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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第2部『二つの太陽編』
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知的で、戒律を重んじ、遠距離攻撃を得意とする種族

 「俺の知っているエルフと思いっきり違う件について」


 俺は木の幹に身を低くして射線を躱すと苛立ち混じりに大きく息を吐きながら機関砲の弾倉を交換する。


 「エルフは知的で争いを好まないんですっ!だけど、厳しい戒律があってそれらを破る者は外の者はおろかたとえ身内といえど容赦しないんですっ!」

 「魔法や古代の知識に精通しているッス!森に溶け込み弓や魔法、古代の兵器を利用した戦闘が得意らしいッス!でもこれはぁあああ!」


 冒険者――ネルベスカ・マノアとチュートリアが弾丸の嵐の中、必死に俺に訴えかけてくるが途端に悲鳴でかき消される。


 ――投擲された火球が放物線を描き、爆風が俺達を遮蔽物から吹き飛ばす。


 「前方敵あり殲滅用意撃ち方ぁ始めっ!」


 号令と同時に放たれる砲撃が俺のシールドの上で弾ける。


 ――大量に弾かれる弾丸は砲門が一つではなく複数であることを物語る。


 それも、沢山って奴だ。


 「一陣後退、二陣前!交代し撃ち方続けっ!」


 イントネーションが狂った号令に弾丸がとぎれることなく浴びせられる。

 弾丸の嵐の向こうに見えるのは鉄ヘルを被った迷彩服に身を包んだちょっとだけ耳が長いのがエルフ成分として残ってる――


 「――軍隊じゃねえかバカヤロウ!」


 統制の取れた攻撃は絶えず火力を全面に集中。

 人数が上、射程も上、物量も上なら統制を取って挽きつぶす。


 「これに勝てるのは正直、プロフテリア騎士団くらいッス!」


 避けながら岩の影に隠れたマノアが叫ぶ。

 なるほどね。騎士オンリーの肉壁が有効な相手だよなこれは。

 木々の間を抜け、身を低くして射線を抜けて交代する。


 「敵軽装級戦線から離れるのを確認!包囲殲滅進め!」


 ――散開させての各個撃破を狙っているのは理解している。


 だが、遠距離攻撃でやり合える武器を持たないマノアや集団戦闘に疎いチュートリアが居ても足手まといにしかならない。


 「マスター!どうすればっ!」

 「師匠!助けて下さいッス!」


 悲痛な声に俺は爽やかな笑顔を向けてやる。


 「あ!マスターが見捨てる気です!」

 「メッチャいい笑顔してるッスよ!?あれ笑顔ッスよね!?」


 流石チュートリア、理解が早くて助かるぜ。冒険者、経験を積め。

 俺は二人をそこに遺して戦線を離脱する。

 追撃に走ってくる軽装のエルフ達が弓で俺を狙うが稲妻ステップを捕らえられる程の腕は持っちゃいないみたいだ。


 「……デッテイウ!聞こえるかッ!」

 『――はいっ!空の防御も凄いものがありますね。近づけば風精が暴れて飛べなくなりますっ!』

 「対空砲火――矢だとかは飛んできてンのか?」

 『ありません!だけど接近すれば雷雲が立ちこめて上空からの進入を阻害しますッ!』


 ――デッテイウにテンガを乗せて空を奔らせていた。


 こういう状況になった時、さっさと村の中心を潰そうと思って空からの進入路を探させたのだがどうやら対空防備もばっちりな様子で。


 「単独で戦線を離脱する方がレジアンですっ!こちらは人間とイリアですっ!」

 「レジアンに戦力を割け!人間とイリアは適当に迎撃しろっ!地雷地帯に誘導し一気に殲滅してしまえっ!」


 どうやら俺を地雷地帯にご招待してくれる様子。

 しかし、敵の集団火力が尋常じゃなくどうにも弄ばれてる。

 踏み込むにしたって今だ敵が密集しているからこの火力の中に突撃しても犬死にしちまうだけだ。


 「聞こえるか!冒険者!チュートリア!」

 「マノアッス!聞こえてますよ師匠!」

 「マスター!どこですかっ!」

 「散開して後退だっ!敵の戦線を引き伸ばすっ!」


 ――最早これは少人数で挑む集団戦と見なすべきだ。


 俺の中の感覚がカチリと嵌る音がして、ようやく、そう、ようやく『混乱』から立ち直った。

 俺はそれだけ告げて速度を上げて後退する。

 時折敵の位置を確認し先行する軽装のアーチャーを視認する。

 訳もわからずとりあえず後退しようとする冒険者といいチュートリアといい、俺の思惑通り、『囮』をやってくれている。


 『ご主人!敵の後列部隊が移動をはじめてます!このままじゃチュートリア様がっ!』

 「それでいい。戻れデッテイウ。エルフの集落の上空までは行けないだろうが敵の頭上くらいまでなら行けるんだろう?」

 『え?あ――はいっ!』


 デッテイウは俺のやりたいことを理解してくれたようだ。

 俺がチェーンフックを上空に放ると高速で飛翔してフックを拾う。

 ロールしてチェーンを巻き上げたデッテイウに上空へ放りあげられ、空中でムーンサルトして姿勢を戻すとターンアラウンドで旋回したデッテイウの鞍に跨る。


 「ろーたー!だいじょーぶ?えるふすごいおこってる!」

 「大丈夫だ。支援バフを載せてくれ。これっから敵陣に突っ込むぞ」


 ――俺の考える最強のドラゴン計画が完璧なら苦労は要らないのだが、今の状態では騎乗戦闘をやるしかない。


 「ご主人。ボクはなるべくご主人の動きに合わせます」


 ドラゴンのAIっての人間より優秀なのか俺が言わんとしていることを先に理解してくれている。


 ――乱戦になった場合、『誰』が『誰』に『合わせる』かが重要になってくる。


 「――ですが、上手くいくんですかね?」

 「エルフどもは対地上部隊を相手にしたときの想定戦術しか組んでいない。だから設置型ハリケーンで対空防御をしてるんだろうよ。それだったら空中への攻撃を考えなくてもいい。平面思考で線を合わせる戦いの方が楽だからな」


