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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第2部『二つの太陽編』
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そんな釣り針に釣られクマ

 ザビアスタ森林地区の街道をデッテイウに跨り歩き俺は現金を大量に入れたリュックを背負う。

 隣では籠に食料を背負ったチュートリアがどこか腑に落ちない表情でアンヘルに跨り付いてくる。


 「……マスター?これは一体?えと、釣りに出てきた訳ですよね?」

 「そだ。釣りだよ」


 俺はデッテイウの上でのんべんだらりと寝そべりながら、同じ街道を行ったり来たりしているだけだった。

 巨大な大樹が群生するザビアスタ森林地区は木々がでかいだけあってその間隔が広く、現実の森なんかよりもの凄い歩きやすい。

 くるぶしくらいの芝生みたいな雑草しか生えていないからで、まぁ、うん。

 ゲームの中で現実の森を踏破するしち面倒なことをやらせてたらキリがねえわな。


 「……釣れねーなぁー」


 俺はどこかぼんやりとしながら呟くが、

 その状態に疑問を持ったチュートリアがどこか明るく笑った。


 「あの……釣りをするなら釣り竿を持ってあっちの泉にいくのなんかどうでしょう?ほら、何だか綺麗ですよ?今日の晩ご飯、お魚にしましょうか?」

 「バカじゃねーの?魚釣って村が出来んの?魚食べたいんだったら店で買ってくればいいやん?よしんば現地調達するにしても網作って根こそぎ採り尽くしてやるわ」


 定置網のデメンのバイトやった時のことを思い出し、そういや船もいつかは造らないとならんなぁと思い出す。

 俺はウロウロと同じ道を昼過ぎまで竜を使い歩き回り、小腹も空いたことなので休憩を取ることにした。

 チュートリアの背中の籠から新鮮な肉を出し、昨日伐採した木材をマテリアライズして薪に替えてやると油をかけて火を起こす。


 ――炎系魔法とか水系魔法を取っておくのもこうした状況だと必要かもしれない。


 手際よく火を焚くと肉をこんがりと焼き上げ、塩胡椒をまぶしていく。

 焼き上がった場所からナイフで削いで、デッテイウやアンヘルに喰わしてやる。

 チュートリアがパンを出し、その上に焼けた肉を放ってやるとチュートリアがもう一枚のパンを俺に差し出す。


 「なんだか……やってることの意味がわからないのですが」

 「釣りだよ。釣り。でっかな釣り針垂らしてるじゃねえか……お?ホレ、あっこ見てみろ、アタリがきてるぜ?」


 俺が森の奥を顎でしゃくるとチュートリアが首を巡らして視線を向ける。

 大樹の陰に小さな影がひょこんと顔を出して俺達の方を見ていた。


 「……ビースト、ですかね?」

 「ちらっちらと背中に獲物抱えてるだろ?他にもあっち、そっち……んー、釣れてるねえ」

 「あれ……ひょっとして……山賊、ですか?」

 「ザビアスタ森林地区のエルフやビーストは未開文明の地だからな。食料を得る為に獣を狩るよっか、行商を襲う方が早いから人間の山賊に混じってビーストが山賊やってんだ」


 周囲を取り囲むようにして距離を縮めてくる可愛らしい山賊達に気がつかないフリをしながら俺は食事を続ける。


 「……あの、大丈夫なんですか?」

 「おう。これを叩くだけ叩くと、今日の飯が無くなって村を襲いに行くんだ。そうして弱った村なら一人でも滅ぼせるという」

 「村を襲ったらダメですからねっ!さ、山賊はまぁ、人に迷惑をかけるから仕方が無いとして村を襲いに行くようでしたら私、全力で止めますからねっ!」

 「ま、滅ぼすのは最後の手段だ。ギルドとして山賊を撃退してやるかわりに、統治下に入れと交渉する下準備なんだ」

 「な、なんかどっちにしても悪いことのような気がします……」


 ゆるふわでも結局原因が俺であることに変わりないことには気がついているようだ。


 「まあ、このゲーム、結構マスクデータが多くてな。村に設定されている危機パラメーターでイージーな討伐任務も成功報酬あがったり、交渉がスムーズにいきやすくなったりと解析しきれて無い部分もあるからな。だが、この山賊襲撃方ってのは結構、有名な方法でな。短期に既存の村の領有権を得るには有効な手法の一つではあるんだよ」

 「そんなに上手くいくものなんですかね……上手くいっても……なんか、悪いことのような……でも、困ってる人を助ける為に交渉するんであって、でも、困る原因を作ったのは……あれ?あれー?」

