野菜が好きになる。そもそも野菜とは何かとゲシュタルト崩壊させられる。
流石に弾丸を使いすぎた。
村一つを滅ぼすのにインベントリに保有できる弾丸の7割は使いすぎだ。
逃げる相手や保護の高い敵相手だと手数が欲しいからブッパを選択してしまいがちだが、もっと近接攻撃を有効に使うべきだ。
かといって、スタミナポーションを使うのも素材費から考えれば考えようではある。
「――結局、PSがまだまだなんだよな」
まだ、上手くできたはずだと自省をしてやるべきことをやる。
メニューを開き『NPC攻撃設定』で『殺害せず』のアイコンをチェックしていればどれだけの火力をぶち込んでも殺すことは無い。
カルマ増加が怖ければこのアイコンを設定しておけば最悪、殺人だけは回避できるのだが、俺は別にカルマ増加が怖くて設定した訳じゃあない。
「マスター!誰かを殺してっ!――いないのですね、よかった……」
戦況が落ち着いたのを見てかチュートリアが駆け寄ってくる。
「後々の労働資源をぶっ殺す訳ねーだろ」
俺がNPCを殺さない理由は主に、それだけだ。
単純な話をすると村を一つ手に入れたとしても、そこで活動する人間を確保しなければ財産にはならない。
そこで経済活動に従事させる人的資源を外から求めるには時間がかかるし、周囲から拾うにしても村が発展する速度を考えれば人手はいくらでもあった方がいい。
俺は銃を村人に突きつけ、村の中央広場に集める。
「さて、代表に言うことがある」
「お、お前は一体、な、何者なんだ!」
スプリットヘルムを脱ぎ――実はこれ、蒸して暑い――俺は腰に吊したチェーンソードの柄にぶら下げると狼狽える村人を睨みつける。
「――ギルド『DragonHearts』の一員だ。今後、エクスブロ火山とその周辺域であるザビアスタ森林地区は『DragonHearts』が領有する。この村は『DragonHearts』の支配下に入ってもらう」
「そ、そんな!王様がそんな無茶を許すわけが――」
「竜魂は既に領有権の許可を貰っている。追ってここに領有権を記した書状をもった同志が来る。先に支配させてもらうだけだ」
「だがっ!」
「お前が村の代表か?違うなら黙ってろ。殺すぞ」
俺はメニューの『NPC攻撃』のアイコンを『殺害可』に設定する。
「マ、マスター!だ、だめですよっ!こ、殺したら絶対にダメですからねっ!――って、わ、わぁああっ!」
俺はチュートリアに容赦なく機関砲をぶっ放つ。
曲がりなりにも重鎧で武装したチュートリアが軽く吹っ飛び、家屋に転がる様を見て村人達は怯える。
「勘違いすんなよ?俺は会話をしに来たんじゃあない。支配すると『言う』ために来たんですのよ?お前達があにしてーとか、こうしてーとか聞きに来た訳じゃねえんだ。自警団も山賊も全部、拉致ったし皆殺しにしてしまっても構わねえわけだ。さて、従え」
うん、言ってて俺、今最高に悪い奴。
拉致られて縛られたビースト共が口々に感嘆の声を上げる。
「うおー!すげー!めっちゃわるだー!」
「み、みなごろし!みなごろしっつったか?はじめてきいたー!」
「これはかてるきがしねー!はおーしょーこーけんをつかわざるをえない!」
「ですとろんどころじゃねー!ちきゅうがおわるぜー!ところでちきゅうってうまいのか?」
緊張感のねえビースト共だが、山賊どもは前作通りねじ伏せることで言うことを聞かせられるみたいだ。
後は自警団と村人達の反応だが。
「……従うしか、ありませんの」
広場の中心に集められた村人達の中の老人がどこか諦めたように呟いた。
どうやら、こいつがこの村の代表権を持つ村長らしい。
「皆の者、この村は今日から『DragonHearts』の領有となる
。以後、重要な方針はギルドの指示に従うように」
どこか狼狽えたような村人達の視線を受け、老人が小さくため息をつく。
