そして色々となにかが決まった。
「やあ、ユーファネート。子供達だけのお茶会はどうだったかな? 楽しめたかい? 殿下とは仲良くなれたかな?」
セバスチャンに連れられ、アルベリヒとマルグレートがやってきた。開口一番にアルベリヒから希に質問が飛んできた。それに答える前にギュンターの姿も見えたが、面白くなさそうな顔をしてレオンハルトとユーファネートを見ており、そんな兄の様子に希は首を傾げつつも父親に向かって花咲いた笑顔で答えた。
「はい! レオン様と仲良くなれました。夢のようなひとときでした」
「お、おい。ユーファネート。殿下への呼びかけかた――」
「気にしないで欲しい侯爵。私がユーファに『レオンと呼んで欲しい』とお願いしたのだよ」
「あらあらまあまあ。愛称で呼ばせてもらえるなんて。それにお互いに愛称で呼び合う仲にまでなったのね」
ユーファネートの返事にアルベリヒは驚きながら確認し、レオンハルトの返事を聞いたマルグレートは微笑ましそうに2人を見る。そんなレオンハルトの発言を聞いたギュンターが怒りの声を上げた。
「なっ! レオン……ハルト殿下。ユーファを愛称で呼ぶなんて、なにを考えているのですか!?」
「気にするような事かい? ギュンターもユーファと呼んでるじゃないか?」
「俺は兄だからいいんだ……ですよ! もうなにも言いません」
「ごめんごめん」
ギュンターの反応を楽しそうに見つつレオンハルトが答える。からかわれている事に気付いたギュンターは、大きく深呼吸をすると無表情となった。これ以上は反応しないとの強い意思表示をしているギュンターに、レオンハルトは苦笑しながら謝罪すると、改めてユーファネートに向かって手を差し出した。
「これからもよろしくね。ユーファ」
「こちらこそ! よろしくお願いしますレオン様!」
笑顔のレオンハルトを見て、希も笑顔を返しながら握手だと思い何も考えずに手を差し出す。そして、レオンハルトが取った行動に、レオンハルト以外の者達は驚愕した。レオンハルトがユーファネートの手を取ると、そのまま跪いて手の甲に唇を落としたのである。
「なっ!」「まあ」「おい!」「……」
「……。にゃぁぁぁぉぁ!」
思わず硬直するアルベリヒ、扇を口元に当てて驚いた表情を浮かべるマルグレート。青筋を立てて怒りを露わにするギュンター。大きく口を開けて目を丸くするセバスチャン。そして希は、目の前で行われているレオンハルトの行動に反応出来ず、呆然としながら他人事のように眺める。自分の手の甲に触れている柔らかい感触。そしてそれがレオンハルトの唇だと気付く。全てを理解した希は、許容量を超えたのか全身を真っ赤にさせ大声で叫ぶと、そのまま意識を手放した。
◇□◇□◇□
「……殿下。先ほどの行動は『そうである』と、ライネワルト侯爵家として理解しますがよろしいでしょうな? 当人は喜びますでしょうし、そうなるのは侯爵として期待していたのは事実ですが、親の心境としては複雑だとご理解下さい」
「もちろんだとも。当然、私もそのつもりで行動したよ。こんな事を誰にでもするわけがない。様々な令嬢達と会ってきたけど、これほど気分が高揚したのは今日が初めてだった。彼女こそが僕が求め続けた女性だと確信したよ。僕は導かれた運命に抗う事なく受け入れるよ」
どこか遠くから聞こえてくる声に、希は「君☆(きみほし)」で聞いた事がある台詞だと思い出し小さく微笑む。そして徐々に近付いてくるように感じている声は、まだまだ会話を続けるようであった。
「分かりましたわ。殿下がそこまでユーファネートに心を捧げて下さるのでしたら、私達からはなにも言いません」
「ですが、いきなり登城させて王妃教育を始めるのは止めて頂きたい。下地となる教育は侯爵家の名において行います。それと学院を卒業するまでは、手を出すのを許しません」
母親であるマルグレートと、父親のアルベリヒの声が聞こえてきた。王妃教育? 学院を卒業するまで? なんの話をしているのだろう。興味を引かれた希が耳を澄ませていると、兄のギュンターが怒りの声を上げていた。
「俺は認めないかなら!」
「そんな事を言うなよギュンター義兄さん」
「誰が義兄だ! やめろ! 俺はユーファとレオンとの結婚なんて認めないからな! ユーファは俺と領地経営をこれからするんだ」
誰かがお兄様の弟になるのね。夢見心地の希がぽやっとした気分のまま、行われている会話に耳を傾けていた。どうやらユーファネートとレオンハルトが婚姻を結ぶ事で、ギュンターが兄になるらしい。それを全力でギュンターが嫌がっているようであった。
(いいじゃない。ユーファネートとレオンハルト様が結婚したら、私も家族の一員になるのでしょ。それならおはようからからお休みまでレオンハルト様と一緒にいれて、その姿を愛で続けられるじゃ……ユーファネート?)
「それって私の事じゃない!」
兄はなにをそんなに嫌がっているのかと、意識を覚醒させつつ話を聞いていた希だったが、なぜ自分が寝ているのかを思い出し、そして手の甲に付けられた唇の温かさ。眼下に広がった金髪と一房の赤髪。そして見上げて微笑む姿。そのレオンハルトとのやり取りを全てを思い出し希は飛び起きた。
「ああ、起きたようだねユーファ。目覚めはどうだい?」
「は、はい。最高です! いや違った。先ほどは失礼いたしました」
心配そうにしながらも微笑んでいるレオンハルトに、希はレアスチルを見ているような気分になりながらも謝罪する。そんな娘の態度に父親は難しい顔をしており、母親は誇らしそうにしており、兄は厳しい顔をしていた。
「今日はこれで失礼するけど、また定期的に来させてもらうよ。それと後ほど王宮から手紙を送るからね。返事はくれるよねユーファ?」
「もちろんですわ! レオン様からのお手紙は家宝にしますわ! それと、この右手の甲も永久保存にして洗わずに大事にします!」
「い、いや。そこまではいいかな。……。ユーファ? 本当に家宝にする気でしょ? 駄目だからね。それと右手も間違いなく洗うんだよ。いや、今から洗ってきなさい」
目を輝かせながら答えた希だったが、レオンハルトからは若干引き気味に釘を刺されるのだった。




