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「用事あるか」
「や、特には……」
「どっか行こうぜ。俺土曜空いてっし」
「マジで? 行くか!」
柳田がパァッと、まるでヒマワリが咲いたみたいに笑った。
――須藤は勢い余って舐めていた氷をガキンッ、と噛み砕く。
「ど……どこ行きたい?」
「どこでも良いぞ。お前とだったらどこでも楽しい!」
うわぁあああ何だこの可愛い生き物はぁ!!
天使!? 天使なのか!? とりあえず俺の嫁になったらいい!
明崎の一人や二人幾らでも駆り出してやんよ!
つかもうお前のためなら死ねるわマジで。
あああ可愛い、可愛いクソッ、可愛い……so cute……!
須藤はポーカーフェイスのまま悶え死んだ。普段の小憎たらしいほどのクールさは影も形も無い。
そう、柳田は彼の超お気に入りなのだ。それこそ柳田に近づこうとする不純な輩はこの手で片っ端から躊躇いなく潰せるほど、須藤は熱烈に恋している。ちなみに異名をつけられた原因の九割方はそれによるものだ。
最近では「俺は柳田レーダーだ」という迷言まで口にする始末で、明崎が嘆いていたのは周りの記憶にも新しい。
そう……こんな二人の空間を邪魔できる訳が無いのだ。
ただ、敢えていうなら須藤は柳田関係を除けば、普段は冷静沈着頭脳派である。逆に柳田は良い意味でも悪い意味でも熱血バカな性格、直情型肉体派だ。
正反対のこの二人が親友……いや、それ以上の仲になった経緯は生徒たちの間で「今期の七不思議」の一つに数えられているのだが、彼らの馴れ初めは、また別の機会に紹介することとしよう。
とりあえず柳田効果で発狂している須藤は、すっかりたがが外れてしまい、挙句――
「あのさ、俺たち」
「あっ! 副会長!」
「付き合わないか」とまで言いかけた。しかし暴走しかけた須藤の口は、その柳田の声であっさり封じられた。
え、ちょ、
「おーい、副会長ー! こっち空いてるぞー」
おぃいいいいっ!
「あ、柳田君お久しぶりー」
「久しぶり。って、アンタそれしか食わねぇの?」
「柳田君さぁ、よくそれが腹に収まるね」
やってきた霧ヶ原がメロンパン一個なのに対し、柳田のどんぶりには溢れんばかりの特盛親子丼。
デスクワーク少年と熱血スポーツ少年の胃袋の違いが、とても分かりやすく比較例になった瞬間である。
「まぁ、ちょっと忙しくて食べらんないって話もあるけど」
「やっぱそんだけ忙しいのか、生徒会」
「けどそれ言っちゃあ須藤なんかは柳田君と僕を足して二で割ったような状態だしねぇ」
「全くだ」
須藤もブスッとして答える。それに気づいた柳田が、思い出したように会話を振った。
「そういやお前、さっき何か言いかけてたけど」
「……何でもねぇ」
どいつもこいつも、タイミング悪ぃっつーの。
「ねぇ須藤。笠原君どう」
「至って予想通りの状態だな。超質問攻め」
「あの顔じゃねぇ……。そのうち奏プロダクションからも声かけられんじゃない?」
クスクス笑ってメロンパンの封を開ける霧ヶ原。柳田が興味津々の様子で身を乗り出す。
「そんなに綺麗なのか転校生」
「うん、超綺麗」
「かなり警戒心強いらしい。明崎が手こずってたわ」
「へぇ。あの明崎が……」
「今朝も一緒に行くつもりしてたら置いてかれてたんだってよ」
「でも明崎めげてないんでしょ」
「今も失踪したから追ってる。もう放っときゃいいのに」
「ぷはっ、あいつ諦め悪いもんね。こりゃ長期戦だ」
副会長様は楽しげである。……まぁ、他人事だしな。
あ、やべ。ラーメン伸びる。




