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登校初日・笠原の朝


 ――そして次の日、起きてみると笠原の靴が無かった。

「やられた……」



 午前七時半。

 靴箱の蓋を閉めた笠原は一つ息を吐いた。同居人と会うのを避けるためとはいえ、早く来すぎた。

 静かだな……

 足音一つ聞こえない校舎。

 運動部も吹奏楽部も朝練している様子はなかった。登校したら一階の応接室で待機するよう指示されていたので、そちらへ向かう。しかし行ってもすることが無いので、鞄だけそちらに置いて、しばらく散策することにした。

 きっと今日は恒例の質問攻めに遭うだろう。学校の内部を少しでも知っておいた方が、後々一人で落ち着きたい時の役に立つ。

 ……騒がしいのは、好きではない。

「それにしても……綺麗な校舎だ」

 学校自体はそれなりに歴史があるが、校舎は二年前に建て替えたのだという。口の字型の五階建て、中庭があって校舎の裏手には園芸部の花壇スペースや大きな倉庫もある。外壁は真っ白でつるつる、しかも中庭側とその反対側の壁はほぼガラス張りだ。

 歩いている途中、エレベーターも見つけた。多分、車椅子用とかだろう。

 そこから技術室の前を過ぎ、家庭科室の前を過ぎ――やがて食堂にまで行き着いた。観音開きの大きな扉が開いていたので、中を覗く。

 広いホールだった。さすがに千人近い生徒を受け持つだけあって、二階席も用意されている。奥の調理室では、既におばちゃんたちが忙しく立ち回っていた。

 早い時間にもかかわらず意外にも三、四十人が朝食を摂っている。混む時間帯を避けているのだろう。ほとんどの生徒が眠たそうだが、相席した仲間とそれなりに話を弾ませている。

 ……縁があったら利用してみよう。

 そっと通り過ぎて、近くの階段を昇った。ここもガラス張りだった。中庭が見えて、朝日もそこから射し込んでいる。ちょっと眩しい。

 ……そういえば、と笠原は中庭を眺めながら足を止める。

 あの家からも朝日が見えたのだ。海の上に浮かんで白く輝いていた。きっと日の出は綺麗だろう。今度、もっと早く目を覚ました時に見に行こう。涼しかったら外に出て、また海を歩きたい。触れたい。

 ……何だ、考えたら楽しみの一つもあるではないか。

 足を再び動かして、段を上がっていく。朝の当てもない散策は、しばらく続いたのである。

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