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女装少年が因縁を吹っかけられました

久々の更新です。今後はこっちもちょくちょく更新していく予定ですので応援よろしくお願いします。


 突然の男の娘喫茶のヘルプに入る事となった龍太は必死になって接客業に努めていた。本音を言うのであれば今すぐにでも全力疾走で逃げ出したい心を押し殺して。

 本来であれば男の自分が着るはずの無いメイド服を纏わせて羞恥心を殺しお客に料理を運ぶ。まあ恋人や妹に女性ものの服は何度も強引に着用させられた事はあるのだが……。


 「お、お待たせしました。こちら『愛情たっぷりオムライス♡』となります」


 「いやーありがとう」


 出来る限りの裏声を出して料理を席に届けるとお客の男性が馴れ馴れしく話し掛けて来る。


 「君凄くレベル高いね。僕はこの店の常連だけどもしかして新人さん?」


 「あはは、ノーコメントでお願いしますお客様」


 適当にはぐらかして次の注文を取りに向かう龍太。


 う~んさっきから頻繁に色々なお客さんが話し掛けてくるなぁ。


 仕事中と言う事で表情には出さないように努めているが龍太は内心で辟易とした顔を浮かべていた。

 この店のオーナーからの指示でお客に個人情報を教える事は固く禁止されている。実は以前にこの彼のような常連客の1人がお気に入りの子に必要に迫り半ば強引に自宅住所を話してしまった事があるらしい。その結果なんとバイト終わりの帰路でそのお客に襲われたそうなのだ。

 歪んだ愛情を持つ男性客に襲われる男の娘、絵面を想像すると思わず龍太の背筋が冷たくなった。


 だがこの店で気に入った男を毒牙にかけようと目論むのは何も男性だけとは限らない。この店には女性のお客だって大勢訪れるのだ。


 そう……獲物を吟味する雌豹の1匹が密かに龍太を狙っていたのだ。


 「おーい私の注文したフルーツパフェはまだなのかしら~?」


 「す、すいません! ただいまお持ちします!」


 一番奥の席に居る女性客に注文のパフェを運んでいるその時だった。その女性客は龍太がもう席のすぐ近くまでやって来たタイミングで急に声を少し張って急かして来たのだ。

 普通ならばあと数歩で席に料理が届くのだから辛抱しろと不満を抱くだろう。だがお人好しの龍太はその女性客に不快感を与えてしまったと思い少し慌ててパフェを運んでしまった。それこそがこの女性の狙いだとも気付かずに。


 「よっと」


 「なっ、うわっ!?」


 催促されて心理的に急かされた龍太は足元の意識が散漫となっていた。なんとその女性客はお盆の上のパフェをテーブルの上に移そうとしたタイミングで龍太に足を引っかけたのだ。当然だが予想もしなかった客からの妨害に対応しきれず手に持っていたパフェがテーブルの上に零れてしまう。

 

 「ちょっとなんて事をするのよ! 私のスカートにシミができたじゃない!!」


 「あ、す、すいません……」


 「すいませんじゃないわよ。ほら見てこれ、お気に入りのスカートが汚れたわ。どう責任を取ってくれるのかしらぁ?」


 確かにパフェを零してしまった自分にも非はあるだろう。だがもし勘違いでなければこの女性は自分から脚を出して引っかけていたと思うのだ。それにスカートが汚れたと言っているがパフェはテーブルの中央に零れておりクリームなどがテーブルの外に飛んでいる痕跡は見受けられない。

 だが自分が体勢を崩した事は事実であり、それに彼女が妨害行為を働いた証拠も無く龍太はとにかく頭を下げ続ける事しかできないでいた。


 「本当に申し訳ございません。クリーニング代に関しては弁償します。ですのでどうか……」

 

 「はぁ~……クリーニング代って。もしかしてお金さえ渡せば許されると思っているの?」


 「け、決してそのような事は……」


 「時々居るのよねぇ。あなたのように金さえ出せば物事が穏便になると思っている浅い考えの人~」


 必死に頭を下げて謝罪を述べる龍太に対して女性客はネチネチと陰湿な責め方をする。

 お客に何度も頭を下げる龍太へと次第に周囲の客からの視線が集まる。そうやって人に意識を集めたところで更に女性は龍太の精神を追い込んで行く。


 「ほら見てよ。周りのお客にまであなたは迷惑を掛けているのよ? 自分がお客さんに酷い事をしている自覚はある?」


 「ご…ごめんなさい……」


 追い込まれた龍太の頭の中には向こうから足を引っかけられたと言う疑念がすっかり消えてしまっていた。そうやって相手が全面的に非を認めた事を理解するとこの女は本性を剥き出しにする。


 「でも私も鬼じゃないからさぁ、あなたの〝自宅〟の住所を教えてくれる? それからついでにスマホの番号もね」


 そう、初めからこれがこの女の狙いだったのだ。

 この女はいわゆる可愛い系の男性が好みの肉食女子だった。自分の気に入った男を見つけてはこうやって卑劣な手段を用いて自分の物にしようとするのだ。今回の龍太に限らずこれまでも自分の気に入った男を見つけてはこのような手段で脅し自分の玩具としとしてキープし、そして最終的に飽きればまた別の男に乗り換える。


 まるで小動物のように困り果ててオドオドする龍太の姿に女性は内心で舌なめずりをする。


 ふふ、本当にラッキーだわ。まさかこんな私好みの可愛い男の娘の新人が現れるなんてね。今の彼氏にはもう飽きたし絶対にこいつを手にしてやる!


