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7 変えたくないもの、変えたいもの

私は昔から、他人と関わるのがあまり得意ではなかった。

小学校1年生の頃、他の子とおままごとをやった時の話だ。したくもない役をやらされるのが苦痛で仕方なくて、やりたくないことをやらされるくらいなら、関わらなくていい、なんて風に思った。それで、友達との縁をあっさり切ってしまったのが始まり。それが私の原初だったと思う。


そこから私は、クラスでも孤立するようになった。その頃から私は、本ばかり読んでいたように思う。

本といっても、当初の私は小学1年生。小難しい本は読めなかったわけだから、最初は絵本。精々背伸びして文字の多めの児童書本くらいが限界だったのだけれどね。


そんな私に話しかけてきたのが、蓮だった。


『それ、面白いの? オレも読んでみたい!』


最初は鬱陶しいと思った。うざい、煩わしい、消えろ。そんな風に心の中で罵倒さえしていたと思う。

けど、私も多分、心のどこかで人との関わりを求めていたのかもしれない。


気づいたら、私はいつも蓮と一緒にいて、おまけとして蓮といつも一緒にいた咲とも行動を共にするようになった。

多分、その時から私は、蓮のことを意識していたんだと思う。だって、蓮と仲良くなってから、学校へ行くのが楽しみで仕方がなかったから。はっきり言って私は、愛想がいい方ではない。どちらかと言えば、愛想が悪い女だっただろう。それでも蓮は、私の態度に文句を言うわけでもなく、受け入れてくれた。


2年で翔太とも関わるようになってから、私は蓮への恋心を自覚することになる。でも、その時にはもう、4人でいる形が出来上がってしまっていて、その関係性を壊すことを、拒んでしまっていた。そのままズルズルと、小学校生活は4人で固まって過ごしていくことになる。


結果として、私が蓮に想いを伝えることはなかった。蓮に寄りつく女子もいなかったし、4人で遊ぶこの関係性がとても心地よくて、かけがえのない時間になっていたから、急いで蓮に告白する必要性を感じなかったのだ。

むしろ、蓮に告白してしまうことで、今の関係性が崩れることを危惧していたくらいだ。


中学生になってから、私は少し焦りを感じ始めることになる。

それは別に蓮のことではない。はっきり言って、蓮は別にモテる男子というわけではなかったし。蓮に近づく女子がいたとしても、大抵その子達は翔太目当てだったから。

私が焦ったのは、友人関係について、だ。勿論、蓮や咲、また、翔太とは仲良くやっていたし、友人がいなかったというわけではない。でも、蓮も咲も翔太も、皆男子だ。小学生までは、男女関係なく遊ぶことも多いのかもしれない。けれど、中学生ともなれば、男子も女子も互いの性差を意識し始める年頃だ。


結論を言うと、私にはいなかったのだ。同性の友達が。だから、私は少しだけ、蓮達と距離を置くことにした。といっても、私の中で蓮達以上に仲のいい友人を作れる自信はなかったから、本当に少しだけだ。ほんの少しだけ。


幸い、蓮や咲とはクラスが分かれたし、翔太とは2人きりで遊ぶことは基本なかったから、私は2年生になって、初めて女友達を作ることに成功した。まあ、苦労はあったけどね。翔太のことを紹介してくれ〜って迫ってくる子も多かったし。まあでも、結果として程々に仲のいい友人を作ることはできた。


私が男女の区別を意識し始めたことで、蓮達も多少なりとも男女の意識というものを持ち始めた気もした。その様子を見て私は、もしかしたら、蓮と恋人関係になることもそう遠くないのかもしれないと、そう感じ始めていた。


小学生の頃までは、4人でいるあの関係性だけで満足できていた。けれど、同性の友達ができたことで、そういう話をすることも多くなったのだ。私が蓮との恋人関係を妄想してしまうのも、仕方ないと言える。


だから、ちょっとずつ、私のことを意識してもらえたら、なんて、そんな風に呑気に考えていた時だった。事件が起こったのは。


ある日、咲から連絡が入った。基本、私達は電話で話すことはあまりない。だって、ほとんど毎日顔を合わせているわけだし、話したいことがあれば、その時にまとめて話せばいいと思っていたから。

だから、連絡がかかってくるということは、つまりはそういうことだ。


緊急事態。


何か、今すぐに知らせなきゃいけないような、重大な事実。それがあるんだろうと、私はすぐに察した。


そして案の定、咲からの連絡は、私にとって重大で、とんでもない事態だった。


蓮が、女の子になった。

そんな話を聞いた時、私にはその情報が何を意味するのか、全く理解できなくて、暫くフリーズしてしまった。


蓮が女の子になった。なら、私の恋は? 4人の関係は? どうなる?


私が気にしたのは、そんなことばかり。

蓮のことを労るようなこと、一切考えてなかった。自分のことばっかり。


咲も翔太も、蓮自身のこと心配してたのに。


この時、私は、蓮の隣にいる資格はないんだなって、そう思った。

蓮が女の子になったのは、もしかしたら神様が、私を試すためにやったことなのかもしれない。私は神様なんて信じていないけれど、この時ばかりは神様を恨みたいとも思ったくらいだ。


「はぁ……。そうやって、割り切れればいいんだけど……」


やっぱり、私はまだ、蓮のことを諦めきれていない。

女の子になったって、私は蓮のことが好きだ。

蓮がいなければ、今の私はいないし、蓮のそばにいない私なんて、私じゃない。


でも、告白する勇気も持ち合わせていなければ、このままこの関係性をずっと維持して平気でいられるほど、私は精神的にタフなわけじゃない。よく友人からはメンタル強そうなんて言われるが、それはその子達の前だからであって、本当の私は、ちょっぴり見栄っ張りなだけの、メンタル弱者なのだから。実際、蓮達の前じゃたまに弱音を吐くことだってある。ある意味素を曝け出していけるような関係性でもあるからね。


だから、今回蓮が女の子になったのは、ある種神様が私にくれたきっかけなのかもしれない。

この1年間、私は蓮と恋仲になることはないだろう。同性同士は、最近は世間でも認められてきてはいるが、私も蓮もそういう趣味を持っているわけではない。つまり、この1年間、すなわち蓮が女の子である間は、私は蓮との関係性を変えることはない。


けれど、1年後。蓮が男の子に戻った時。その時改めて、私から告白をしよう。

そう勝手に私の中で決めれば、なんとなく、今感じていたモヤモヤが消し飛んでいくような気がする。


結局私は、わがままなだけなんだろう。蓮と恋仲になりたい、でも今の関係性を壊したくない。相反する二つの想い、そのどちらも手に入れたいと、そう願っているのだから。


「大丈夫……。1年後の私なら、きっといける」


何の根拠もない自信。だけどそれは、今の私を元気づけるための理由付けとしては、十分だった。


「せっかくだし、今の間に女の子の蓮を楽しんでおくのも悪くないかもしれないわね」


どうせこの1年間は恋仲になることはないのだ。うだうだ悩むのはやめて、何も考えず、馬鹿みたいに皆と一緒に楽しく過ごせばいいのだ。


そんな風に思いながら、私は少し前向きになりながら、今日を過ごす。

この1年間は、どうか楽しくありますように。なんて願いながら。


けど、後々私達は気付くことになる。

この1年間は、ただ楽しいだけのものじゃなくて。


私達の関係性を、大きく変えてしまう。そんな重要な年月だということに。

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