尊厳
今日は冒険者ギルドからお金が入る日だ。
冒険者ギルドでお金を受け取ったらすぐに銀行に預ける予定になっている。
銀行員の武装馬車と一緒に冒険者ギルドに伺う。
冒険者ギルドの金庫に135億バルトは入り切らなかったようだ。
金庫の外にもお金が積んである。
銀行員にお金の受け取りを任せてアイヴィーと私はギルド長室に案内された。
中で待っていたのは美しい女性だった。
艶やかな緑色の髪。
柔らかな目。
綺麗な鼻筋と少し薄めの唇。
白い肌。
身体の凹凸は控えめだ。
少し儚い印象を与える。
何と言っても目を引くのは先の尖った耳である。
間違いなくエルフだ。
エルフの女性は私たちに挨拶する。
「私が今日よりこの王都の冒険者ギルドのギルド長になったフレイアだ。前ギルド長のゴライアスが随分と失礼な事をしてしまったようだ。その件についてまずは謝罪をしたい」
「別にこちらは困ってないので問題はないです。その謝罪は受け入れます」
「出会って早々の頼み事で心苦しいがアイヴィー殿にはお願いがあるのだが」
「何でしょうか?」
「今回のような大量の魔石の納入を一括でするのを止めて欲しいんだ。買い取りの現金がすぐには用意ができない。その度に遅滞金を1割払っていたら冒険者ギルドは破産してしまう」
「了解しました。もともとそのつもりだったんですけどね。馬鹿な奴がイキがっていたもので。今後は冒険者ギルドの魔石買い取り能力を見ながら納品しますよ」
ホッとした表情を浮かべるフレイアさん。
「そう言ってもらうとありがたい。今回の魔石は他の街に運び込んで売り捌いたからな。なんとか魔石の価値の暴落は防げたよ。それでも遅滞金のせいで儲けは出なかったから」
「話は変わりますがどうして森の守護者のエルフである貴女が冒険者ギルドに勤めているんですか?」
フレイアさんは遠くを見るような目をする。
「森の守護者とは、また古い言葉を知っているな。もうそれは昔の話だ。今は人間の社会で細々生活しているよ」
「エルフの尊厳は捨ててしまったのですか?」
「尊厳では腹は膨れないからな。これも時代の流れだ」
「なるほど。エルフは牙を抜かれてしまったのですね。独立戦争で亡くなった先祖はどう思いますかね?」
「なんとでも言ってくれ。夢を見るのは自由だが、夢は夢でしかない。夢は現実の前には無力だよ」
「わかりました。フレイアさんとは今のところ、考え方に相違があるようですね。また何かあったらよろしくお願いします」