 醜い内心を隠しながら彼女はなおも自身が被害者のように振る舞い龍太を威圧していく。


 「ねえ何をずっと黙り込んでいるの? あなたは私に迷惑を掛けたのよ? そのお詫びとして私の言う事ぐらいは素直に聞きなさいな。別に法外な大金を求めている訳じゃないのよ。ちょっとあなたの情報を教えてくれるだけでいいの」


 そう言いながら女性は龍太の腕を掴んでグイッと自分の顔の近くまで引き寄せる。そして周囲の客には聴こえぬよう彼の耳元でこう囁きかける。


 「早く家の住所とスマホ番号教えなさいよ。それともこの店のレビューに最低評価付けるわよ。アンタの凡ミスのせいでこの店の客足が今後減るかもしれないわよ」


 自分のせいでこの店に迷惑が掛かる。その脅しに龍太の顔色は更に青くなる。その様子にもう一押しと思って更に追い詰めようとする女性だがそこに割って入る人物が居た。


 「さっきから随分とふざけた言い掛かりを言っているじゃない。これ以上の暴挙は流石に許せないわよ」


 理不尽な因縁をつける女性、そして事の成り行きを見ていた客達の視線を一身に浴びて現れたのは龍太の恋人である愛美だった。


 「はあ? いきなり口を挟んで何? てーゆか言い掛かりじゃなくて私が彼から被害を被ったのは事実なんですけど~」


 そう言いながら彼女は物証と言わんばかりに自分のスカートのシミを見せつける。

 だがそんな彼女に対して愛美は予想外のカードを切って来たのだ。


 「へえ~被害を受けたねぇ。でもその割にはこの動画の中でアンタが龍太に足を引っかけているように見えるんだけど」


 「なっ!?」


 そう言いながら愛美は自身のスマホを突きだす。その動画の中にはテーブルにパフェを置こうとする彼に足払いの様に勢いよく足を引っかける女性の確たる姿が映り込んでいた。

 まさか犯行の瞬間映像を出されるとは思わず女性が慌て出す。


 「な、何でそんな動画撮っているのよ!?」


 「う……べ、別にそれはいいでしょ。それよりもどうかしら? これでアンタが因縁を吹っかけている事実が証明されたわよ」


 そう言いながら彼女はズンズンと女性の方まで歩いていくとそのまま龍太を自分の元へと引き寄せる。そして低い声で言い掛かり女を睨みつける。


 「言っておくけどこの龍太は私の彼氏なのよ。こいつにちょっかいを出そうものならこの私が絶対に許さない」

 

 まるで猛獣の様な威圧感に気圧され女性はバツの悪そうな顔をしながら席を立つ。


 「ぐっ、ああもうっ! 客を脅すなんてマジで最悪っ! こんなクソ店なんてもう来ないわよ!!」


 そう言うと彼女はレシートを持ってレジの方へと逃げようとする。当然だがこんな事をしでかしておいてそうは問屋が卸さない。


 「ちょっと逃げる気かしら。このまま帰れるわけないでしょうが」


 「は、離せよコイツ!」


 横をすり抜けて行こうとする女の腕を掴んで引き留める。

 そこへこの店のオーナーもやって来て女性に詰め寄る。

  

 「お客様、少々お話があるのでこちらの方へ……」


 「な、何よ! 引っ張んじゃないわよ!!」


 そのまま女性客はオーナーや従業員に連れて行かれた。まああの分ならば少なくともこの店の出禁はくらってもう店に被害が及ぶことも無くなるだろう。

 その直後に周りの客や従業員達から一斉の拍手が送られた。

 

 「いやースカッとしたよ」


 「あのお客は以前からマナーがなっていなくて客の僕たちも迷惑してたんだよ」

 

 まるでヒーローの様な扱いに愛美は少々戸惑いながらも無事に彼氏の無罪を証明でき胸を撫で下ろすのだった。

 すると龍太が愛美の手をぎゅっと握って感謝を述べる。


 「ありがとう愛美ぃ」


 普段はいざと言う時に男らしさを見せる龍太だが精神的に追い込まれていた反動からだろう。危機が去った事で助けてくれた彼女を潤んだ瞳で見ていた。

 そんな小動物のような愛らしい仕草を見せられた愛美はと言うと――


 「……ごめん、ティッシュある? いやそこの紙ナプキン取ってくれない?」


 さっきまでカッコよさを帳消しにするほどの赤い果汁を鼻から零すのだった。


 それからはバイト終了時間まで特に何事も無く何とか無事に終わりを迎えられた。オーナーからは夏休みの間だけでもここで働いてくれないかと頼まれたが勿論全力で拒否した。

 

 店を出て帰路へとつく中、龍太にはある疑問がくすぶっていた。


 う~ん……それにしても1つ気になる事があるんだよなぁ~……。


 「ねえ愛美、あの女性客も言っていた事だけどどうして僕が足を引っかけられていた場面の動画をピンポイントで撮影できたの?」


 「あ、ああ~あれ? 実はあの時に偶然なんだけど学校の友達からメール来てさ、仕事中だったけど気になってスマホ開いてたのよ。そしてら偶然にもあんたがあの女に急かされていたから嫌な予感してさぁ……」


 「ああそういう事。本当なら仕事中にスマホは駄目だって言いたいけどお陰で助かったからちょっと複雑かも……」

  

 愛美の理由を聞いて複雑そうに首を傾げる龍太だが実は真実は違う。


 「(あ、あっぶな~。まさか龍太が可愛すぎるからコレクション用に動画撮影していたとは言えない空気よね。この真実は墓場まで持っていこうと)」


 実際は愛美も恋人同士と言う関係でなければかなり際どい事をしていたのだが抜けている彼氏のお陰で何とか気付かれずに済んだ。


 こうして色々な波乱はあったが龍太の女装デートの1日は幕を下ろした。ちなみに愛美の持つ秘蔵ファイルに今日のバイトで働く龍太のメイド服写真が追加された事を当の本人は知らなかった。



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