だが、村長の決めた決定に村人達は互いに目を合わせ不承不承ながらも従う意志を見せつつある。
村長はそれらを見届けると俺に向き直る。
「さて、これでよろしいでしょうか。幾分、この地に領主ができるのは700年もの間、無かったことなので村人達はとまどっておりまする。どうぞ、お手柔らかに」
俺はどこかふてぶてしい村長の態度に鼻を鳴らす。
「……気にいらねえな」
「え?」
「俺が出てきた時にいの一番に現れず、ずっと様子をうかがってやがったな?俺を見定めてやがったのか?」
村長は狼狽え、口ごもる。
「いえ、決して……そんなつもりは……」
「まぁいい。だが、覚えておけ。余計な気を起こせば血祭りに上げる。竜魂のキチガイ担当はその辺り容赦はしねえ」
なんとはなしに。
そう、なんとはなしに嫌な感じがしたのだ。
老人の態度、いや、反応自体が妙に人が取る態度に近い感覚があった。
IRIAという高機能演算システムがより、リアルに人の思考をシュミレートするという話で理解できなくもないが、画面越しに見る話じゃなくなるとどうにも先に嫌悪感が先に来てしまう。
『ヘイ、キチガイ担当ロクロータさん!そろそろ村の一つや二つ、制圧した?南西ルート2個目あたりだと思うんだけど』
タイミングが良いといえば良すぎる。
右手の宝珠が震え、頭の中にギルドチャットが流れる。
『そこせいあつなう』
俺は端的に返信してやるとずしんずしんと地鳴りが響く音が聞こえた。
やがて、村の入り口に荷物を一杯に積載したランドルタートルの姿が見え、その背中に跨る巫女服っぽい服装の女を見つける。
――キクだ。
「やっほー、ロクロータ!ちょっと手間取ってるんじゃない?キチガイから真人間にクラスチェンジするツモリ?残念手遅れでしたー」
挨拶代わりの煽りを入れてくるキクさんに煽りで返してやることにする。
「連絡入れて即ってことはお前出待ちしてたんだろ?俺のにじみ出る優しさに感謝しろよ?あっちゃん知ってるよ?キクさんウンコ長いって。そうだ、この間いいアイテム拾ったんだ。超越者の椅子って言ってだな?僕の考えた最強の便所。これで便秘にも勝つる」
「ファッキューカッス!まあ、あんたならこの位置取るなーってのはだいたいわかってたから。にしても手を付けるのに随分モタモタしてたじゃない。あんたからキチガイ取ったら何も残らないんだからキャラ作りしっかりして欲しいですわー」
どうやらキクさんは思ったより早く準備を整えていたようだ。
「村襲撃はカルマと時間のトレードだから逃げ込める拠点が欲しかったんだよ。家を離れて一軒作らないといけなかったし……しかし、お前さんの方こそ早すぎんじゃねえのか?きちんと準備してきたのかよ」
「何言ってるのよ?私を誰だと思ってるの?木材系以外の初期投資で見れば充分以上の物を持ってきたわよ?金こそ力パワーフォースなのよ」
ランドルタートルの甲羅の亀裂が開き、そこにはインゴット化された鋼材が溢れんばかりに積載されている。
――ペット最大の積載量と採取箇所を持つ生産御用達のペットなだけはある。
「さぁ、さくさくと街に変えちゃおうじゃない」
石材や鋼材などの現地調達のできない資材を沢山積んだランドルタートルがどこか眠そうな瞳で村を睥睨する。
「にしたって、早すぎんだろ。あと1日くらいゆっくりしても良かっただろうに」
「街を作るとなるとギルドフラッグが要るでしょう?竜魂のエンブレムはこのデカールじゃないとむくれるじゃない。だから、急いで作って来たのよ」
キクは袖の長い服をひらめかせて降り立つと俺の前に立つ。
――その大きな袖には赤く峻烈な炎の上に、黒字で抜かれた『竜魂』の文字が力強く描かれていた。
なじんでしまったと言っていいくらい見飽きた『竜魂』の字に、苦笑が零れる。
