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「つー訳で明崎の出番なんだな。なるほど理解した」
「『理解した』ちゃうで他人事みたいな顔しよって! 君らかて同類やんか!」
「そりゃあ同類だけど……生徒会だし? 忙しいし?」
「俺も風紀委員だし? 同じく忙しいし?」
「どうるい?」
「柳田、食わねぇんなら俺食うぞ」
「うわーやめろ近づくな!」
食べかけの親子丼を挟んでの須藤と柳田の攻防を遠い目で見ながら、明崎は「で、」と話を続ける。
「しょっちゅう駆り出されとる俺はどうなん」
「しょっちゅうって言っても、本業の僕たちよりは空いてるでしょ」
「楠臣の言う通りだ。何だかんだ暇なのは明崎の方だろ」
「あかんわ。この人ら全っ然やる気無いわ」
明崎は協力を仰ぐことを早々に諦めた。なんか今日色んなこと諦めとるわー、俺……
須藤の顔面を手のひらで押さえつけることにより親子丼攻防を制した柳田が、気遣わしげに声をかけてきた。
「なんか明崎大変そうだな……。俺もなるべく気にかけとくな」
「柳田ぁ……ぅわぁああ! そんなん言うてくれるん君だけやー!」
「部活あるからあまり手助けできねぇかもだけど」
「そんでもええよその心が嬉しい!」
感極まって思わず抱きついたら、柳田は「よしよし」と頭を撫でてくれた。ホンマ柳田好きやわー、何やこの人天使か。
しみじみ柳田の存在に感動していた、その時。
「おい。明崎」
地を這うような、低い声が、した……。
こ、これはもしや……殺気というやつ……?
恐る恐る振り返ると、柳田の手をどけながら須藤が白けた笑みを浮かべて、人差し指と中指で手招きしていた。
「ちょっと面貸せや」
あああ、しまったぁーーーーっ!
その後柳田が「明崎苛めたらもう一緒に飯食わない」と言った途端、須藤は「スマンらしくもなく嫉妬した俺が悪かったこの通り許してくれ頼む」と掌を返したように謝ってきた。……とてつもなく腑に落ちない。
しかしながら無事昼食を摂れた明崎は、須藤とともに予鈴ギリギリに教室へ戻った。
「あ、おる」
「そりゃこの時間には戻るだろ」
笠原は何事もなかったように席に着いていて、明崎は思わず渋い表情を浮かべた。今までどこにおったんや。
「無駄足だったな」
「ホンマやで」
自分の席に座ろうとする明崎の手が、次の授業で使う資料を取るためスクールバッグを探る。と――
おろ?
「なんかアメちゃん一杯あるー」
「何で飴なんか持ってんだよ」
「いる?」
「いらん」
十数個も底に転がっている。定番のミルク味・レモン味からクリームブリュレ味・ラズベリーフロマージュ味……うへぇ、味噌味まである。
いつのまに。誰から貰ったん、こんなん。
明崎はその中から三個拾い上げると、そのまま笠原の席へ向かった。
「笠原さ〜ん」
人懐っこい笑みを浮かべて近づくと、笠原はやや警戒した面持ちで身を硬くする。防御の姿勢。さらに眼差しまでもが鋭くなった。
「………」
「………」
めっちゃ警戒されとるがな。何なんもう、アメちゃんあげるだけやん!
笑顔が引き攣りそうになりながらも、明崎は手を差し出す。
「………?」
「アメちゃん」
「え……」
虚を突かれた笠原の前に、飴玉を三つ置いた。
抹茶ラテ味・みたらし味・味噌味。笠原武士っぽいからな〜、と選んだ組み合わせである。
「あげる。じゃね」
それだけでさっさと席に戻ってしまった明崎。それを笠原は困惑気味の顔で見送った。
「……飴渡すためだけに行ったのかよ」
「こんないらんもん。何、やっぱ欲しかったん?」
「いらん」
明崎は適当に取った飴の封を開け、口に放り込んだ。……うわっ、黒糖や。
――しばらくして、休み時間に笠原が味噌味の飴を食べたところを明崎は目撃した。




