3週間後・笠原の帰り道
……疲れた。
足早に学校を出て、笠原は肩の力が抜けるのを感じた。
あの様子では追って来そうな気がして、ちょっと怖かったのだ。そのせいで身体の緊張が解けなかった。
とにかく放っといて欲しかった。笠原が望むことは、ただそれだけなのに。
笠原は呆れの滲む表情で空を見上げた。
……いっそ雲になりたい。
笠原の歩みが、少しずつゆっくりになっていく。
それにしても、高校生の分際で「力」や「手を組む」などという言葉が出るとは。それは親の力ではないのか、と思わず突っ込みそうになってしまった。身の程知らずも良いところだ。
それに池上の言う力とか金だとかそういうものに興味は無い。
……早く帰ろう。海に、行きたい。
「笠原さーん!」
その時、すごく聞き覚えのある声が後ろから飛んできた。振り返ると、明崎がこちらに走って来るところだった。何故か焦っている。
「明崎、さん……?」
「無事!? 何もされてない?」
追いつくなり突然妙なことを聞いてきた。誰かと――恐らく会長と何かがあった、という前提の質問である。
何故知っているのだ、と首を傾げつつ質問には答えた。
「……特には」
「ホンマに? 良かったぁー」
補佐にならないかという誘いはあったが、言わないでおこう。
「会長から何か変なお誘いあっても絶対乗らんといてや、ってキリオ君と俺からの伝言」
と思った矢先に警告された。
「気ィつけや。会長色んな意味で怖いから」
「分かった」
断って正解だったらしい。心配されずともあんな誘い、絶対乗らない。
「――あ」
明崎が声を上げる。
「そういや一緒に帰んの初めてなんちゃうん?」
「……確かに」
ずっと避けていたからな。
「普段さ、家帰って何してはんの?」
「……別に。言う程のことは」
「今日飯一緒に食わん? たまには喋ろうや」
「結構」
「………―――」
隣で言葉が途絶えた。




