Q,若い頃に情熱を持ってうち込んだものは何ですか?A,グレネードです。
勢いで戦闘に持ち込み、若干後悔している。
「――『限界』を超えられぬ人が『英雄』には及ばん!身の程を知るがいい!」
狐型幼女が振るうハンマーが激しく地面を叩き、衝撃が地面を奔る。
――バーバリアン派生攻撃特化職『バーサーカー』の『グランドスタンプ』
衝撃の間をステップで抜けた先に、エルフの幼女が振るった杖から発された光が俺を直で狙う爆発を生む。
――光系上位魔法『フラッシュブラスト』
爆発が発生する前に移動して攻撃を避け、このNPC達がマーシーちゃんと同じように高レベル帯に居るNPCだと理解する。
「70台二人とか50カンスト一人じゃ無理ゲーくせえわな」
安易に煽った結果がコレですよ。
とはいえ、マーシーちゃんのように強職という訳ではないから戦い方はいくらでもあるっちゃある。
「――我が名は『ザビアスタの激狐ココ・ナ・ツパレット』。戦女神のレジアンがどれほどのものか試してくれよう!」
「エフ・マイナが長――ウィンミント・ショートフォイル。エルフの聖域は――決して侵させはしないッ!」
高々と名乗りをあげてくれるが、俺は鼻を指で擦って煽ってやる。
「ココナッツパレットにウィンミントショートフォイル――どっちもクッキーじゃねえか」
ダッシュで突進してくる狐――ココの巨大なハンマーを見切ってステップで避ける。
振り向きざまに旋風を伴い、ハンマーが振り上げられる。
『ランブルストライク』――多段ヒットの両手槌系火力スキル。
床を叩く激しい轟音が耳を貫き、衝撃が閃光を散らす。
――まともに喰らえば盾構えホーリーナイトすら削り切る極悪火力スキルだ。
「ハンマー系モーションとか余裕でした」
――一撃の火力を求める代わりに攻撃速度をその代償とする。
両手槌系の弱点である『攻撃モーションの遅さ』は数多の対人を繰り返してきた俺にとっちゃ眠たくなるような遅さである。
攻撃範囲から離れ、側面に回り込もうとするが、その横合いからエルフ――ウィンミントが炎を放つ。
初期から覚えられる火系魔法『ファイアアロー』が何本も別々の軌道で俺に迫る。
――誘導性能を持つのはレベル40を超えてから。
別軌道で放たれた『ファイアアロー』が軌道を変え俺を追従するが、俺はそれを二回ステップしてからゆっくりと旋回半径の中に逃げて避ける。
――牽制としては十分か。
IRIA同士、あるいはプレイヤーとも連携が獲れるのがIRIA積載型NPCの優秀なところでもあり、だからこそ『ファミルラ』は人気があった訳で。
「高度IRIAの連携か――厄介っちゃ、厄介だな」
――多重詠唱をはじめているウインミントに俺は舌打ちする。
追撃の『グランドスタンプ』を放つビースト酋長からさらにステップで距離を取り、機関砲で応戦する。
だが、スキルを載せてない火力ではダメージは微々たるもので削りきる前に一撃を貰ってこちらが沈むだろう。
「『英雄』二人を相手にするのだ。勝てる訳がなかろう」
「……人の身であるあなたに、我々は超えられません」
エルフとビーストの酋長ズがどこか厳かにそう告げてくれる。
カチリと静かに俺のスイッチが入り、鼻で笑う。
腕の中で回転する機関砲を頭上で回し、俺はバイザーの下から凶悪な笑みを向けてやる。
「――なめんなよ原生種。ナベ2で挽きつぶされるのがお仕事な貴様らでプロアークスの俺がPSEバーストさせてやんよ」
――稲妻ステップでビーストに肉薄する。
そこに牽制の『エアスラスト』と『ヘビースタンプ』を上手に合わせてくる。
だが――
「――なっ!」
