姪の旅立ち、叔父の開店18
パルメダさんとルティーナさんにもローストビーフサラダを提供し、俺も同じテーブルにつく。
ずっと立ちっぱなしだったので、少し腰が痛いな。この世界にも、腰痛に効く湿布のようなものがあるのかなぁ。鍼灸やマッサージの店もあると嬉しいのだが。ルティーナさんの回復魔法に頼ってばかりも申し訳ないし、いずれ探してみよう。
「はぁ、ちょっと疲れたな……」
「お疲れ様です、ショウ殿」
トントンと腰を叩きながら深い息を吐く俺に、ルティーナさんが優しく声をかけてくる。
「ありがとうございます。でもこれくらいで疲れていたらダメですよね」
これからは定休日以外、毎日料理を作るのだ。湿布などの対処療法ではなく、筋トレをして筋肉をつけるなどの根本的な腰痛改善をしないといけないな。とはいえ筋トレの知識はほとんど無いなので、腹筋とスクワットくらいしかメニューを知らないわけだが。
……この二つで、腰痛って治るのかな。
まぁ、やらないよりやった方がいいよな! 今晩からでもやってみよう。
「今日は引っ越しもありましたから、疲れて当然ですよ」
ルティーナさんがさらに気遣ってくれる。くっ……まるで天使のようだ。
引っ越しがあったといってもなぁ……。荷運びや荷物の整理は、ほとんどパルメダさんとルティーナさんがやってくれたのだ。
俺は馬車に乗って、荷物をちょこっとだけ運んで、料理をひたすら作っただけである。
本当に引っ越しの役に立ってないな! 俺!
「あとで回復魔法をかけましょう。明日に響くとよくないですからね」
ルティーナさんは可愛く両の拳をぎゅっと握りつつ、そんな申し出をしてくれる。
「いやいや! 申し訳ないですよ!」
「いえいえ、遠慮しないでください! ぜひに! 回復魔法を!」
「ショウ殿、素直にかけてもらいましょう。腰痛で料理が作れない……なんてことになれば、私もルティーナ殿も餓死してしまいます」
パルメダさんが、ローストビーフに上品な仕草でナイフを入れつつ口を挟んでくる。
「餓死なんて大げさな……!」
「大げさではないです! 私たちはもう、ショウ殿がいないと生きていけない体になってしまったんですよ。責任は取っていただかないと」
いやいや、ルティーナさん。そんな紛らわしい言い方はしないでいただきたい。
「そうですよ、貴方なしでは生きられなくなった責任を取ってください」
パルメダさんまでルティーナさんに追従する。
美形二人に真剣な表情で詰められ、俺は冷や汗をかいた。
こうまで言われると、これ以上断るのは心苦しいな……。
「じゃあ、あとでお願いします」
「はい! しっかり回復させていただきますね!」
ルティーナさんはそう言いながら心底嬉しそうに笑い、ご機嫌な様子でローストビーフサラダに手をつけはじめた。
「……なんだかすごい会話をしてるな。たしかに、ここの飯は美味いもんなぁ」
「なるほど、あれが胃袋を掴むってやつね」
「ルティーナ様の回復魔法……! ず、ずるいです。かなりのお布施を積まないとかけてもらえないものなのに……!」
『紫紺の牙』の面々が俺たちに視線をやりつつ、声を潜めて会話をする。
狭い店内だと、丸聞こえなんですけどね……。




