撮影、いっきまーす
衣装部屋に連れて来られると、奏が先に服を選んで待っていた。二人分用意されている。
……二人?
「お前も参加するんだよ、関西人」
「えー! 何でぇよ!?」
「添え物だよ添え物」
「添え物って……」
酷い言い草である。
「それと、外で撮るから」
「あ、そうなんっ?」
明崎は素っ頓狂な声を上げた。てっきり、ここで撮影すると思っていた。
「あくまで笠原君は日常シーンを撮るぐらいにしたいんだよね。……笠原君キメ顔無理でしょ?」
「キメ顔……」
言われて笠原が少し困った表情をする。
ははぁ……、そう来たか。
確かに笠原はノリが悪いから、いきなり言われてもできないと思う。逆に明崎なら写メだのプリクラだの撮り慣れているから、キメ顔変顔なんでもござれだが。
「素人君にいきなりポーズ取れとか、キメ顔してーとか教えるのめんどくさいし。それに笠原君なんか、特に喜怒哀楽抜け落ちちゃった感じじゃん?」
えええっ、それ本人の前で言うん!? 抜け落ちたって。
明崎はそっと隣の様子を窺う。案の定、笠原の心にぐっさり刺さったらしく、ちょっと俯いてしまった。そりゃあ、正面切って言われたらショックである。
明崎は苦笑いでフォローを入れた。
「いや、確かに笠原って最初こそ無表情やったけど、でも最近は笑うやん。表情豊かになってきたとは思うで」
「……本当に?」
「自分でも分かるやろ? むしろ俺と一緒におって笑ってないとか言わせへんし!」
「はは、……そうだな」
笠原はちょっと笑って頷いてくれた。
ねー、ほら。全然抜け落ちてへんもん。
「そう、それ!」
奏が突然声を上げた。二人してビクリと肩を飛び上がらせて、彼の方を見る。奏はニコリと微笑んで言った。
「笠原君のそーゆーナチュラルな表情を撮りたい訳」
「ナチュラル……?」
「だから変に表情作ろうなんて思わないで」
あ、なるほど。明崎の中で合点がいく。
だから俺の分が用意されてる訳ね。一緒に行って笠原から表情を引き出す為に。
「どの辺行くん?」
「駅前か、この辺」
「あー、この辺なら遊歩道とかあるもんなぁ」
撮影所が建っているこの付近は、レンガ調の遊歩道や噴水があって景観はバッチリだ。
笠原なら、きっと歩いているだけで絵になるはず。
「あくまでも候補だから、良さげな所があったら他も行くよ」
「りょうかーい」
何だか楽しい撮影になりそうだ。
……それにしてもキリオ君ホンマ可哀想やな〜。よりに寄ってパンツとか……パンツ、ひひひ。
そんな薄情な感想を過ぎらせながら、明崎はハンガーに掛けられた服を手に取った。




