月夜愛美は金木龍太に1つの約束を求めました
幼馴染との決着を終えて最愛の人の元に訪れた龍太。そんな彼に対して愛美は未来に1つの約束を求めます。それでは本編どうぞ……。
本当なら今頃愛美はもうテストがすぐそこまで迫っていると言う事で龍太の家で一緒に勉強している頃だろう。だが今の彼女は自分の部屋で勉強机に向かっている。だが机の上に広げられているノートの隅に愛美は落書きをして勉強に全然身が入っていなかった。
はぁ……何やってんのかな私は……。
彼女の頭の中はテストの事なんて微塵も入っていない。ならば彼女は一体何を考えているのか? それは決まっている。恋人である龍太の事を昨日から一日中考え続けていたのだ。
昨日の彼から逃げ出してから愛実は電話にもメールにも出ず、今日も学校で彼の姿を見ても避けるように振る舞ってしまった。そんな事をすればあの龍太が悲しまない訳がないと理解はしている。それでも彼女は恋人のあの決断は納得できなかった。どうしてこんな辛い思いを与えた相手を許してしまえるの? そんな疑問と共に湧き上がって来たのは幼馴染に対する〝嫉妬〟でもあった。
あんな風に盛大な裏切りをかました幼馴染を許す場面を見てしまえば彼の心が自分よりも高華天音の方に向いているのではないかと疑いたくもなる。
「これから私はどうすればいいのよ? あなたにとって私は何なのよ龍太ぁ……」
胸の内から悲しみがじわーっと溢れてきて涙目になりかけている。
そんなどうしようもない苦しみに内心で悶えていると家のチャイムが鳴る。普段であればカメラで相手の姿を確認してから玄関に出るのだが今の愛美にはそこまで思考する余裕が無かったのか、それとも深く考えて行動するのが億劫だったのかこの日は相手を確認せず家のドアを開けてしまった。
「あ……」
「いきなり来てごめんね。電話もメールも拒否されちゃうから……」
玄関を開けて立っていたのは恋人である龍太だった。
本来なら大切な恋人である彼は愛美にとって受け入れるべき相手なのだろう。だが彼女は彼から目を逸らしながら玄関から外に出ず、一体何をしに来たのか尋ねる。
「どうして来たの? 何か大事な話でもあるの?」
この時に愛美の中では最悪の未来がよぎっていた。
もしかして別れ話でもしに来たとか? 天音ともう一度やり直すから別れようなんて言い出す気じゃないでしょうね……。
だが彼女のその最悪の結末は外れてくれる。なんと龍太はその場で頭を下げて謝罪をしてきたのだ。
「ほんとうにごめんね愛美。僕は君の苦しみを蔑ろにし続けていた。本当に…ごめん……」
そう言いながら視線を下げている彼の瞳からは涙がポツポツと地面へと落下していた。
「ねえ龍太…わたしね、苦しかったんだよ」
その消え入りそうな言葉に龍太の心はますます押しつぶされそうになった。
「確かにあんたが反省した幼馴染を許す事は綺麗な事かもしれないわ。でもさ、あんたの恋人は私だよね? そんな私よりも幼馴染を見て、幼馴染の事を考えて私がショックを受けない訳ないじゃない」
何一つとして言い返せないほどに愛美の言う通りだと龍太は実感をする。それと同時にここまで自分が誰よりも大事にしている相手を苦しませた自分に怒りすら感じる。もしも昨日の自分が目の前に現れたら自分はぶん殴っていただろう。それほどに過去の自分の行動が酷いものだと自覚していた。
それからも愛美は自分の胸の内の怒りを、不安を、悲しみを龍太にぶつけ続けた。
「大事なあんたを苦しめた高華天音の非道を怒っていた私が馬鹿みたいだと思ったわ」
その通りだ。天音が自分を裏切ったように僕もまた自分の為に怒ってくれた愛美を裏切ったと言っても過言ではないだろう。
「それに怖かったわ。だって罪を犯した幼馴染をあんな優しく許すんだもの。もしかしたらあの娘に心変わりするんじゃないかって怖かった」
決して天音に愛情が移る事は無かったと自信を持って言える。だが自分の行動を見れば信用されないのも無理はないだろう。
「もう龍太は私なんてどうでも良いんじゃないかって……気まぐれに捨てられるんじゃないかって悲しかったんだからぁ……うう……うわぁぁぁ……」
溜め込んでいた全ての負の感情を吐き終えると愛美はその場で膝をついて子供の様に泣いた。
まるで幼子の様に涙を零す姿に龍太は思わず自分の顔面を全力で殴りつけた。その際に口の中を切った出血したが関係ない。それから愚かな自分を2度、3度殴りつけるとその場で龍太は土下座をして愛美に謝り続けた。
それからしばし互いに泣きじゃくり終えると龍太は愛美の部屋へと招かれた。
二人は部屋の中央で互いに向き合う形で座り合っている。
