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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第2部『二つの太陽編』
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コンデンサーを増やして実績解除の為にリセットする勇気。

 「引けたアイテムは微妙な兜でした。物欲センサーは今日も全開でした本当にありがとうございましたですよがっとぅーざへぅ!」


 俺は指先でくるっくると回している『ウィングホーンヘルム』をため息混じりに見つめ肩を落とした。


 「それはレアと呼ばれる奴ではないのですか?」

 「レアだよ?一応。だけど、バケツさん以下のデザイン防具を今更拾ったところで使い道なんざどこにもねーよ。換金つったってキクに頼んだらぶっちゃけ微妙ー」


 欲しいレアが引けるという都市伝説を信じている訳ではないが、もうすこし異世界から来た俺に優しくして欲しい。

 強化したところでスプリットヘルムほどの強度を得られない、若干軽い重量と良いデザインが売りの防具でデザイン厨には人気のある代物だが俺にはこれっぽっちも興味が沸かない。

 ぶっちゃけ、俺的にはバケツの方が格好いいくらいだ。

 チュートリアや冒険者がどこか驚いたように俺を見ているが、レアアイテムといっても価値が無ければカスレアでございますよ。


 「欲しいのか?」

 「ちょっと……」


 どこか物欲しそうにしているチュートリアに俺は放り投げると俺は最近のドロップ運の無さにやるせなさを感じる。

 こう、ボスとか倒すとめっちゃいいレア拾って超パワーアップとか異世界転生系じゃあたりまえやん?

 だけど、現実にゃそんなこと全く無いって根っからの廃人気質で理解してるからなんだろうか、もうちょっと現実が俺に優しくてもいいような気がするんだ。


 「いいんですか?もらっちゃって」

 「ま、本当に欲しいレアは出るモンじゃなくて引くもんだからな」


 言って自分を慰めてデッテイウのステータスを確認する。

 必ず手に入って着実に強くしてくれるのは経験値って奴ですよ。


 ――ベースレベル28。


 まだまだ完成からはほど遠く、一度、腰を据えたレベリングが必要だと考える。

 街を作りながらのレベリングとなるとどのような方法がいいかと考えて、やめる。

 効率を考えれば考えるほど色んな作業を平行してやりたくなるが、結局、『それぞれの作業』を一つ一つ、素早く、正確に終わらせていくのが一番早い方法だったりするからだ。

 俺が色々と考え事をしている横で冒険者がいきなり甲高い声を上げた。


 「凄い……凄いッス!自分、感激しましたっ!」

 「はぁ?」

 「戦女神のレジアンって眉唾ものだったんですけど、これは伝説ですよ!で・ん・せ・つ!自分初めて見たッス!」

 「なに?なに?お前、何でキャラ変わってんの?」

 「ネルベスカ・マノアです!ネルベスカ・マノア!ネルって呼ばれてるけど、マノアと呼んで欲しいッス!親しい人は下の名前で呼ぶのがうちの故郷の慣習ッス!」

 「なん?いきなりなんなん?お前の故郷とかぶっちゃけすげーどうでもいい」

 「自分、英雄になりたくて冒険者やってました!レジアンの伝説は本物だったってことですよ!自分を弟子にして下さい!師匠!」


 俺もチュートリアも唖然としている。

 なに?なんなの?このNPC。クール系からのまさかのキャラ崩壊?

 ギャップ?ギャップ萌えって奴?


 「ちょっと何言ってるからんらんよくわからない。今北産業」

 軽く混乱する俺に体を揺らして冒険者はまくしたてる。

 「すっげー強いってことッス!自分、師匠の強さに憧れました!師弟契約を結んで欲しいッス!」

 「あー、うん、なんか、あったね、そんなシステム」


 言われてみればそんなシステムもあった気がする。

 本来は新規プレイヤーの早期育成を目的とした育成システムでスキル育成やレベル育成にボーナスを与える奴。

 NPCとも一応、可能で高レベルスキルレベルキャップ解放にはNPCの弟子入りが必要だったりするんだが。

 NPCからこうして求められるケースもあったりして、無料の肉壁が手に入るから結構便利だったりするらしいけど。


 ――ぶっちゃけ肉壁候補ならチュートリアが居るからいらないんですよね。


 「師匠!これからよろしくお願いしまッス!」

 「え?なにそれ、展開早くてついていけない。チュートリアちゃんこの子何しゃべってるの?バカなの?死ぬの?」

 「――この娘本当にバカですよっ!こんなクズに弟子入りするな――あ痛ぁっ!」


 なんか反射的にチュートリアを殴ってしまった。


 「――っつぁぁ~何で殴るんですかっ!」

 「悪気はなかったんだ。悪意すら無い、体が勝手にやってしまった」


 FATEを見たら走るFF14プレイヤーと同じ心理です。


 「だってマスター自分が常識人だって自覚あります?無いですよね?冒険者にマスターの常識を強要したらどうなると思います?立派な犯罪者をお菓子を作る感覚で世に解き放つのと同じことになるんですよ?」

