番外編 姉の秘密を暴露したら殺されますから注視してください
岩場の陰で愛美は崩れた水着を着なおしながら、恥の方で縮こまって反省している彼氏へと不満をぶつけていた。
「もう……あんたちょっとがっつき過ぎなのよ!」
「ご、ごめんね」
「そりゃ誘ったのは私だけど……初めてだったんだからもっと加減しなさいよ……」
そう口にしながらも、愛美は頭の中で先程までの大胆な龍太の姿を思い返していた。
まさかあの大人しい龍太が行為中はあそこまで積極的になるとは……す、凄かったわ。
今しがた自分と龍太の二人は遂に一線を越えて、恋人として一段階ステップアップを果たした。
まさか初めてを捧げる場所がお互いの自宅などではなく野外になるとは思いもしなかったが。まぁ露骨に誘惑を仕掛けたのは自分の方なのだけれども。
「可愛い顔しておいて龍太もちゃんと男なのね」
正直奥手な龍太を自分がリードしようと考えていたが杞憂だった。もう開始早々から向こうにペースをつかまれてしまっていた。
「……この変態め」
羞恥心を少しでも紛らわせたいがために愛美が罵倒を投げるが、それに対して龍太は言い訳もせずこう返してきた。
「ごめん、愛美があまりにも魅力的過ぎたから。あの時の君は本当に可愛くて歯止めが利かなかったんだよ」
龍太としてはあくまで素直に感想を述べたつもりだったが、愛美にとってはこのセリフはかなりのカウンターだった。ましてや今しがた密接に交じり合ったばかりなら猶のことだ。
未だに火照りが抜けきっていない身と心が再び熱くなり、勢いよく海中の中に顔半分まで沈めて冷まそうとする。
「うわっ、大丈夫? ぷあっ!?」
顔を真っ赤に水しぶきを上げて海中に潜る恋人を心配するが、返ってきたのは手ですくった海水による水弾だった。
「今はこっち見るなばーか……」
軽く罵声を飛ばす彼女だが、その表情は満更でもなさそうだった。
それからしばし、余韻の熱も冷まし終わって岩場を出ようとした時だった。聞き覚えのある少女と少年の声が響いてきた。
「おーいお兄どこだ~?」
「あれ、マジでどこ行ったんだ?」
顔を見ずともその声の主の正体が妹の涼美、弟の徹であると二人は見抜く。
どうやらしばらく姿が見えなくなった自分たちを探しに出向いてくれたらしい。
「どうやら近くで涼美が探しているみたい」
「そういえば時間的にもうお昼よね」
すぐ近くで自分たちを捜索している涼美と徹の前に二人は姿を出そうとする。だが岩場の陰から出ようとする直前、次の涼美の口から出てきた発言で二人は硬直してしまった。
「全然、見当たらないなぁ。もしかしてお兄と愛美姉どこかでハッスルしてんのかな?」
「「ぶっ!」」
妹の口から飛び出してきたまさかの発言に龍太と、隣に居る愛美も同時に噴き出す。なにしろまさに彼女の言う通り、つい今しがたまで身と心を交じり合わせていたのだ。
気まずさから事後の二人はカーっと真っ赤に茹で上がり、むしろ見つからぬように岩場の奥へと逃げ込む。
「な、なんか出て行きにくいわねこれ……」
「うぅ……涼美も野外であんなことを堂々と言わないでよ……」
完全に機を逸した二人などお構いなしに、なおも涼美は過激な想像を膨らませる。まさかすぐ近くで当人たちが聞いているとも思わずに。
「お兄も愛美姉の水着に我慢できずに、ケダモノのごとく今頃は襲い掛かっていたり」
「お前なぁ、自分の兄貴に酷い言い草だな。それに龍太さんは言っちゃ悪いけどヘタレのイメージあるぞ?」
本人がこの場に居ないと思ってそう呟く徹に対し、涼美はいたずらっ子の様な笑みを浮かべる。
「いっしっしっ、アンタ分かってないわね。確かにお兄は草食系だよ。でもね、意外とムッツリなんだよ」
「へえ、そんな風には見えないけどな」
あ…あの二人めぇ。好き放題言っちゃってぇ……!
言いたい放題に言われ続けて流石に飛び出そうとする龍太だが、隣で小さな笑い声が聴こえてきた。
「へぇ~、龍太ってムッツリなんだぁ?」
「ちょ、愛美まで変なことでいじらないでよ」
「まぁ確かにムッツリは不正解かもね。ついさっきまであんなに情熱的に食べられたんだから♡」
そう言いながら愛美はペロっと舌を出し、水着の紐をずらして挑発的なポーズを見せてくる。
「だ、ダメだって愛美。すぐ近くに二人が……」
「ふふ、龍太ったらかーわーいい♡」
自分の魅惑のボディで挑発され、うまい言葉も出てこず言い淀む彼氏に調子が乗って来る愛美だったが、岩の壁越しから聴こえてきた弟の発言で一気に熱が冷める。
「むしろうちの姉ちゃんの方が襲う側だぞ。ツンデレ肉食の姉貴が龍太さんの骨まで食い尽くすぞ。現に姉ちゃんはバレてないと思っているみたいだけどよ、毎夜家では隣の姉ちゃんの部屋から『龍太!』って叫びながら……ぐばぁッ!?」
すべてを言い切る前に愛美は飛び出し、そのまま勢いよく愚弟の後頭部に飛び蹴りをくらわしていた。
そのまま近くの手ごろな石を手に持つと、倒れている徹の頭部を殴り付けようとした。
「この大ボケ徹がぁぁぁ!! 殺してやるぅぅぅぅぅ!!」
「わあああああダメだよ愛美ぃぃぃ!!」
号泣しながら弟を亡き者にしようとする愛美を必死に取り押さえる龍太。
しばし放心していた涼美も我に返り、そのまま兄に加勢して必死に止めにかかる。
「離して二人ともぉ! まさか毎夜聞かれていたなんてぇ!! こいつの記憶を消去させてぇぇぇぇぇ!!」
「そんな物で殴ったら死んじゃうからダメダメ!」
「ちょ、落ち着いて愛美姉! 私ぜーんぜん何も聞いてないから! 毎夜お兄をオカズにしていたなんて知らないから!!」
「うわあああああああああああんんん!!!」
それから気を失っている弟に号泣しながら止めを刺そうとする愛美を止めるため、五分近く彼氏とその妹は荒れ狂う彼女を説得し続ける羽目となるのだった。