「ふ~ん、じゃあ高華天音とは縁を切ったんだ。正直驚いたわ、あんたの方から幼馴染を斬り捨てれたなんて」
「うん…でも思い知ったよ。僕も彼女も互いに依存していたんだった」
「依存……まさにその通りかもね……」
あれだけ酷い目に遭わされても許しを与えられる彼を見ればその表現はすんなり納得できた。
もしも龍太と高華の二人が出会わなければ二人違う人生を歩めたのかもね……。
あくまで予想に過ぎないがもしかしたら龍太と高華の二人は大して仲の良くも無い知り合い程度ならば二人の中に歪みが生じる事もなかったのかもしれない。龍太は優しくとも非情になるべき時は徹する人間になれたのかもしれない。そして天音も龍太の優しさに付け込んで傲慢ぶりが増長する事もなかったのかもしれない。
そう考えると二人が巡り合ったのは悲劇としか言いようがないのかもしれなかったわね。
とは言え結局は龍太の優柔不断な部分が自分を傷つけた事には違いない。そのせいで自分が苦しんだと言うなら罰は与えるべきだ。そうでなければ少なくとも愛美は恋人に与えられた精神的苦痛を水に流す事は出来そうになかった。
「ねえ龍太、あんたが自分の浅はかな行動を悔いている事は分かったわ。でも私はまだ心配なのよ。もしかしたら龍太はまた今回の様に私を蔑ろにするんじゃないのかって……」
「そんな事は絶対にない……と言うのは簡単だけど愛美は納得できないよね。これまでの僕の行動を思い返せば当然だけど……」
「……改めてあんたの口からちゃんと聞きたいの。ねえ龍太…あんたは私が好き?」
「うん…大好きだよ。それだけは命を掛けて言える」
「じゃあさ、この先も一生私を好きなままでいれる? 生涯を掛けて私の隣に居ると誓える?」
「言える! もう二度と君を悲しませないと誓う! もし僕がまた君の気持を蔑ろにする時は気のすむ制裁を加えてくれても構わない! これだけ悲しませてもまた同じ過ちを繰り返す様なら僕のことを容赦なく捨ててくれても構わない! だから……だからもう一度僕と一緒に居てください」
そう言うと龍太は愛美の手を取って自分とこの先も居て欲しいと願った。今彼が口にした事は全てが本心だ。だからもしここで愛美がやはりあなたは信用できないと言って自分の手を振り払ったのならば自分は潔く身を引く覚悟もあった。こんなふらふらしている男を信用できない気持ちも分かるからだ。でもまだ自分と一緒に居てくれると言うなら今度こそ間違えることなく彼女とこの先の人生を共に歩みたい。
「……本気で私が好きだって言うなら今ここで私と1つある約束してほしいわ。龍太とこの先も一緒に居るかどうかはその答え次第よ」
「うん、何かな……」
「私を生涯愛すると言うなら今この場で誓ってちょうだい。将来……私と結婚するって……」
そう言うと愛美は龍太へと抱き着いた。
もしここで彼が返事に戸惑うようなら愛美はここで龍太ときっぱり別れようと考えていた。自分のこの一世一代のプロポーズに迷いを見せる様なら彼を信用する自信を持てないからだ。だが愛美はここで龍太に頷いて欲しいと心から願う。だって一度は失望したがそれでも自分は龍太が大好きだから。
そんな彼女の不安を消してくれるかのように龍太は彼女を力強く抱きしめながら迷うことなく返事をした。
「こんな僕で良ければ喜んで。うぅ……嬉しい……愛美……もう間違えないから。僕のこの世で一番大好きな人……必ずあなたを幸せにしてみせます」
自分のような人間をもう一度信じ、そして生涯のパートナーになってほしいと言われ龍太は喜びのあまり涙が止まらなかった。
「ほんと……泣き虫ねあんたは。結婚してからが思いやられるわよ……」
そう言いながらも龍太に抱いていた怒りや不安はもう溶けて消えていた。また彼と心が重なり合った事を愛美は喜び共に嬉し涙を零す。
だが彼を完全に信じる為にはもう1つしてもらわないと納得できない事があった。
「ねえ龍太、本気で私を妻として迎え入れる未来を歩む気ならあんたにはもう1つやってもらいたい事があるわ」
「うん何でも言って。愛美とずっと一緒に居られるならなんでもできるよ」
「じゃあまだ帰らないでもう少しこの家に居て。もう少しで私の両親が帰って来るわ。私を誰よりも大事にするなら私の両親の前でちゃんと私を幸せにしてくれると約束して見せてよ」
こうして1時間後、龍太は愛美の両親と対面する事となるのだった。
自分の歪んだ優しさに気付いた主人公は恋人と無事にやり直す事が出来ました。これ以降は今までよりも二人のいちゃいちゃするシーンをお見せしていくつもりです。そして幼馴染の方は主人公とほとんど関わる事はなくなりますが停学明けに苦労していく事になります。そっちの方もちょくちょく書いていくつもりです。