 「まあ、殺人罪で服役したお前が言うと妙に説得力あるよなぁ」

 「……うぅ……それは……マスターが……マスターが……」


 素で返したら本気で凹まれた。


 「と、とにかく!クッキーを焼くような感覚で犯罪者を作られても世界が困るんですよ!」

 「俺、クッキー焼くの得意やで?秒間で3兆枚はいけるで」

 「……どうやったらそんなに焼けるんですか?それに、それだけクッキーを焼く必要があるんですか?」

 「反物質コンデンサーとババアだな。あと猫。ゴールデンクッキーが出るタイミングを感覚で覚えること。そして、クッキーを焼くのは生き様だ」

 「……何を言ってるかわかりませんけど、マスターはおかしいです。そして、秒間にそんな大量の犯罪者を吐き出されても困り……あ痛!」


 剣の腹でチュートリアの頭を軽くハタく。


 「俺、量より質で勝負するタイプなんやで?そんな風に言われると俺がまるで考え無しに粗製濫造で量産している頭の悪い人に見えるじゃないか」

 「人は悪いですよね?速攻で私を質の高い殺人犯にできましたと仰りたいんですよね?もういいです」


 もっと凹ませてやろうかと思ったら自分で凹みやがった。

 あきらめを覚えたらそれ以上はクッキーを焼けない。

 放置してでもより高みに登ろうとする奴だけが、より多くのクッキーを焼けるのだ。

 そんなこともわからないチュートリアは反物質チュートリアにしてやる。


 「何が悪いか良いかなんてその時、その人の判断でしかねーッス!それなら強い方が勝つ!そういう生き方が冒険者ってそんなモンじゃないッスか!」


 凹む犯罪者に構うことなく、この冒険者も好き勝手言ってる。

 まあ、俺としてはこの冒険者の言ってることに近い認識はもっているが果たして全部がそうかといえばそうでもない。


 「まあ、冒険者なんて犯罪者みたいなモンですからねー」

 「お前の発言もなんか色々と問題あるぞ?」

 「だって、集団で魔物をボコって魔王が遺したアイテムだとか皮や爪を剥ぎ取って回るって相手が人間なだけじゃない犯罪者の所業じゃないッスか。山賊や盗賊相手にやるならどっちがどっちかわかんねーッスよ」

