番外編 龍太と愛美の2年目の夏
とある理由からこの作品の投稿を再開する事としました。一年ぶりに二人の物語を書くのは楽しかったです。とはいえ本編はもう完結しているのであくまで番外編を載せて行く予定となっています。主に龍太と愛美のラブラブっぷりに力を入れて書いていくのでニヤニヤしながら見てくれれば嬉しいです(笑)
「龍太、海に行くわよ海に!!」
「えっとぉ…急にどうしたの愛美?」
恋人からの唐突な『海に行く宣言』に龍太は思わず首を傾げた。
それは高校2年生の夏休みのある日のことであった。去年紆余曲折在りつつも晴れて恋仲となった愛美と共に夏休みの宿題を片付けている時の事、何の前触れもなく彼女が大声でそう告げて来たのだ。
「連日こうも暑くちゃストレス溜まって宿題を片付けるのも億劫なのよ。宿題どころか何もやる気が起きないの」
そう言いながら彼女は自分の長い髪をかき上げながら窓の外から入り込む日光を睨みつけていた。
確かに今年の夏は去年と比べると明らかに過酷な猛暑続きである。勿論今いる部屋は冷房を利かせて温度調整はしているが、それでも限られた小部屋限定の中の話。外に出ればジリジリと肌を照り付ける暑さでげんなりするのも無理はない。
「確かに今年はちょっと異常気象かもね。僕も涼を求めたい気分かも」
「でしょ、折角の長期休みを『暑い暑い』なんて言っている間に終わらせたくないわ。それじゃあ決定でいいわよね」
自分の意見に賛同した事で気分が良くなったのか今まで不機嫌だった愛美が一気に笑顔となる。
こうして二人はその翌日に広大な海へと向か……わずにショッピングモールへとやって来ていた。
「どうしてショッピングに……海に行くんじゃなかったの?」
「何言ってるのよ。まずは新しい水着の用意、海に行くならこれは基本でしょう」
「そ、そうなんだ。そこらへんはちょっと僕にはよく分からないかも……」
苦笑しながらそう言うとやれやれと言わんばかりに呆れられてしまった。
まぁ確かに女性は男性と違い身だしなみに気を使う傾向もある。龍太としても買い物に付き合う事だって別に苦ではないので文句などはない。
それに続けて彼女の口から出て来た次の言葉で龍太の心が浮き立つ事となる。
「それにさ、久しぶりに恋人同士で買い物デートもしたかったし……」
自分のツインテールの毛先をいじりながら愛美が照れくさそうにそう言う。熱のこもった視線を向けてこちらの反応を伺って来た。完全に素直になり切れない部分を残しつつ、愛情を込めた視線に射抜かれて龍太の体温も上がってしまい顔が熱くなる。
それでも龍太はその恥ずかしさを上回る嬉しさから彼女の手を握ると目的の店までリードしようとする。
「僕もその、愛美とのデートは久しぶりだから嬉しいよ。それじゃ水着だけじゃなくて色々と二人で見て回ろうか?」
「ふふっ、龍太のくせに必死にエスコートしようとするなんてね~。それじゃあキッチリ楽しませてもらおうかしら」
我ながら臭いセリフを口にしている自覚はあるがそれでも心からの本音に違いはない。
いかにも歯の浮くような役者じみたセリフを言われて彼女も半分は笑っていた。だがその顔は自分と同じく朱に染まっており、満面の笑みを浮かべていた。
まずは今回の買い物で一番の目的である水着選びの為に洋服店にある水着コーナーへと赴いた。流石は都内でも有名な大型店であり水着だけでもかなりの種類があった。その中で愛美は展示コーナーに飾られている水着を手に取って吟味し始める。
「う~ん、これぐらいがちょうど良いかしら?」
「えー、ちょっと柄が派手な気もするけど……」
自他ともにファッションセンスに乏しい事を自覚している龍太なのだが、現在彼女が手に取っている水着が少々派手すぎる気もした。少なくともこれだけの種類の水着があるのなら他にも彼女に似合う物もあると思うのだが。
ところが彼女がこの水着を『丁度良い』と言った理由はこの水着そのものを気に入ったからではない。この水着のある点に注目して自分にピッタリだと言ったのだ。
「別にこの水着に決めたわけじゃないわよ。ただ見た感じ丁度いい大きさだったのよ。その……水着のブラのサイズ……」
「ぶふッ!?」
彼女は自分の突出している胸部を見て恥ずかしそうに呟き、思わず龍太は盛大に吹き出してしまう。
確かに出会った時から愛美のバストサイズは平均を大きく上回っていた。だが交際してからこの1年で更に成長しておりカップ数も1カップ分アップしていたのだ。
思わぬ発言にテンパってしどろもどろとしている龍太に愛美がジト目で見つめながら言った。
「スケベ、何を想像して吹いてるのよ」
「べ、別に変な想像なんてしてないって。いきなり予想外の話題で驚いただけ」
そう言ってやましさなど無いと弁明しようとする龍太。
その慌てふためく彼氏の反応を見て愛美は内心で面白くなったのか、周囲に人目が無い事を確認してからスキンシップを取って来た。
「あんなカッコよくエスコートしてやるって言っておいて赤くなっちゃってぇ。ウチの彼氏はいつまで小心者なのかしら?」
「ちょ、むむ胸が当たって……!」
当初はツンデレ属性だった愛美であるが交際してからはこのような大胆な振る舞いをしてくる。豊満な胸を押し当てながら腕に抱き着く恋人の大胆な行動ぶりにもう龍太の顔はゆでだこ状態だ。その様子を数秒楽しんだ後、ゆっくりと離れようとする彼女だが耳元でこう囁いてきた。
「今年の夏こそは……大人の階段を一緒に上りたいな……」
そう言った彼女の眼には冗談でなく本気の期待が籠っており龍太の理性をさらに削る。そして頬に一瞬のキスをすると小悪魔の様な笑みを浮かべる。
「さて、じゃあ他のサイズの合う水着を選ぶから一緒に見て回りましょっか」
そう言いながら離れて行く恋人に龍太は何も言えないでいると彼女がこちらを振り返る。そして声は出さず口パクでこう言っていた。
――『い、つ、で、も、わ、た、し、は、オー、ケー、よ♪』
羞恥心を残しつつそう悪戯っ子の様に誘う恋人。そんな押しの強い彼女にすっかりからかわれ、ヘタレな龍太は顔から煙を出し俯く事しか出来ないのだった。
だが同時に彼の心中では一つの予感があった。この夏の間に自分と彼女の関係は更に深く進んで行くだろうと言う予感、そして本心でそれを望んでいる自分が居ると言う事に。
今後も不定期的ですが番外編を載せて行く予定ですので、もしよろしければこの作品をまた応援してください。また何故この作品の番外編を載せる事にしたのか、その理由は今後の活動報告の方でお知らせしようと思いますのでしばしお待ちください。




