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ロード王国第五軍の初陣

21階層でのロード王国第五軍の訓練は3ヶ月続いた。

ダンジョンでは魔物を倒して行くと身体能力と魔力が上がる。

ハマス第五軍の隊員の能力は格段に上がっていた。

まさに一騎当千。いまではオーガを一撃で倒していく。

隊員のアイヴィーと私への忠誠心は揺るぎない物になっている。

こちらが怖いくらいだわ。


「よし!お前たちはこのまま訓練を続けろ!」


「サー!イエッサー!」


帰宅し、アイヴィーから今後の計画を聞く。


「もうそろそろ、エクス帝国がロード王国に宣戦布告をするはずだ。そのエクス帝国をボコボコにする予定だ。できれば少し劣勢になってからが第五軍は参戦する」


そこまて考えているんだ。

遂に始まるのか。

それから二週間後、エクス帝国はロード王国に宣戦布告した。


アイヴィーと私はロード王国の御前会議に出席する。

主戦論派と和睦派に分かれて白熱した意見を交わし合う。


主戦論派は第二王子のマリウス派である。

その中心であるサライドール公爵が大きな声で徹底抗戦を進言する。

和睦派は第一王子のパウロ派だ。

こちらもその中心であるエバンビーク侯爵が熱く意見を言っている。

エバンビーク侯爵としてはサライドール公爵に戦争で功を上げる事を危惧しているように思えるわ。


主戦論派のサライドール公爵がエバンビーク侯爵に皮肉を言う。


「エバンビーク侯爵は腰抜けなのか?一度も戦わずに和睦などと申す。それでは舐められるだけではないか」


周りからもエバンビーク侯爵は腰抜けだ、との声が上がる。


「サライドール公爵、今の言葉は取り消してもらおう。私は和睦が一番良いと思い陛下に進言しておる。別に腰抜けではない!」


「エクス帝国から攻めて来たのだぞ!それを何もしないで和睦などありえん!エバンビーク侯爵は帝国に通じておるのではないのか?」


おぉ!と会議出席車から(どよ)めきが上がる。


「それこそ何の証拠もない濡れ衣だ!即刻に取り消せ!」


「ならばその疑念を晴らすためにも、エバンビーク侯爵が先陣を切ってエクス帝国と戦うべきだろう。それなら誰も帝国と通じておるなどとは言わんだろ」


そうだ!その通りだ!の声が上がる。


「どうして和睦を進めておる私が先陣を切る事になるのだ!」


サライドール公爵とエバンビーク侯爵の言い争いが続く中、国王陛下であるナルド・ロードが口を開いた。


「皆の意見は分かった。和睦をするにしても一度は戦う必要があるだろ。そうしないとエクス帝国の言いなりで和議を結ぶ事になるだろう。エバンビーク侯爵よ。そなたがエクス帝国と通じておるとは考えていない。しかし疑念を持つものもいるだろう。第三軍と第四軍を預ける。早急に東に行き、エクス帝国と戦ってまいれ。以上だ」


結局、和睦派のエバンビーク侯爵を総大将としてエクス帝国を迎え討つことになった。

私はこの会議を見ていてエバンビーク侯爵が嵌められたような気がした。


私たち第五軍は王都で待機である。

夜にアイヴィーに吸血をしてもらう。

現在では首筋に牙が突き刺さるだけで私は果てるようになってしまっている。

吸血後、アイヴィーに確認をしてみる。


「ねぇ、今日の御前会議はアイヴィーの予定通りなの?」


「そうだな。エバンビーク侯爵には失脚してもらう予定だ。エクス帝国との戦いでは負けてもらうよ」


負けてもらうって?

何か画策しているのかしら?


「そんなにうまくいくの?」


「鷲の翼の連中を両方の陣営に入れている。この状態でどうやってエバンビーク侯爵が勝てるのか俺が聞きたいよ」


内部撹乱と相手との内通。

これは勝てる道理がないわ。

微笑を浮かべるアイヴィー。


「これから忙しくなるぞ!世界征服の第一歩がやっと始まるからな」


世界征服。

遂に始まるのか。

その先に何があるのか見てみよう。




エバンビーク侯爵が第三軍と第四軍を連れて東に向かっていった。

敗戦の報はその一ヶ月後に王都にもたらさせた。

壊滅的な敗戦を喫したようだ。

総大将のエバンビーク侯爵は捕虜となったそうだ。

勢いに乗るエクス帝国は近隣の街を落としながら王都に向かっているようだ。

エクス帝国の総勢は10万を超えているようだ。


王都に激震が走る。

急遽、御前会議が召集される。


主戦派と和睦派に分かれて意見を交わし合う。

和睦派の中心は先の戦いの総大将の息子のザイン・エバンビーク。

ソフィア姉さんの夫である。


ザインが発言する。


「今の戦力ではエクス帝国には勝つには難しいと思われます。ここは和睦の使者を送るべきかと」


ここで今まで御前会議で発言をしてこなかったアイヴィーが怒声を上げる。


「何を言っている!やはりエバンビーク侯爵家はエクス帝国と通じているな!だいたい総大将が戦死ではなく捕虜になっている事がおかしい!」


アイヴィーはナルド・ロード国王陛下に対して発言を続ける。


「陛下!我々第五軍に出兵の許可をいただきたい。必ずやエクス帝国を蹴散らしてきましょう!」


一瞬、アイヴィーの目が赤く光る。


「よし、わかった!アイヴィー、そなたに任せる。思う存分武勇を示してこい!」


「お任せください。陛下のご期待に応えてきます」


「ザイン・エバンビークはこの戦争が終わるまで捕縛しておけ!裏切りの疑いがあるからの」


アイヴィーを睨みつけるザイン・エバンビーク。衛兵に捕縛され連れていかれる。


帰宅して早速戦場に行く用意を始める。

第五軍は102名だ。相手は10万人。

一千倍の人数が相手だ。

これで勝てるのだろうか?