「――こっからはあたしの仕事よ?ロクロータ大先生、記念すべきエルドラドゲートオンラインオワコンに向けた竜魂最初の村の名前を決めてよ」
どこか嬉々としているキクに俺は厳かに告げてやる。
「決まっているだろう?竜魂最初の拠点にして、オワコンへの第一歩。この名前しか、ありえねえ」
キクが苦笑し、よろよろと起き上がるチュートリアが俺を見上げる。
変わっていく情勢を理解しきれない村人達が俺を狼狽えながら見つめ、俺はその視線の中で、不敵に笑う。
「野菜村」
神ゲーの予感しかしない。
◇◆◇◆◇◆
村長であるコブフ・マルノイはこの事件をあらかじめ覚悟を持って迎えていた。
村長として選ばれ、その責でもって多くの見識のあった彼にしてみれば、世界の方々で起こる異変についてはある程度の知識はあったし、また、彼が年を経る前にこうして村が山賊に襲われることは幾度かあった。
また、大きな災害に見舞われたことも少なくは無く、魔物の脅威に村が晒されたこともあった。
そうして生きる中で、見識を広め魔王の復活の噂と共に増加した魔物の被害を考えればそう遠くない将来に大きな『変化』が訪れることは予見していた。
エクスブロ火山は『竜域』と呼ばれる竜の聖地へ通ずる道でもあり、また、ザビアスタ森林地区にはいろいろな伝承が残っている。
それらの地域の特殊性を鑑みて、逆に何も起こらないと考える方がコブフには難しかったのだ。
レジアン、そしてレジスの伝説についても聞き及んでいた。
――また、近くで見られたラビラッツ頭の奇異な『レジアン』の話も。
プロフテリアからの冒険者が戦女神のレジアンがオーベン城要塞のエルドラドゲートを封印し、また、魔王のイリアを下したという話も聞いていた。
全てを見納めて、理解できるものもある。
ロクロータ、と呼ばれる無頼の輩には熟練の冒険者が束になっても敵わず、また、山賊達も集団をもってして従っている。
彼の指示に従い、凶暴だが、純真無垢なビーストの山賊達は今、村を街にするための作業に従事している。
異国の格好をした彼に親しげランドルタートルを従えた女性は見たこともないような量の鋼材を次々に運び出し、それらを釘や板に変えていく。
――本気でこの村を街にするツモリでいる。
「……村長、あれは」
「おそらく、君の言われた戦女神のレジアンだろう」
若い女性の冒険者――ネルベスカ・マノアにコブフは呟いた。
「噂ではプロフテリア騎士団副団長マーシー・セレスティアルをも下す実力の持ち主と聞きました」
「プロフテリア騎士団はオーベン城要塞の決戦を彼の指揮に従ったという話であったはず。だとしたら、君が気に病む必要は何も無い。天災を防ぐ術は無い。嵐の前に誰が雨雲を晴らすことができようか。それは、そこに住まう者達が受け入れるしか、ない」
若く、真っ直ぐな少女は自分が力至らず村を守れなかったことを恥じているのだろう。
コブフは村長として新たに命名された『野菜村』の住人の気持ちを納める仕事が待っている。
若さに溢れ、どこまでも激しい峻烈さを瞳に備えたそれはコブフに若き日の情熱を思い出させる。
だが、だからといってそれを口にする程、恥ずかしくはあれない。
ただ、変わってゆく大きな流れを確かに感じながら、その中でどれだけ愛した村や人々のためになにができるかを考える。
「嵐が来るの」
それだけ呟くと、高々と掲げられた『竜魂』のギルドフラッグを見つめ、目を細める。
スラング解説
野菜村
超神ゲーなネトゲ。さあ、みんな野菜村に入るのだ・・・・
良い点
・かわいい野菜アバターが一杯!色んなコンテンツが豊富!
・神ゲーは人を選ばない。野菜村を初めてFXで成功!彼女もできた!
・最大512レベル!変身で個性も出せるよ!
・サービスが終了した。
悪い点
・駄ゲー臭しかしないと思ったら神ゲーだった。
・神ゲーすぎる。
・サービスが終了した。




