9 重ならない友情
「翔太、よかった。きてくれて」
「突然呼び出すから何かと思えば。珍しいね、蓮。僕と2人きりなんて。普段は咲か彩芽が絶対いるから、新鮮な感じだ」
オレは、翔太とは友達でいたい。だから、放課後に遊びに誘って、こう、上手いこと翔太との仲がこじれないように、そう、上手いこと立ち回るぞっ! って、そう思ってたんだけど……。
「……蓮?」
「何するか決めてなかった…」
「マジ?」
「マジのマジ、マジ魔人」
特に何か遊びに行く場所を決めたりだとか、そんなこと一切しておらず、マジのノープラン。
せっかく呼び出したのに、これじゃ彩芽のこともあいまって、翔太にさらに嫌われてしまうかもしれない。
恋のライバルとは言っても、オレは翔太とは友達でいたい。何より、彩芽のせいで翔太との仲が拗れた、なんて、オレがやだし、きっと彩芽にも迷惑だろうから。
「とりあえず、適当にカフェで雑談でもしようか」
「そ、そうだな! それがいい!」
♂♀♂♀♂♀♂♀
「話したいことがあるなら話しなよ。僕は今日予定は空けてあるんだ。いくらでも付き合ってあげれるよ」
さて、どう切り出そうか。話したいことはシンプルだ。彩芽との関係がどうなろうと、友達ではいようって。お互いに恨みっこなしにしようって、ただそれだけだ。
拒絶されるかもしれない……。でも、だからって、このまま翔太との関係が曖昧なまま、彩芽との恋をどうこうしようなんてのは、きっと無理だ。
だから………。
「翔太、彩芽のこと……何だけどさ」
「うん。何かな?」
今、翔太がオレのことどう思ってるのか、表情からはわからない。長年ずっと一緒に過ごしてきて、多少は表情の変化を読み取れるようにはなった。無意識にやってる分には、多分オレは翔太が何を考えているのかわかる。でも、意識的に翔太が表情で悟らせないようにしてきたら、オレには翔太が何を考えているのか、正直なところ何にもわからないのだ。
「その、お互い何があっても、恨みっこなしで、こう、これからも……こう…」
「うん」
でも、大丈夫だ。今までどれだけ長く翔太と友達でいたと思ってる? 表情が読めなくたって、過ごしてきた年月は嘘をつかない。
そうだよ。結構付き合い長いんだ。拒絶なんてされないはずだ。だから、だから……。
「これからも、その、翔太とは、ずっと友達でいたいんだ。だから……」
「無理だね」
「ぁ……ぇ………」
む………り? なん……で………。
「蓮、悪いんだけどね。僕は……」
それ以上、言わないでくれ…。
聞きたくない。拒絶されたくない……。
友達を続けられないなんて、そんなの………。
「……僕は蓮のこと、友達だなんて思えないから」
「ぁ………はは……そっか…………そう、だよな…………」
友達でいられない、じゃなくて、友達だと思えない、か。
そう、だよな……。翔太からしたら、複雑だもんな。だから、しょうがない。しょうがないんだ。でも……。
ずっと、仲良くやってきてたのに。
なのに……。
「話はそれだけかな? 他に話したいことがあるなら、聞くけど?」
「いや、もう、何もない。忙しいのに、わざわざ時間作ってくれてありがとうな………。それと……色々と、ごめん…」
「会計は済ませておくよ。仮にも今の蓮は、女の子だからね」
「そう、だな……」
望みすぎたのかな。彩芽のことが好きって気持ちには蓋をして、4人でいる時間を、ただ楽しむだけでも、良かったんじゃないか。今になって、そう思う。でも、もう、翔太との仲は……。
「あ、そうそう」
「…?」
「僕は蓮のこと、友達とは思えないって言ったけど、でも、友達をやめようって言いたいわけじゃないんだ。これまで通り、友達として接してほしいし、もしかしたら、また元の関係に戻れるかもしれない。だから、これからもよろしくね、蓮」