 遮蔽物の多い森で敵の射撃線を防いで味方の射撃線が集中するような配置は俺でも舌を巻くくらいに綺麗な陣形だった。

 そういった配置ってのは腐るほど見てきたし、だからこそ『脆く』なる瞬間ってのが存在する。

 俺はチェーンソードを引き抜くとトリガーを引き唸らせる。


 ――直上から部隊を散開させる指揮官を捜す。


 鬱蒼と茂る大樹の葉に遮られ、地上の様子はわずかに覗く葉の間からしか伺えない。


 ――地上の地形は覚えている。


 幾たびにも戦場を踏んできた俺の『裏取り』の嗅覚が的確に指揮官の位置を捕まえた。


 「ついて来いよッ!デッテイウ!」


 俺は手綱を放し、鐙を蹴ると鞍から飛び降りる。


 ――真っ逆さまに急降下する。


 迫る景色と肺を潰す落下感を後に引き、眼前に迫った大樹の葉の壁を盾で押し分け、森の中にそのままの勢いで落下する。

 スキル『壁けり』で大樹の幹を蹴り落下速度を直前で殺し『ムーンサルト』で位置調整。


 「――直上貰ったぜッ!」


 そのまま真っ直ぐに部隊を指揮する司令官の直上から落下しての『ダウンスラスト』――


 「――『メテオスラスト』ォォォ!」


 ――高々度落下からの『ダウンスラスト』通称『メテオスラスト』


 対人戦で油断している回復職や遠距離攻撃職を屠る為の奇襲テクニックの一つだ。

 元々は『アーマードコア』の『メテオストライク』が語源で超高度から位置調整をしながら敵の射線の俯角が及ばない『直上』という安全地帯からの攻撃方法だ。


 ――こういった『地上戦』しか想定しない相手には文字通り『奇襲』となる。


 声を発する間もなく倒れた指揮官を振り返り、エルフの軍人達が俺を振り返る。


 「――敵奇襲!敵奇襲!ただちに――ぐわぁああっ!」


 突撃銃を向けて周囲に警戒を発する敵を『ダッシュ』で肉薄し、斬り伏せる。

 隣のエルフが腰のショートソードに手を伸ばそうとしていたが、その体を駆け上がり、首筋に『ダウンスラスト』を刺して蹴りあがる。

 盾の裏の手に持っていたチェーンフックを飛ばし、木に引っかけると『フックジャンプ』で飛びあがり『ムーンサルト』で機関砲に持ち替える。


 ――空中からの『ブッパ』による一斉射。


 遅れて銃口を向けようとした敵の一団が弾丸の雨に倒れていく中、俺の着地点にデッテイウが滑り込む。


 「ご主人――走りますよっ!」


 再度、チェーンソードに持ち替えると俺はデッテイウの手綱を握る。


 「――好きに奔れよ、踏みつぶせ」

 「ごー!ごー!」


 脳天気なテンガに咆吼で応えるデッテイウもやはり、ドラゴン。


 ――獲物を前に滾る闘争心を抑えることなく疾走する。


 巨大な獣の鱗の上で銃弾が爆ぜ、血飛沫が爆ぜる。

 だが、それらを挽きつぶし緑竜は森の民をその強靱な足で殴りつける。


 「『追いスラ』頂きっ!」


 ――即座に後を追って振るわれた俺の剣がエルフの胸を叩く。