眼前でステップ旋回からダッシュに繋げ、急速旋回。
実機でやるなら即座にマウスを横に弾かなければならない旋回。
通称――『ターンダッシュ』と呼ばれるダッシュテクニック。
ステップ時に180度の旋回をして、背後を向き、そこからダッシュで攻撃用の旋回と回避を同時に行い、さらに相手の背後を取れる。
小技といえば小技なのだが、ダッシュ中にマウスを最低3回は高速で横に弾かなければならない高等テクニックだから成功率は低く、きわめて実戦的ではないと言われていた幻のテクニックだ。
――エンジェルハイロウやこうした、ダイレクト操作だからこそできる。
「まずは――その足を貰うッ!」
背後からビーストの足に向けてローグ用スキル『アンクルスネア』を叩き込む。
チェーンソードが獰猛な唸りを上げ、ビーストの足をかっ捌き、血が飛ぶ。
そしてそのまま、スタミナポーションを口に含み、稲妻ステップでエルフ――ウィンミントに迫る。
「ココ!――っく!煉獄の炎よ、我が敵を焼き払えッ!『ラースブレイズ』!」
――炎系上位魔法『ラースブレイズ』
極大火力の対象中心の範囲魔法攻撃。
ロックしたターゲットを中心に炎が広がる、一度発動してしまえば回避が困難となる範囲魔法で、低レベルである俺相手であれば一撃で沈めることも可能な炎系の便利魔法。
――だからこそ、誰しもが対策を講じる。
「牽制無しの単発で撃たれても当たらねえよ」
――発動直後にステップ無敵を合わせて右前へ逃げる。
放射状に広がる炎が周囲を焼き払い、炎は決して俺に伸びることはない。
『ラースブレイズ』は他の炎系魔法あるいは、氷系魔法と併せて使うことで真価を発揮するスキルだ。
――『エアスラスト』で牽制を入れた後であれば回避は目を瞑っていてもできる。
チート持ちと違い、『多重詠唱』持ちを相手にするときは相手が他に何ができるかが常に重要となる。
――先に『エアスラスト』でその選択肢を潰してくれていれば、『ラースブレイズ』のみを回避してやればいい。
炎の残滓の中、俺はスプリットヘルムのバイザーを叩き降ろし、チェーンソードを振るう。
「――行くぜ?」
――稲妻ステップを刻み、一気に肉薄する。
足を削られ『鈍足』状態となっているビーストを置いて一気にエルフに肉薄。
――2対1ならば1対1になる状況を作ればいい。
そして、『喰える』奴から、確実に、素早く、『喰う』。
複数人を相手にPKする立ち回りの基礎をそのままに俺はエルフに襲いかかる。
「え!あっ――『アイスニードル』!」
自己周囲発生の牽制魔法『アイスニードル』のエフェクトと同時に、大魔法発動エフェクトを視認する。
「芋め――裏で大魔法詠唱なんざ、駆け引きを知らん素人か貴様は」
氷柱を自らの周囲に降り注がせ、防衛に入るが最早、混乱しているのが手に取るようにわかる。
――対人での魔法職は小技をとにかく連発するのがセオリーだというのに。
ステップで眼前まで抉り込み、スリットの隙間からどこまでも獰猛に睨みつけ、狼狽えるエルフ――ウィンミントを射貫く。
――スラッシュからの、連撃。
装甲の薄い魔法職相手であれば現状装備でも十分なダメージを叩き出せる。
最大のアドバンテージである高火力を生かせる距離を失い、唸るチェーンソードを受け、服が破れ散る。
「ウ、ウィンドミルスラスト!サークルフ……きゃぁあ!!」
――自分中心範囲魔法で蹴散らそうとするがPKプレイヤーの粘着気質は剥がせない。
ステップで出掛かりを飲み込み、通常攻撃を叩き込みながら、スラッシュを織り交ぜる。
背後に回り、側面を抉り――真正面から叩き込む。
