少年はツンデレ美少女の父親と対話しました
両親に会って欲しいと言う愛美の言葉から約1時間後に彼女の両親はほぼ同じ時間に帰宅して来た。まさか娘の彼氏がこんな遅い時間帯に我が家に居るとは思っておらず彼女の両親も少し驚いていた。その際に父親の方は噂に聞いていた彼氏を目の当たりにしてどこか引き攣った顔を浮かべていた。
ちなみにだが龍太はもう既に自分の母親に少し帰りが遅くなる事を告げている。その連絡の際に愛美にちゃんと謝り破局せずにすんだ事を知ってスマホの向こう側から安堵の息が聴こえてきた。
兎にも角にもこうして彼氏と恋人の両親との顔合わせの場が整った。
広々としたリビングには月夜家の父、母、弟、そして愛美の4人が勢ぞろいしている。
「あの…今日は自分の為に時間を作ってくれて本当にありがとうございます。娘さんとお付き合いをしている金木龍太と言います」
独特な緊張感に潰されそうになりながらも彼女の両親へと挨拶を行う。それに対して愛美の母は意外にも軽い口調で受け答えしてくれた。
「愛美に彼氏ができたって聞いた時は驚いたけど真面目そうな子で安心したわ。龍太君だったわね、こちらこそ娘がお世話になっています」
愛美の母はそう言うと笑顔で自分を受け入れてくれた。こちらの方は特に問題はないのだがその隣に居る彼女の父の方は少し気難しそうな顔を未だに向け続けている。
その険しい顔を見かねたのか弟の徹がフォローを入れてくれた。
「おい父さんそんな難しい顔する事ないじゃん。もう姉ちゃんに彼氏が居た事は知っていたんだし……」
「分かっている。んんッ、すまなかったね龍太君。気を悪くしてしまったかな?」
「い、いえ決してそんな事は……」
軽い咳払いと共に自分に謝罪して来た父親に大丈夫ですと返す。
「娘から初めて彼氏ができたと聞いた時は驚いたよ。これまで男性の告白をずっと断り続けていた事は私たち家族もよく知っていたからね」
「そうなんですね」
「正直……家族を除いて愛美は少し男嫌いと言う節があったように思っていた。だからそんな彼女が恥じらいながらも嬉しそうに君の話をしている時は君に感謝すらしていたんだ。ここまで自分の大事な娘を笑顔にしてくれるなんて素敵な人と巡り合えたんだろうと」
そう語る彼の表情は娘を本当に愛している優しい父親の顔だった。しかし途中で話を区切ると彼は途端に少々厳しい顔つきになりある質問を飛ばす。
「だが昨日家に帰って来た娘は今までにないくらい悲しい顔をしていたんだ。詳しい訳を愛美は教えてくれなかったがどうやら君と何かしらの問題があった事は把握している」
この瞬間、龍太の胸にはジクリと刃物を突き刺されたかのような痛みが生じた。
分かってはいたけどやっぱり僕は愛美の心を追い込んでいたんだな。どこまでもお前は情けない男なんだ金木龍太……。
昨日一晩中悲しみに暮れていた愛美の姿を想像すると罪悪感で胸が圧迫されそうになる。だがここでへこたれて項垂れるだけでは何にもならない。目の前で自分の答えを待っている彼女の両親だってただ黙り込むだけの男に命より大事な娘との交際など認めたくないだろう。
心の中で自らの罪で押さえつけられる自分を振り絞って龍太は自分の罪を話した。
幼馴染とのトラブルによって自分は愛美の気持ちを蔑ろにしていた事、その結果一番大事な恋人の彼女を無自覚に苦しめてしまった事を赤裸々に誤魔化すことなく語りつくした。その話の間は彼女の家族は無言で聞き続けた。
「僕は一番愛すべき人の心を無意識のうちに蔑ろにしてしまいました。そのせいであなた達の大事な家族を傷つけ、あなた達にも心配させて申し訳ありませんでした」
自分の罪科を述べ終えるとしばしの静寂に部屋の中が包まれる。その静かな空間に切り口を入れたのは愛美の父であった。
「そうか…今の話を聞いて私は君と言う人間に一抹の不安を覚えたよ」
「あなたそんな言い方ないでしょう」
「黙っていなさい。龍太君、話を聞く限りでは君も随分とその幼馴染に苦しめられていたのかもしれない。だから意識が散漫になった事も多少は理解できるし同情もする。でもね、ここぞと言う時に自分の大事な人の気持ちを汲めない事はやはり間違っていると思う」
「おっしゃる通りです。今のあなたのお怒りも当然だと思います」
「そうだね。だが自分の罪を包み隠さず我々に話したと言う点を考えればここで愛美ともう関わるなと言うつもりはない。それに一番大事なのは君と愛美の気持ちだからね。だから今この場で君の言葉で我々に誓って欲しい。もう二度と愛美を悲しませはしないと」
問われる覚悟を前に龍太は真っ直ぐに愛美の3人の家族を見て自分の心からの本心をぶつけ誓言した。
「僕はこの先もう二度と愛美さんを悲しませないと今この場で誓います。ですから娘さんと結婚を前提としたお付き合いを認めてください!!」
膝を揃えて畳んだ状態で深々と頭を下げて一世一代の交際を飛び越え婚約を認めてほしく魂から叫ぶ龍太。そんな少年の覚悟を目の当たりにして彼女の父親は………。