 騎乗ペットが十分に育成されていれば騎乗ペットの攻撃モーション中に終わる『スラッシュ』のような小技も十分な火力となる。


 ――旋風のように暴れ回るデッテイウの騎乗で悠然と盾と機関砲を持ち替え、俺は縦横無尽に敵の戦列を蹂躙していた。


 「ご主人、そろそろですかね?」

 「――引き伸ばした戦線が戻る頃だ。引っ掻き回すぞ」


 俺はチェーンフックを投げ木の上に移動するとデッテイウとテンガと別れる。


 ――敵を進撃させることで戦列を意図的に引き伸ばし、後方の足の遅い部隊を叩く。


 近接攻撃を得意としない遠距離主体敵に『接近戦』を仕掛け『攪乱』する。


 ――『裏取り』と呼ばれる立ち回りだ。


 本来なら戦場ごとにいくつもの裏取りルートを覚えて奇襲をかけるが、対空攻撃に思考が無いNPCの隙を突いての急降下奇襲をそのルートとする。

 捕らえた波の感覚が引き時と告げる。


 ――針の穴を抜くようなタイミングの機微は戦場でしか培えない。


 木々の上をフックジャンプで逃げてチュートリアが弓で応戦する『前線』まで戻る。

 大樹の根が抱えた岩の影に隠れ弓で応戦するチュートリアと冒険者を見つける。


 「無茶な突撃をしないのはまあ、NPCとしちゃ普通か」


 ――前線が手薄になればそれは奇襲が成功している証。


 その気配を察知するだけの能力も経験も無い。

 NPCとしては及第点の戦い方だろうが、赤い竜ならばと考えると少し歯がゆい。


 「――し、師匠!」

 「マスター!」


 傍らに着地した俺にどこか安堵の笑みを浮かべる二人だが、俺が『前線』に戻ったことで敵は再度、体制を立て直し追撃に走ってくる。


 「指揮官は潰した。後は、各個撃破の殲滅戦をやるだけなんだが理解できるか?」

 「――えと、あのー、詳しく説明して貰えれば……」

 「戦線を引き伸ばして、孤立気味になった敵をたたけばいいッスか?あ!師匠はそれでさっきドラゴンで奇襲をかけたッスか!」


 チュートリアより冒険者の方が飲み込みが早い。

 集団戦闘知識については冒険者の方が良いベースIRIAを使っているのかもしれない。


 「そうだ。戦線がもう一度伸びきった時にもう一度奇襲をかける」

 「敵も二度目は警戒してるッスよ?」

 「牽制突撃を俺が仕掛ける。お前達は――」

 「師匠が引き連れた敵の戦列の横合いから奇襲ッスね?」


 こいつ、根っからのバカじゃないみたいだ。


 「――引き時のタイミングは『まだ大丈夫』と思った時だ」


 俺はそれだけ告げると機関砲を手に敵にダッシュでその場を離れ突撃する。


 「あ、マス――」


 何かを言いたげなチュートリアが居たが刻一刻と動く戦場では構ってやる暇なんざ無い。

 集まりだした敵の集団に向け、俺は持てる戦術とテクニックを出し惜しみすることなく応ずることとした。


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