アイヴィーはいつもと同じ涼しい顔をしている。


「どれ、久しぶりに暴れるぞ!エルシーも好きに暴れろ。魔力切れだけには注意して、俺の近くを離れるな。魔力を補充しながら戦うぞ」


魔力を補充しながらって、胸を揉まれながら戦うって事じゃない!?

まぁ死ぬより良いか。


総勢102名のロード王国第五軍は東に向かった。


最初のエクス帝国軍との遭遇は相手の偵察隊の20名だった。

アイヴィーにあっさり場所を確定され、魔力球の餌食になる。


エクス帝国の先遣隊が街を襲っている。

第五軍の隊員がすぐに駆けつけてエクス帝国軍を倒していく。

オーガを一刀両断する第五軍の隊員は一騎当千だ。

襲われていた街を5つほど救ったところでエクス帝国軍の本体が見えてきた。

戦場はバラン草原。

大きな平原である。

アイヴィーは私を自分の馬に乗せて草原を駆けて行く。

真っ直ぐ相手本陣に突っ込んでいく。

私はアイヴィーに左胸を揉まれながら両手で魔力球を乱れ撃ちする。

左胸からすぐに暖かなアイヴィーの魔力が補充されていく。

私たちの周囲100mは肉片すら残らない。

天災のような突撃。

反撃をする意欲すら起こさせない圧倒的な恐怖を振り撒く。

我先に逃げ惑うエクス帝国の兵士。

第五軍の隊員は逃げ惑うエクス帝国兵士を倒していく。

アイヴィーの馬を遮る者は何もない。

私は本陣と思われる場所に魔力球を30発以上放った。

土と肉片が飛び散り、地面が抉れる。

土煙が無くなった時にはエクス帝国の本陣は跡形も無くなっていた。

アイヴィーはそのまま左側の陣の中央に向かう。

既に左側の陣は右往左往している。

こちらを迎え撃とうとしていた兵士に私は魔力球を連続で撃つ。

一瞬で瓦解するエクス帝国軍。

構わず突っ込んでいくアイヴィー。

逃げようとしていた左軍の指揮官を見つけた。

アイヴィーはこの指揮官を捕縛する事にする。

第五軍の隊員に命じて捕縛する。


その後はただの殺戮だ。

10万人の兵士が逃げ惑うだけだった。

天災とも言える圧倒的な力。

逃げ遅れた兵士は肉片に変わっていく。


こうしてバラン草原の戦いは終わった。


ロード王国第五軍が王都に凱旋すると凄い歓声で迎えられた。

英雄の誕生である。


エクス王国の左軍の指揮官を捕縛したまま、御前会議に出る。


アイヴィーが陛下に帰還の挨拶をする。


「ロード王国第五軍、ただいま帰還いたしました。バラン草原にてエクス帝国軍を蹴散らし、この指揮官を捕縛して参りました。この指揮官の情報が由々しき問題があり、御前まで連れてきた所存であります」


陛下が喜色満面でアイヴィーを労う。


「よくやってくれたアイヴィー軍団長!それで由々しき問題とはなんだ?」


「こちらの捕虜に確認したところ、エバンビーク家がエクス帝国に内通していると申しております。エバンビーク家はロード王国を売った逆賊です」


「な、なんと、それは本当か?」


私には見えた。

顔を下げているアイヴィーがニヤリと笑っているのが。


「それはこちらの捕虜にお聞き下さい。衛兵に引き渡しておきます」


「分かった。事は急いだほうが良いな」


「騎士団!すぐにエバンビーク家の家族を全て捕らえてこい!嫌疑が晴れるまで軟禁しておけ!」


ソフィア姉さんも軟禁されるのか。

まぁアイヴィーに敵対するからしょうがないのか。


アイヴィーが陛下に上奏する。


「このままエクス帝国に攻め入りましょうか?ある程度痛めつけておかないと、また東の国境が騒がしくなると推察します」


「おぉ!そうか!それならば頑張ってくれるか。敗北した第三軍と第四軍の再編成が終わっておる。そなたの第五軍と一緒にエクス帝国に攻め込んでくれ」


「此度の戦功により、アイヴィー第五軍軍団長をロード王国軍総督とする。それに伴い侯爵に叙爵する!家名にロードバルを与える!」


いきなりの出世だ。

アイヴィーはロード王国軍のトップと侯爵になってしまったわ。

でも国家存亡の危機だったのだから、それぐらいは当たり前かも。

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