女装少年がまさかの二人に三度会いました
無事に水着を買い終えた愛美と龍太は時刻も昼と言う事で近くのファミレスへと入ろうとしていたのだが……。
「ねーねー君達可愛いねぇ。奢ってあげるからこの後俺達に付き合ってよぉ」
「そーそー、お互い二組同士と言う事でそれぞれ個別にデートしない?」
ファミレスで何を食べようかと考えていると背後から大学生ぐらいと思われる二人組の青年に絡まれてしまった。しかも相手の青年達はどうやら龍太の事を完全に女性と思っているらしくダブルデートを提案してくる。
自分と一緒に隣の彼氏までナンパされて思わず愛美も内心で動揺する。視線を隣に向けてみると自分が口説かれている現実に思考が追い付いていないのか龍太の眼は小さな点となっている。
まさか龍太も一緒にナンパされるとは。ほんと私の彼氏ったら可愛すぎでしょ……。
それにしても大学生二人組の青年に絡まれるこの状況、まるで初めて龍太と巡り合った時とデジャヴを感じる。
通常であれば龍太が威圧感と共にこの手の相手を追い返すのだが……。
「いやー君背ぇ小さいねぇ。俺って君みたいな小動物チックな娘って凄い好みなんだよねぇ~」
「え、いやぁそう言われても困ると言うかぁ……」
下心を剥き出しの顔面で迫られ龍太が引き攣った顔を浮かべる。同性からナンパを受けて憤り以上に気持ち悪さの方が上回っているようだ。
とにかく愛美としても折角のデートに水を差されたくないので気丈な態度で追い払おうとする。
「どうして私達が初対面のあなた達と一緒にデートをしなければいけないのかしら? あなた達に誘われずとも今私はここにいる龍太と楽しく過ごしているから邪魔しないでくれる?」
「おー見た目以上にキツイ性格してるねぇ。俺はそっちの大人しそうな娘より君のような強気な娘の方がタイプかなぁ」
そう言いながら男の視線は愛美の胸部へと向いている。
もう気持ち悪いわね。人の胸をジロジロと見てんじゃないわよ!
品性が欠片も感じられない視線に愛美が嫌悪感を表情へと本格的に滲ませる。その下卑た視線は龍太も気付いており彼は愛美の前に立ちはだかると強気に振る舞って見せる。
「悪いんですけど今彼女は僕とデート中なんです。お引き取り願えますか?」
「おおーまさかの百合カップル? いいねーそういう娘達って更にグッとくるよ~」
未だに龍太を女性と思い込んでいる男の1人が調子に乗って龍太の肩に触れようとした時だった。
「ちょっと何をダサい事してんのよぉ。女の子を困らせるもんじゃないわよぉ」
ナンパ二人組の行動を見かねて助け舟を出してくれる人物が居た。
自分達の邪魔をされた二人組は一気に顔つきを険しくしながら振り返って下らない横やりを入れて来た相手を睨みつける。
龍太達を助けに入ってくれたのは二人の女性なのだが……どこか違和感を感じる。と言うよりもこの二人どこかで見たことがある気が……。
「ああん何だよお前等? 俺達はこっちの可愛い子ちゃん達に声かけてんだよ。お前等みたいな平凡女はすっこんでろ」
「そーだよ地味女共。お前等なんか眼中にないんだよ」
決して不細工と言う訳ではないが龍太や愛美と比べると割り込んで来た二人の女性は確かに平凡そうな見た目をしている。
その失礼極まりない言い分に龍太と愛美は益々腹が立ちナンパ男共の暴言を止めようとするがこの女性達はとんでもない行動を取って見せたのだ。
「「余計なお世話よこの馬鹿共!」」
「「びぎゃあああああああッ!?」」
何と女性達は同時に片脚を勢いよく上げたかと思ったらそのままナンパ男共の股間を蹴り上げたのだ。そうなれば当然男達はタダで済むはずもない。これまでの人生の中で1、2を争う程の激痛によって二人は揃って絶叫を上げてその場で蹲る。いや、下手をしたら男として死んでいるかもしれないと考えると断末魔と言う表現が正しいのかもしれない……。
「さあ逃げるわよ!」
「人が集まる前に遠くまで行くわ!」
「「ちょ、ちょっと…!」」
強引に自分達を離れた場所まで連れて行こうとする女性達に抗議の色を示す龍太達だがそうも言ってられない事にすぐに気づく。
こんな真昼の街中であんな地獄の底から出てくるような叫び声を上げれば当然人が注目する。振り返れば蹲っている男達を遠巻きに眺めている者達がすでに何人も確認できる。あの場に留まれば自分達まで大勢の視線に晒されると理解したのかここは素直に従っておくことにする。
しばらく移動を終えるともう大丈夫だと判断したのか龍太達から手を放す二人。
「これだけ離れればもう大丈夫ね」
「あの…助けてくれてありがとうございました」
少しやりすぎな気もするが自分達を助けてくれた恩人に頭を下げる龍太達。
それにしてもこの二人やっぱりどこかで見た事がある気が……。
改めて二人の顔を見るが不思議と初対面と思えない。ただの気のせいなのかと内心で首を捻っていると愛美が何かに気付いたのか『あっ!』と小さな声を漏らす。
「どうやらそっちの娘は気付いたようね。それにしても〝アニキ〟が見抜けないなんて私達の女装も中々に高レベルと誇っていいのかしら?」
「あ……あああああああああ!?」
ここにきて龍太もようやく目の前に居る二人の正体に気が付いた。
「まさか剛幡斉藤と太平扶村コンビ!?」
「お久しぶりね~〝アニキ〟!」
「もう今頃気付くなんて鈍いんだから~」
自分達を助けてくれたのは過去に二度の邂逅を果たしたチャラ男コンビの剛幡斉藤と太平扶村だったのだ。




