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姪の旅立ち、叔父の開店17

 三人分のローストビーフサラダをトレーに載せて、『紫紺の牙』の皆様のもとへと向かう。


「お待たせしました」

「おお……!」

「にゃっ!」

「美味しそうです……!」


 テーブルにローストビーフサラダの皿を並べると、『紫紺の牙の』面々からはそれぞれ感嘆の声が上がった。

 ガレットは気に入っていただけたようで、先ほど提供した皿は綺麗に空になっている。ジャムや蜂蜜の小皿も拭ったのか? と思うくらいにピカピカになっており、最後までしっかりと楽しんでいただけたことが察せられた。

 内心ほっとしながら、食べ終わった皿をトレーに移す。するといつの間にか側に来ていたルティーナさんが「くださいな」と言って俺の手からトレーを受け取り、流しに持っていってくれた。……助かるなぁ。


「牛肉か! 豪勢だなぁ」


 メイラさんはそう言いながら、舌なめずりをする。牛肉が高価なものなのは、こちらの世界でも変わらないらしい。


「こちらは、『大暴れ牛』のローストビーフサラダです」

「は……? 『大暴れ牛』!?」


 メニューの説明をすると、先ほどまで楽しそうに料理を見ていたメイラさんの表情が驚愕というものに変わる。そして、あんぐりと大きく口が開いた。


「Aランクの魔物の!? どうやって倒したの……って。パルメダ卿とルティーナ様がいれば倒せるかぁ。さっすがぁ!」

「と、とんでもないのが出てきちゃいましたね……!」


 ネンナさんとパルさんも、驚き顔でローストビーフサラダを眺める。

 ……椛音が狩ってきたものだからもしやとは思ったが、やっぱり高位の魔物なのか。

 そんなことを内心思いながら、俺は苦笑する。


「いやぁ、そんなものにありつけるとはなぁ」


 メイラさんは気を取り直した様子で言うと、しげしげと肉を眺めた。


「どうぞ、召し上がってください。おかわりもありますのでほしい時は遠慮なく言ってくださいね」

「ありがとう! 助かる!」

「わぁ! 嬉しい!」

「あ、ありがとうございますっ」


『おかわり』の存在を耳にして『紫紺の牙』の面々は表情を輝かせたあとに、高速で神への祈りを捧げた。

 ……ご飯を早く食べたい時、こっちの人はみんなこうなるんだなぁ。

 祈りを済ませたあとにカトラリーを手にした彼らは、ローストビーフサラダを口にする。そして……。


「うっま! この肉、レトスと合うな」

「なにこれ、口の中でお肉が解ける! はぁ、美味しい~!」

「んっ……! お肉のコクが……すごいです! ああ、ソースもとても美味しい」


 皆はうっとりとした表情で咀嚼をしながら、それぞれ料理の感想を述べた。


「ああ、酒がほしい。この肉には絶対酒が合うぞ」


 メイラさんは言いながら、肉を口いっぱいに頬張る。

 ……メイラさん、申し訳ないですがこの店で酒を提供するかは未定です。

 この店はダンジョンに近いから、『紫紺の牙』のような冒険者のお客さんを中心に回すことになるだろう。

 屈強な上に荒くれ者もいるだろう冒険者たちに酒類を提供するのは……絶対にトラブルのもとになるよな。

 パルメダさんとルティーナさんがいれば、酔っぱらいもなんなくいなせるかもしれないけれど……。

 ……トラブルの種を、わざわざ用意することもないだろう。

 俺はそう結論づけ、うんうんとひとり頷いた。

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