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姪の旅立ち、叔父の開店13

 倉庫からあれこれ持ってきた俺は、生地を寝かせている間にガレット以外のおやつの調理をはじめた。

 二人の食欲のことを考慮するとトッピングを増やしてもガレットじゃ物足りないだろうな……と思ったからだ。

 追加のおやつを二品作ったあとに、フライパンで生地を焼いていると……。


「ショウ殿! そろそろできましたか?」

「私もお腹が空いてしまいました。ふふ」


 パルメダさんとルティーナさんが、目をキラキラさせながらこちらにやって来た。

 荷物の整理はほとんど終わっており、掃除もついでにしてくれたようで店内はピカピカ輝いている。

 二人には本当に感謝ばかりだなぁ。


「もうすぐ出来上がりますよ。よっと」


 言いながら、ガレットの生地を皿にひっくり返す。うん、いい焼き色なんじゃないかな。

 肩に乗ったピートも、生地の焼ける匂いを嗅いで『ピー! ピー!』と歓喜の声を上げた。本当に可愛いやつだ。


「ガレットの仕上げにかかりますので、よければこちらを先に食べていてください」


 言いながら『ガレット以外のおやつ』が小山のように盛られた皿を二皿、二人に差し出す。


「「これは……?」」


 パルメダさんとルティーナさんは首を傾げながら、皿の上のものを見つめた。


「林檎のフリットとさつま芋の揚げ焼きです。熱いので気をつけてくださいね」


 林檎のフリットはイタリアではメジャーなおやつで、薄切りした林檎に甘い衣をつけて揚げたものだ。ほんのり甘い素朴な味が癖になるんだよな。

 さつま芋の方は下茹でののち揚げ焼きをしてから、粉砂糖をかけている。

 二人の胃袋は宇宙のように大きい。できる限りお腹いっぱいにしてあげたいから、腹に溜まりそうなものを作った。


「どちらもあつあつのうちが美味しいですよ。お好みでバターをつけてください」

「「わかりました!」」


 二人は勢いよく言うと、皿をそれぞれ受け取った。

 そして上品な所作で、しかし驚くほどに足早にテーブルに向かう。

 テーブルに皿を置いた二人は、席につこうとしたところで顔を見合わせた。


「ルティーナ殿。早く食べてしまいたい気持ちはやまやまですが、紅茶がほしいと思いませんか?」

「パルメダ卿、奇遇ですね。私もそう思っていました」

「では、私が淹れてきましょう」

「パルメダさん、ルティーナさん。紅茶の準備もできてますよ」


 パルメダさんとルティーナさんの会話に割って入り、用意していた紅茶を差し出す。


「「ショウ殿!」」


 すると二人は嬉しそうにぱっと目を輝かせた。

 ……二人ともすごい人たちのはずなんだけど、椛音と似たカテゴリーに見えてきたな。


「ピートもパルメダさんたちと一緒に食べてきな」

『ピッ!?』


 ピートに声をかければ、怯えたように身を竦ませる。そして不信に満ちた目を、パルメダさんとルティーナさんに向けた。


「あはは、彼らはお前を食べないから。行ってきな」

『ピーッ、ピッピッ! ピッ?』


『本当に?』というようにこちらの様子を窺うピートの頭を優しく撫でてやる。

 するとピートは多少警戒しながらであるが、小さな翼を動かしパタパタと飛んでテーブルに向かった。


「さて……」


 ガレットの仕上げをするべく、俺は腕まくりをする。

 一皿目は倉庫で見つけた柿っぽい実とチーズのガレット。

 二皿目は目玉焼きとハムとチーズのガレット。

 三皿目はキャラメリゼした林檎を載せたガレット。

 その後の皿は、ジャム数種類と蜂蜜を各自でトッピングして食べてもらうつもりだ。

 完成した一皿目のガレットを手にし、テーブルに持っていこうとした時……。


「……お客様が来たようですね」


 口いっぱいに芋を頬張ったパルメダさんが、扉の方に視線を向けつつ真剣な表情で言った。

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