 「むぅ、確かに俺も長時間FATEやマルぐるしてエリハムって意識無くしたときはそんなこともぼんやり考えたような気がするが……」


 エアサロンパスの酸っぱい匂いを思い出しながら俺は眉を潜める。


 「師匠は間違っちゃいねーッス!さくっと自分も強くしたって下さいッス!」

 「自分で強くなれ、以上」


 これ以上ない回答をくれてやり、俺と冒険者の師弟関係はここで終わった。


 「な、なるほど。師匠が言うと含蓄がある言葉ッス。つまり、誰かを目指しているようでは強くはなれないってことッスね?じゃあ、師匠、私の踏み台になって下さいッス!」

 「俺、実は殺人犯生み出したクズ野郎だったってことを今思い出したんだが、なんだ?残虐性とかそいったモン今、零しちゃっていいか?」


 言いながら機関砲のトリガーを引いてぱぱぱっと冒険者を撃ってやる。


 「マジすんませんっした!礼儀は自分を助けるって事知りましたッス!」


 ぶっちゃけ絡みたくないけど、絡みづれえ。

 大剣メインらしいから育成終わった大剣スキルくらいは伝えてやれるかもしれないが、俺に対してのリターンバックが何も無い。

 ベースレベルもカンストしてるし後はクラフト系のスキルを教えて貰えるかもしれない程度だし、弟子を取ってもなぁ。


 「てんがもろーたーのでしになるー!でしになるー!」

 「そーかー、俺も弟子になろう。うん、そうしよう」


 構っていてはいつまでも進まないから適当にはぐらかして進むことにする。


 「ま、待ってくだしゃー!」


 冒険者は俺の前にずざざっと滑り込んできて膝をつく。


 「レジスの世界ではこれが最高の礼と聞いてるッス!ド・ゲィザーという相手に心服し、敬意とか謝罪を示すのに使う礼ッス!どうか、弟子にして下さいッス!」

 「なにそれパワーゲイザーより強そう」


 それって土下座やん。

 それは立場とかそういったものがあって初めて価値がある礼節であって見ず知らずのしかもNPCがやっても響かないわー。


 「自分、なんでもしまッス!荷物運びから靴磨き!剣の手入れからあと夜のお仕事でもなんでもしまッス!」


 え?なに?なに言ってるのこの娘。


 「ま、ますたぁぁっ!ぜ、ぜったいだめですよ!この娘は!」

 「非処女は勘弁」


 断っておくが処女厨ではない。Bバージン志望者なだけだ。


 「ばりばりの処女っスよ!」

 「私も処女ですっ!じゃなくってそういう問題じゃないでしょっ!体を売ってまで取り入ろうとするなんて――邪悪ですっ!」


 ムキになって反抗するチュートリアに俺は怪訝な瞳を向ける。


 「それはおかしいやろ?お前、一生懸命お水の商売してる人バカにしてんの?バカにしてんの?それは俺怒っちゃうよ?」


 バイトで水商売の店の客引きとかボーイとかもやったことあるし、そこで色々お姉さん達に優しくされたこともある。

 ああいった人たちが頑張ってる姿も見てるから知らずにバカにするのは良くねえ。


 「使える武器を使うのは当たり前のことッスよ?師匠のイリア」

 「マ、マスターが弟子とまだ認めた訳じゃないですっ!そんな風に呼ばれる筋合いは……」

 「わっしは絶対、弟子になりあすもん!そして、師匠のイリアより強くなってみせます!」

 「無理ですっ!マスターの弟子とか絶対無理ですっ!まず、マスターが弟子とか無理です!」


 額を突きつけあってがなりあう二人を見て俺はティンとキタね。

 これはちひろが錯乱するレベル。

 ここはフラグ一級建築士の介党鱈Pクラスのフラグを建築するしかあるまい。

 最高の暇つぶしだ。


 「よし、冒険者。お前の弟子入りを認めてしんぜよう」

 「ちょ!マスター!」

 「マジッスか!ひょわっはーッ!」


 跳ね上がって喜ぶ冒険者と対照的にチュートリアは愕然としている。


 「弟子入りってわかってますよね?わかってて言ってらっしゃるんですよね?」

 「まあ、街作りもしているし人手はあった方がいい。俺が動けない場所で動ける人間がいくらか手元にあった方がいいのも確かだ。だが、ギルド入りは認めない。『竜魂』の二文字は簡単にくれてやるわけにゃいかんのですよ」


 とりま、チュートリアには適当な言い訳を作っておく。

 俺は右手の宝珠に触れ、システム画面を開く。

 目の前の冒険者に視線を合わせると冒険者の輪郭が薄緑に輝き『ネルベスカ・マノア』と表記される。

 その下のメニューの下に表示される『師弟契約』のアイコンをスライドさせ、さらに現れたアイコンを次々とクリックして契約を結ぶ。

 わずかに冒険者の周りに淡い燐光が爆ぜて、師弟契約は晴れて結ばれた。


 「やったぁぁッス!」


 跳ね回って喜ぶ冒険者を見つめ、チュートリアががっくりと肩を落とす。

 対照的に冒険者は喜び俺にとびっきりの笑顔を向ける。


 「さぁ!エルフどもをシバきに行きましょう!」

 「は、はんざいしゃが……ふえてしまいます……」


 膝をつき、呆然とするチュートリアに嫌らしい笑みを向ける。

 ずっと様子を見ていたレウスがどこかあきれた顔をしてデッテイウに零した。


 「どう見る?最弱」

 「……ライバルが居ると強くなれるって聞いたことはありますけど……ご主人は面白半分でやってるんでしょうねえ……」


 俺の真意はどうやらドラゴン達の方が理解しているのでありましたっと


スラング解説

 今北産業

  会社名株式会社今北産業

  本店所在地皇居

  設立2010年一月一日

  資本金98億ジンバブエドル ※

  お問い合せ0120-6484-2222 

  事業内容稲作


  というのはウソで「いまここにきた。いままでの内容を三行に纏めてくれ」という旨の内容を「いまきた三行」→「今北産業」と変遷。

  わからないことを要約して返答してくれるよう誰かに依頼するときに使用する。


 クッキー

  洋菓子の一つ、インターネットブラウザの履歴情報なども指す。

  本作で用いられるのはブラウザゲーム「クッキークリッカー」というひたすら目的も無くクッキーを焼き続けるゲームのクッキー

  クッキーとは何か、ゲシュタルト崩壊させられる。


 ティンとくる。

 「アイドルマスターシンデレラガールズ」のスピンオフ元の「アイドルマスター」で主人公となるプロデューサーの上司である社長が何かを感じたときに言う台詞。


 ちひろが錯乱する。

 「アイドルマスターシンデレラガールズ」のガイドキャラでプレイヤーに巨額の課金を強い、その搾取っぷりから鬼のような扱いをされる。

 その反面、不具合のお詫びなどでアイテムを配布する等した場合、ちひろが錯乱した等と言われる。


 

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