――縦横無尽に奔り、俺の腕の中でチェーンブレードが回る。
ぎりぎりと唸る凶悪な刃が愚かなエルフを刻み、血肉を削ぐ。
思い出したように『ミラージュ』で逃げるが、それこそ俺の求めていた反応。
「――がせえミラージュだ」
背中を向けてミラージュなんて回避選択は愚の骨頂。
――終わり際に向けて背後からの『スラッシュ』
衝撃でノックバックして吹き飛ばされたその距離に俺は跳躍する。
「――芋掘り完了!」
「あうっ――あァっ!」
――ムーンサルトダウンスラスト。
意識を失いその場に崩れ落ちるエルフの頭を踏みつけ、バイザーをあげる。
――『閃光』を織り交ぜない魔法職なぞ素人もいいところだ。
典型的な大型魔法を駆使する量産型魔法職な動きのエルフを早々に沈め、俺はビーストに不敵な笑みを浮かべる。
「な――ウィンミントっ!」
「――相方が芋仕様な魔法職とか終わってんな。これなら本職じゃねえ俺の方がまだ上手に立ち回れるぜ?高レベルさんよ?」
煽ってやって顔真っ赤。
ビーストが鉄槌を振り上げ、振り下ろし俺を威嚇する。
「――だが、近接同士であればそれも叶うまい。来いッ!我が鉄槌の錆にしてくれるわっ!」
本当に、本当にコンピューターってのは歯応えがねえわ。
俺は小馬鹿にして笑ってやる。
「対人地雷のバーサーカーに近接挑むバカが居ると思ってんの?ちなみに、さっきエルフの兵隊ぶっ殺した死体あさった時にこんなモンを見つけてな?ちっくら俺が楽しめるように焼かれてくんねーか?」
俺は悠然とインベントリから二門の長砲身をマテリアライズして両手で把持する。
――携行型小型榴弾砲
機関砲と並ぶ機械系射撃武器で、ぶっちゃけ高レベル帯では微妙な武器である。
40レベル台の武器でこれ以上の榴弾砲は両手把持になるが、ここまでは片手でも持てる。
高レベルになれば火力が増し、赤字を出しながら戦う範囲狩りのお伴になってくれるのが榴弾砲だ。
俺も機関砲の汎用性を考えて敢えて選択肢に入れなかった武器だが、エルフの兵士が持っていてくれたから一応かっぱいだくらいのものである。
――だが、片手で持てるこのレベルの榴弾砲には面白い特徴がある。
「――榴弾砲だと?エルフ共のオモチャで私を打ち倒し切れるとでも?」
「43レベル榴弾砲はちと特殊なんだぜ?ここのエルフさん達ぁこいつの正しい使い方を知らんと見える」
俺は両腕に構えた榴弾砲の砲身を打ち鳴らし、構える。
「そんなもの、撃ち砕いてくれるわッ!」
――『鈍足』から脱却したビーストが俺にダッシュで迫る。
俺は真っ直ぐ直進してくるビーストに榴弾砲を放つ。
――火球となって放たれた榴弾がビーストの足下に炸裂し爆発をあげる。
だが、ビーストは爆炎をステップで突き抜け、俺に肉薄する。
「貰ったぞレジアン!潰れてしまえッ!」
「――届かねえよ」
――もう片方の榴弾砲が俺の足下で炸裂する。
激しい轟音と爆炎が広がり、閃光で視界が焼け、肌に激しい熱さを覚える。
爆発ダメージを自分も受けるが、射撃反動とノックバックで距離を離す。
通称『爆風バリア』。
初代アーマードコアシリーズ等で有名な自爆爆風で近接の足を止めてダメージを与える小技だ。
――爆風ダメージで足を止めるビーストと距離を保ち、ステップで引く。
「こんなもの、カスリ傷にしかならんぞ。次はお前に届かせる」
「カスリ傷にでもなってりゃ俺の勝ちだアホめ。お前が俺に届くことは永遠に無い。エキノコックス抱えた害獣は北海道に帰れ。ゴローさんがルールーいってんぜ」
俺は砲身を振り回し、榴弾砲を狐ビーストにぶっ放す。
「――何度やっても同――」
