卒業記念
最近、何かバタバタしていたから忘れていたが、現在は冬休み。私はアイヴィー地獄の特訓の真っ最中だった。
一階層の魔法石から36回層に移動する。
36回層からはガーゴイルの他にレッサードラゴンが出現する。
レッサーといえどドラゴンである。
翼を広げれば6mくらいの幅になる。
頭から尻尾の先までも6mくらいだろうか。
頻繁に炎の球を吐き、ドラゴン特有の硬い鱗は剣や魔法を跳ね返す。
レッサードラゴンを討伐する時は比較的柔らかいお腹を狙うのが常識だ。
しかしここに非常識な存在がいる。
使う魔法も非常識だ。
その非常識な魔法を教えてもらった私。
私は優雅に飛んでいるレッサードラゴンに20㎝まで大きくなった魔力球を当てる。
爆散するレッサードラゴン。
私の常識が日々変わっていく。
ダンジョンで魔物を倒して行くと身体能力と魔力が上がっていく。
私はどこまで強くなるんだろう。
散歩のようにダンジョンを進んでいく。
私の索敵能力も相当上がっている。
敵のいる場所が何となくわかるようになった。
「相手の魔力を感じるようになったんだな。ここの魔物は魔力が大きいからな。もう少し慣れれば、街中で人がどの辺にいるのかもわかるようになるぞ」
アイヴィーは私を何者にしたいのだろうか?
そんな能力が必要なのか。
40回層の試練の間の前に着いた。
珍しくアイヴィーがすぐに扉を開けない。
「ここの試練の間の魔物のオーガキングは接近戦が強い。せっかくだからエルシーに魔法抜きで戦ってもらおうと思ってな」
試練の間の魔物で接近戦か。
ちょっと緊張する。
「オーガキングはオーガといっても身長は180㎝程度だ。ただスピードは速い。パワーもオーガを超えている。装備もしっかりしているから装備の隙間を狙っていくんだぞ」
私は左腰の細身の剣を握りしめた。
アイヴィーが60階層の宝箱から入手した剣だ。
刃は黒色にうっすらと赤みがかった色をしている。
見た目は結構、おどろおどろしい剣である。
私は気持ちを固め、試練の間の扉を開く。
ここの試練の間も30メートル四方くらいの大きさだ。
奥のほうに全身甲冑のオーガキングがいた。
こちらを見ると真っ直ぐ突っ込んでくる。
私も負けずにオーガキングに向かって走る。
試練の間の中央で交錯した。
私の袈裟斬りを剣で受け流す。
流れてしまった私の身体目掛けて斬りつけてくる。
身体を捻りその剣を躱す。
なるほど。相当強い。
隙が見当たらない。
オーガキングはこちらを窺っている。
私も同様に隙を探している。
膠着状態になってしまった。
魔力球を使えばあっという間なのに。
そう思った瞬間オーガキングが私の喉を目掛けて突きを放ってきた。
一瞬反応が遅れたが躱す事ができた。
突いてきた腕が伸び切っている。
最小限の動きで腕の内側の装備の隙間に剣を打ち込む。
飛び散る血と右腕と剣。
動揺をするオーガキング。
バックステップをするオーガキング。
私は距離を取らせない。
踏み込んでオーガキングの首を刎ねた。
なかなかの強敵だったが、まだ余裕があったわ。
アイヴィーがしっかりと安全マージンを取っている事に気がついて胸が熱くなる。
「ほれ、エルシーが倒したんだから宝箱はエルシーが開けろな」
私は階段状の祭壇を上り宝箱を開ける。
腕輪が入っていた。
アイヴィーに渡し鑑定をしてもらう。
笑い出すアイヴィー。
「どんな効果の腕輪だったの?」
「魅力を少し増す効果があるみたいだな。相手に対して魅力的に誤認させるようだ」
「そんな腕輪はいらないわ。でも私が装着したらアイヴィーも私がより魅力的に見えるのかしら?」
「俺に誤認の魔法は効かないよ。魔法耐性が高いからな」
それじゃ、全く意味がない。ハズレのお宝だ。
アイヴィーは腕輪を私の左手にはめる。
「俺には効かないが他の奴には効果があるんだからしておいて損はないだろ。それに卒業記念になるぞ」
卒業?
何の事だ?
「エルシーも40階層の試練の間を魔法無しで攻略したからな。俺との修行は一応終了だ。眷属筆頭として充分な強さだ。これ以上まだ強くなりたければ自分で鍛錬するんだな」
あっさりと地獄の特訓が終わってしまった。
何かあっけない。
本当なのかな?
「もう王都ダンジョンに来なくても良いの?本当に終わり?」
「なんだ、まだダンジョンに潜りたいのか?確かにまだドラゴンに会ってないな。どうせならそこまでやるか?」
私は全力で首を横に振った。
「ハハハハハハ!もう終わりで良いよ。これからは社交に頑張ってくれな」
こうしてアイヴィーの私の強化計画は終了を告げた。





