響き渡る拍手
次の日、冒険者ギルドに前日のガーゴイルの魔石を納品に行った。
魔石の買い取り価格は変わっていない。
どうやら昨日の大量の魔石は死蔵するか、他の街に売る事にしたのだろう。
納品処理が終わったところで男性の冒険者に絡まれる。
見た事がある冒険者だ。
たしか以前ダンジョンでアイヴィーに斬りかかってきた鷲の翼のカイドルだ。
「よぉ!お前たちが調子に乗っている冒険者か?ちょっと顔を貸してくれないか?」
「断る。俺は時間の無駄が嫌いでな」
「おっと、そういうわけにはいかないんだ。お前には俺と決闘を受けて欲しいんだよ」
「なるほど、俺にメリットはあるのかな?」
「俺が勝てば昨日の魔石の支払いの遅滞金を諦めてくれ。お前が勝てば俺を好きなようにしてくれて構わない」
「話にならんな。お前の価値が12億バルトもあるわけないだろ。お前が負けたら12億バルトを払ってもらう。どうせそんな金は持っていないだろうから鷲の翼に保証人になってもらおうか」
「それは俺の一存じゃ判断できないな」
「お前は負けた時の事を考えているんだな。それじゃ俺には勝てん。さっさと帰るんだな。何ならこっちの女性が相手をしてやっても構わないぞ」
カイドルの目が怒りに燃えている。
カイドルって人は単純みたいだ。
これくらいの挑発に乗ってどうするんだろ?
「そこまで舐められたら受けるしかないな。条件はそれで良いんだな?」
「ああ、構わないさ。それじゃギルドに頼んで誓約書を作成するか。取りっぱぐれちゃかなわないからな」
アイヴィーは冒険者ギルドの受付で決闘の誓約書を作ってもらった。
ついでに決闘の立ち会いをギルドに頼む。
場所は冒険者ギルドの訓練所に決まった。
木剣を使った決闘になる。
魔法の使用はありだ。
鷲の翼の中堅エースのカイドルとAランク冒険者の対決。
12億バルトをかけた戦い。
訓練所には観戦者が多く詰めかけた。
決闘の前にアイヴィーが私の耳に口を寄せる。
「良いかエルシー。決闘の場合には相手が死んでも罪には問われない。今回は木剣だが魔法は禁じられていない。今後、世界征服するためには戦争に参加したりしないといけない。今のうちに人を殺しておけ。立ち会い人が止める前にトドメを刺すんだぞ。あいつはちょうど良い獲物だ。分かったな」
私が人を殺す!?
そんな事は考えた事もなかった。
でもアイヴィーの言ったことは理解はした。
果たしてそんな事ができるのだろうか?
頭が混乱したまま立ち会い人の開始の合図を聞いた。
カイドルが私に突っ込んでくる。
上段の構えから袈裟斬りだ。
以前は見えなかった攻撃だが、余裕をもって躱す。
カイドルの攻撃は止まらない。
胴への薙ぎ払い、斬り上げ、喉への突き。
連続攻撃を仕掛けてくる。
何も考えなくても躱せる攻撃だ。
アイヴィーの声が響く。
「エルシー!俺たちが目指すものを明確にイメージしろ!こんなところで足踏みしている場合じゃないぞ!」
その言葉にハッとする。
誰もやった事のない世界征服。
その為には越えるべきものがある。
人を殺す経験も必要なんだろう。
頭が冷静になる。
カイドルの上段からの攻撃を避け、カイドルの右手に木剣を振り下ろす。
ボキッと鈍い音がする。
カイドルの右手が折れたのだろう。
バックステップで距離を取るカイドル。
だがそれは悪手だ。
私はすぐに右手に5㎝程度の魔力球を作る。
そのままカイドルの胸に向かって魔力球を放つ。
上半身が爆発するカイドル。
カイドルの後ろで見学していた冒険者にカイドルの血が飛び散る。
静寂に包まれる訓練所。
アイヴィーの拍手だけが響き渡っていた。