――爆炎をステップで回避しようとするビーストに立て続けにもう一発。
ステップの終わりに突き刺さった榴弾がダイレクトにビーストを叩き、爆発する。
ノックバックで吹き飛ばされるビーストが俺を鋭く睨み、俺は榴弾砲を掲げて見せる。
「直撃頂きましたっと。近寄るなよエキノコックス、お前の汚い糞だらけの尻の穴から病原菌まき散らされたらかなわんから消毒したったるわ」
「侮るなっ!」
再度果敢に立ち向かい、ダッシュで肉薄しようとする。
だが、その直線的なダッシュの先に榴弾砲を放ち、再度、ステップで爆炎を抜けようとし――
――ステップの終わりにもう一度榴弾が突き刺さる。
ノックバック復帰から、ステップをして距離を詰めようとし、俺が榴弾砲を撃った直後、次はダッシュを織り交ぜる。
――だが、今度はその直線的な軌道を撃たれ、爆風で足止めされる。
砲撃の反動で俺は後退し、十分以上の距離が取れている。
様子を見ようとするビーストに立て続けに榴弾砲を放ち、辺りが爆炎に包まれる。
「……なんだ!クソ!我が槌が……届かないっ!」
「わかったかエキノコックスちゃん。榴弾砲にゃ強力な足止めとノックバックがあるのんよ。本来だったら反動で隙だらけの武器だが43レベルまでの榴弾砲は両手で2本打つまでこっちの発射硬直は発生しない。んで、相手の回避スキル見てきちんと狙えば一方的に封殺できんのやで?」
――低レベル時の遊び武器として弾代が高く付くが、相手を封殺できる武器。
それが、通称『咲浪』と呼ばれる43レベ榴弾砲という武器だ。
もちろん、高レベル帯になればそれを突っ切る方法もあるしノックバック軽減のアクセサリだって登場する。
そうなってくると完全に無力となるが、防護耐性を整えていないIRIA相手であれば十分以上に通用する。
「――くそっ!卑怯なっ!」
「2対1とかやってくれた連中に言われたくねーわーw」
憤り、顔を真っ赤にしてくれるビーストに俺はげらげら笑ってやると榴弾砲をリロードしてやる。
砲身を打ち鳴らし、挑発してやると首をコキコキとならして告げてやる。
「さぁ、わかったところで焼いてやるよ。駆逐されるだけの害獣がいっちょまえに吠えてんじゃねえぞ?ソーセージぶつけるぞこの野郎」
――一方的な蹂躙が始まった。
スラング解説
芋
FPS系ゲームで後方に位置し前線に貢献しないプレイヤーへの蔑称。
スナイパー等の狙撃兵種が地面に寝そべったまま、動かない様を見て「芋虫」と揶揄したことから、それが略されて「芋」となる。
後方に回る「裏取り」をする人間がこの「芋」を駆逐することを、尻を掘るとかけて「芋掘り」と使う。
同義語に英語で「noob」があり、「noob」にはプレイヤースキルの無い様を指すことに使われる。
ナベ2
『ファンタシースターオンライン2』のタイムアタックミッション『ナベリウス走破演習2』のこと。
同ゲームのタイムアタックはマップ内にパズルが配置され非常に面倒な仕様となっているが、同ミッションにはパズルが無く単純に敵を撃破するものとなること、デイリークエストで比較高額な報酬が貰えることから人気が高い。
スラング中の「原生種」とは惑星ナベリウスにもとから原生するエネミーモンスターのこと。
プロアークス
同上『ファンタシースターオンライン2』のプレイヤースキルが高いプレイヤーの蔑称。
同ゲームは「ARKS」と呼ばれる調査部隊に配属され、各惑星の調査を進めるストーリーとなっていることから、プレイヤースキルが高い人間を称して「プロアークス」と呼ぶ。
もちろん、よく使われる用例は「自称プロアークスが本当にこの板多いな」である。




