん?

伊里塚:言ったそばから……。察しろ

明崎:…察し……?(・ω・)

明崎:あ、そゆことね。OK察した

伊里塚:可哀想な話だがな

明崎:せやけど……ん? そんな見られて嫌われるモンってあるん?

伊里塚:あるからそーゆーことになったんだろ

明崎:んー……

伊里塚:俺も正確に把握してる訳じゃないからな。引き続き探ってみてくれ。俺が直接聞いたところで警戒されるだけだしな

明崎:気安く言うてくれとるけど、こっちかてボロっボロやからね? 日に日に好感度落ちてくのが手に取るように分かるっていうこの辛さ分かる?

伊里塚:お互い下がり切ってんなら、むしろ怖い物ナシだろ。あとは上がる一方だ

明崎:いやいや一回嫌われたら無理やろ、もう絶対無理やって!

明崎:ホンマ辛いねんでこれ! ハートがゴリゴリ削れてってるの自分で分かるもん!

明崎:あれ? 伊里塚くーん?

明崎:もしもーし

明崎:おーい

明崎:おーーい!

明崎:…逃げられた




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