その言葉を聞いて、オレは……。
「わ、わかった! これからも友達、だよな!」
少しだけ、まだ、完全に翔太との関係が壊れたわけじゃないんだって知れて、ほっとした。
♂♀♂♀♂♀♂♀
今にも泣きそうな顔だった蓮を見て、少し罪悪感はあったけど、それだけ僕のことを想ってくれてるんだなと考えると、やっぱりどこか嬉しいと思ってしまう自分がいた。
僕としては、蓮との関係を完全に断つつもりはない。表向きは彩芽狙いだけど、僕が狙っているのは蓮なんだから。
友達と思えないって言った時の顔、すごく悲しそうだったな。でも、残念ながら事実なんだよね。
本当に、僕はもう君のことを友達だなんて思えないんだから。
でも、だからと言って友達関係をやめてしまっては、僕と蓮との接点が消えてしまう。そうなってしまえば、蓮を落とそうにも落とせない。だから、蓮にも表向きには友人として振る舞うと伝えておいた。
何でわざわざ友達じゃないと思っていることを告げたのかに関しては、ちゃんとした理由がある。
今の蓮は、彩芽に恋をしている状態だ。だから、自然と注目はそちらへ行く。僕がただの友達のままだったら、蓮は僕のことを、多少は気にするだろうが、それでも彩芽を一番に頭の中に置くだろう。
だけど、僕との友人関係が危ないとなったら?
彩芽ばかりにかまけているわけにはいかなくなる。蓮は、僕との関係修復に力を入れようとするはずだ。
だから、それを利用する。蓮の注目を、彩芽から僕へと切り替える。そこから、少しずつ、蓮に僕を異性として意識させていけばいい。
でも、正直僕も不安で仕方がない。
性転換病には、タイムリミットがある。1年。たったの1年だ。
もし、性別を固定したいのなら、性転換状態で、誰かと体を重ねる必要が出てくる。となると、僕は蓮と恋人関係になった上で、体の関係にまで至る必要が出てくる。はっきり言って、蓮の気持ちが彩芽に傾いている以上、交際を始めるまでに時間がかかりそうだし、交際を始めてすぐに体を重ねるというのも、ロマンに欠けるというか、なんというか。
とにかく、僕は短い期間で蓮のことを虜にして、蓮と体の関係に至る必要がある。そうしなければ、蓮は男に戻ってしまうのだから。
別に、蓮のことを無理矢理女の子のままにしてしまってもいいのだけど、下手したら蓮のトラウマになりかねないし、極力蓮の嫌がるようなことはしたくない。だから、それは本当に最後の手段、というか、絶対にやっちゃいけないプランだ。
だからこそ、僕は短い時間で蓮を虜にするために、無駄な時間は省かなければいけない。
「………もしもし母さん? 塾の話なんだけど……。うん。もう必要ないかなって。学校の勉強には十分ついていけてるし、実力テストも大丈夫だと思うから」
あらかじめ、蓮のスケジュールは把握してある。その時間帯だけは、絶対に空けておいて、いつでも蓮との時間を作れるようにしておかなければならない。大丈夫だ。蓮のことだ。きっと僕との仲を改善しようと、積極的に2人デートに誘ってくれるに違いない。
「まずは蓮に女の子だって自覚してもらう必要があるかな……。そういえば、先輩にも蓮と同じように性転換病の人がいた気がするな………」
えーと確か……。
「真風女 日向か」
蓮のクラスの学級委員長である真風女 愛女君のお姉さんだったはずだ。
愛女君とはたまに話すことがあるから、彼を経由して日向さんとコンタクトを取るのもありだろう。日向さんは確か、彼氏がいたはずだから、僕が蓮に対して抱いている感情に対して、理解を示してくれるかも知れないし。
「まずは外堀から、かな」
あまり時間はないから、なるはやで済ませよう。




