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3週間後・会長の放課後



 ガチャリ、とドアの開く音が聞こえて霧ヶ原が顔を上げると、益田が購買で買ったであろう総菜パン片手に帰ってきたところだった。目が合うなり、早速テスト結果を報告された。

「霧ヶ原さぁ、転校生に抜かれてたじゃん」

「あーうん、知ってるー」

 さっき須藤から連絡を貰ったが、本気でギャグかと思った。

「七〇〇点満点とか初めて見たし」

「もっと恐ろしいのが明崎も一緒に取ってるトコなんだよねー」

「やっぱカンニング?」

「距離的に無理かな」

 別の方法でやれないことはないけど。

「ふぅーん……。でさぁ、」

 じぃーーー。

「あの人は何やってるわけ」

「さぁ……」

 そして二人が目を遣った先では。

 我らが生徒会長・池上(いけがみ) 海斗(かいと)が生徒会室の窓に張りついていた。

 かれこれ十分近く、その鋭くも美しい紅い双眸で熱心に眺めている。

 何を。

 現在、失踪真っ最中の笠原を。

 笠原は手に下げ持った風呂敷片手に、きょろきょろと辺りを見回している。転校して三週間、未だ笠原の周りは野次馬が取り囲んでおり、最近ではもう告白もされたらしいと噂が立っている。

 恐らく一人落ち着いて食事できる場所を探しているのだろう。

「……おい。楠臣」

「何」

 池上の紅い目が霧ヶ原に向けられた。

 身長は一八一センチ。黒髪はワックスで固めてあり、左耳には小さく赤いピアス。逆三角形の引き締まった体つきに、彫刻のように美しく整った顔は、日に焼けて彫りも深く、一層男らしさを滲み出している。

 そんな美しい外見と普段から傲岸不遜な性格が絶妙にマッチした俺様キャラが非常に受け、今では親衛隊なる大勢のファンが背後に控えている。

 ただでさえ派手派手しいのがバックの効果で一層煌びやかになり、池上は俺様オーラをそこら中にばら撒き放題の大盤振る舞いである(霧ヶ原は毎回鼻で笑っているが)。

「あの転校生、生徒会に入れたい」

「ふーん……えぇっ!?」

 霧ヶ原の手からバタンッとタブレットが落ちる。……何て?

「あいつ……中々面白そうだ」

「ええっと……明崎の方がよっぽど面白いと思うけど」

「いいや。俺の目に狂いはない」

 その親衛隊から今日届いたメールによれば、テストでなんとあの霧ヶ原を飛び越え、七〇〇点満点を叩き出したそうではないか(明崎? そんなふざけた関西人は知らん)。

 加えてあの無駄の無い、それでいて女のような美しい顔立ち。

 それにちらりと聞いただけだが、古風な話し方をして――意志の強い目をしていた。武士のようだ。忘れられない。再び笠原に意識を戻した池上。しかし今時風呂敷とは……朱色か、粋だな。

 笠原に注がれる紅い紅い、鋭い双眸。――言わずもがな、カラコンである。

 その後ろで霧ヶ原はメッセージを送信した。

『危険。池上が笠原君ロックオン』

 もちろん、明崎宛だ。



「あれガチなん?」

 放課後、明崎は生徒会室を訪れた。無論あのメッセージについてである。

「ホントだよ。ったく……せっかく明崎勧めといたのに」

「おーい。俺に拒否権は?」

 すでに話の齟齬が生じている気がする。

「鳥潟じゃなくて良かったー」

「結局そっちが本音やんな? な!?」

「あったり前でしょー。鳥潟の為なら明崎の一人や二人くれてやるよ」

「おーい。俺の人権は?」

 にわかには信じがたいことを目の前で話されている気がする。

「でもこのまんまじゃ笠原君、ベッドに連れ込まれるよ」

「あかんそれヤバい! 俺が伊里塚君に殺される!」

「だからなんとかして諦めさせたいんだけど……良い手ない?」

「奏女王をベッドに連れ込んでくれたらホンマ手っ取り早いんやけどなぁ……」

「あーあ、池上が殺される。ホントにそうなってくんないかな」

「キリオ君。さっきから自分手ェ汚さんとやる方法ばっか考えてません?」

「もちろん。だからこその明崎だよ」

「キリオ君がクズ過ぎて辛い」

 泣きたい。

「ところで明崎」

「……何や」

「池上どこ行ったか知らない?」

「………」

 え、うっそ……

 マジかぁああああっ!



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