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「自分で食べれる?」

 尋ねると、シイナは益田から器を受け取ってくれた。

 薬も飲ませたいところだけど、市販薬が果たして彼の身体に害を及ばさないかが心配だったので使えなかった。食べ物についても、ネコ科を考慮すべきなのか非常に迷った。

 だからネコ科でも平気な食べ物で回復を促すしかない。

「……ケイスケ」

 小さな声が、たどたどしく益田を呼んだ。そういえば帰ってきてから初めて彼の声を聞いた。

 シイナが熱に潤んだ瞳で、こちらを見つめている。

「なぁに?」

「……お仕事するの?」

「え?」

 何か言ったけ? と思い返そうとして、合点がいく。

 恐らく、未来を視たのだ。

「あぁ。……まだしないよ」

 シイナが眠ってから例の仕訳表に取りかかるつもりでいた。今はまだ、猫舌の彼が気になってそれどころじゃない。

「ゆっくり食べて。火傷しないようにね」

 レンジでそこまで熱くしないように気をつけたつもりだが、何せ他人の感覚だから分からない……ことにネコ科ともなると。

 シイナは言われた通りに、ゆっくりと食事を始めた。レンゲで掬われたお粥が小さな口元に運ばれていく様子を、益田はただ見守る。

「風邪、早く治るといいね」

「……また、外に行っていい?」

「うん、一緒に行こう? またケーキ食べに行こうよ」

 この容貌でも、バンダナ付けた上にフードを被って、後は大きいサイズのパーカーなんかを着せてしまえば猫耳も尻尾も誤魔化せる。

 あまり外を出歩かせない方が良いのは分かっちゃいるが、閉じ込めておくのも酷というもの。

 最近はちょっと慣れて、この前も駅前の全国チェーン店のカフェに行った。人混みは苦手みたいだが、ケーキを食べさせたらすごく喜んだ。

 ……何だか、可愛い弟でもできたみたい。

「……けほっ、けほっ」

 小さく咳を繰り返すシイナ。紅潮した頬。本当に辛そうだ。やっぱり人間用の薬見繕ってきた方がいいかなぁ……

「ん、全部食べれた? 偉いね」

 それでもお粥は綺麗に平らげてくれた。良かった。後は水分をしっかり摂って、寝てもらうだけ。

「お皿洗って来る……はいはい、すぐ戻るから。……ん? 何そのジェスチャー……え、抱っこ?」

 無言で要求されたので、お皿とレンゲをササッと洗って、すぐに戻る。そしてせがまれた通りに、ベッドに上がるとシイナを抱き締めて横になった。

 シイナは益田の胸に顔を押し付けると、安心したように身体の力をゆっくり抜いて、目を閉じた。

 風邪移るかな……まぁ、いいか。

 益田はスラックスのポケットからスマホを取り出した。

 現在十六時半。不在着信とメール入っているけど、後でいいや。今なら寝ても二十時位に目を覚ますはず。

 シイナあったかい……俺も眠くなってきた。

 益田はスマホをベッドの隅に放ると、シイナの滑らかな髪を梳きながら、心地よい感覚に身を任せてそっと目を閉じた。


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