 「うまくいくさ」


 反復検証された結果というのは帰納的推断で正しいと認められる。

 一部の例外があったりするが、100回やって98回同じデータが得られればそれは最早、『そうである』と断じても差し支えない。

 もとより、『データを解析する』という目的ではなく『村を得る』という結果に対するアプローチであるから、概ねそうなるということだけを把握していればいい。


 ――だが、魔王の書にはそれを裏付ける内容が描かれていた。


 俺は誰にも言えない秘密を抱える重さでちくりと胸を痛めると小さく溜息をついて森の中を目の端でちらちらと伺う。


 「やい!おまえたち!みぐるみおいていけ!」


 可愛らしい声で恫喝したビーストを筆頭にわらわらと俺たちの周りを斧やら槍やらを持って取り囲んでくる。


 ――ようやく、おでましだ


 二本足で立つ動物といった方がいいのだろうか。

 もっふもふの毛で全身が覆われ、武器を持つ手にはぷにぷにの肉球を持つケモナー御用達のビースト達がくりんくりんの目を見開いて俺達を多分、睨んでいた。


 「さんぞくだぞー!さんぞくだぞー!こわいだろー!」


 ほほえましい。

 ビーストっ娘が精一杯胸を反らして威嚇してくるがちんまくて愛嬌のある姿で山賊とか言われても正直、俺のロリ魂がくすぐられるだけでございますですよ。


 「釣れた釣れたw一杯釣れたw」

 「つれたー?さかなでもつってたのか?かわはあっちだぞ?おまえだいじょうぶか?」

 「お前達ほどじゃあねえよwキチガイの前にのっこのこ出てきて山賊ですだなんて何されても文句言えませんねーw明日には孕んじゃうわーw」


 俺がにやにや笑うとチュートリアがどこか苦笑する。


 「あんましバカにされない方が……ビーストは可愛らしくても強靱な筋力と獰猛な性格をしてるんです……怪我しても知りませんよぉ?」


 可愛らしい姿にほだされて擁護するチュートリアだが、胸を張ったビーストたんが鼻をならしてバカにする。


 ――集団でくっちゃべるもんだから煽りに煽ってくれる。


 「おまえあたまのかたちへんなのによくしってるな!ばかだとおもったけどちがうのか!えらいぞ!」

 「なーなー?そのあたまだいじょうぶか?なんかぐるぐるしてるぞ?」

 「こいつ、あたまのけぐるぐるしてる。いみねーよな?よな?ばかだよなきっと」

 「でもびーすとしってた!いろいろしっててもばかなやつっているから、やっぱばかなんだよこいつ!」

 「しってるぞ。こういうのしょーべんくさいめんへらっていうんだ!めんどくせーからあいてにされなくてまたをかぴかぴにかわいたたままにしてくたばるっていってた!」

 「こいつもまゆげふといぞ!きをつけろ!あほがうつる!せーじゅんそーなつらしてっけどなかみはへんたいにちがいない!」

 「へんたいはこまるよな。わけがわからん」

 「でもでかいぞ?だけどおっぱいはちいさいな。めすとしておわってんな。やっぱかぴかぴだ」

 「おすかもしんないぞ!おすかもしんないぞ!あたまにいっぱいあるだろ!」


 なんという煽りマシンガン。


 「マスターッ!がっとーざへぅ!がっとーざへぅ!この山賊ども一人残らず血祭りにぃぃ……あ痛ぁ!」

 「釣りに来たのに釣られてんじゃねーよw」


 畜生相手に沸点突破とかどれだけ煽り耐性無いんですかこの子は。

 まあ、畜生共が煽るのもよくわかる話だがな。


 「全くチュートリアちゃんは沸点低くて困るわー。さーてー、変態紳士である俺のケモナーな暗黒面が色々とお前らに変態行為を働いてやろうじゃねーか」


 わざわざ釣られに出てきた畜生共をいちびってやろうかと思った時だ。

 ビーストの一匹がすんすんと鼻を鳴らす。


 「こいつむしょくどーてーのにおいがするぞ!」

 「ほんとかー?……すんすん……ほんとだー!むしょくどーてーのにおいだー!」

 「あれか?しゃかいのてーへんにいるはいぼくしゃってやつか?」

 「きっとこいつもかわかぶりーってやつだ。そとのせかいのしげきがつよすぎるんだ!」

 「ちがうよ!いろいろとちいさいだけだ!でもおかしいな?おすっぽくない」

 「どーてーだからむしょくなんだよ!いってたろ!かくごがないからはたらけない!ひとかわむけないおとこみまん!」

 「だっせー。きちんとしたしごとしてめすのいっぴきでもやしなえないのかよ。かいしょーねーとかのはなしじゃなくて、いきものとしておわってんなー」

 「むしょくだからむりだろー。しゃちくにもなれないだめやろうだー」


 な、なんつー煽りマシンガン。


 「むむむ無職ちゃうわ!ばばばバイト戦士やで!いろんな社会経験積んでるだけだから!」


 すげえ煽りスキルだ。

 あやうく釣られるところだったぜ。

 なんて意味不明な部分をアップデートして強化してるんだ『エルドラドゲートオンライン』。これじゃあ、豆腐メンタルな方々の精神が粉々に砕けちゃうわー。


 「お前ら人のことそんなバカにしてっとバッコバコに交尾して孕ませんぞゴラ!無職童貞の子供とか不幸まっしぐらやで」

 「そんなみえみえのつりばりにつられクマー!……クマ?」


 クマを模したビースト娘が俺の周りをぐるぐる回る。

 ビースト達は俺を取り囲み、何故か畏敬の眼差しでもって次々に煽ってくる。


 「しってるぞ!まゆげがいってた!むしょくどーてーはえろいことするけど、はめるゆうきはないんだって!」

 「さんざっぱらつよがってるけど、くちさきだけだっていってた!」

 「くちさきもだめだって!ちゅっちゅすらはずかしくてできないざこやろうだ!」

 「しってる!だから、ことばだけでえろいことをいったり、えっちいいたずらをしてもそれいじょうはできないんだって!」

 「よごれをきどったぴゅあやろうってやつだな!」

 「えとー、なんだっけ?おい、こいうのなんていったっけ?」

 「あー……おもいだした!へたれだ!へたれどーてーのちきんちぇりーのかわっかむりやろーだ!」


 何?何なの?この強力な煽りスキル。

 幼女みたいな容姿をしたケモナーに何でこんな強力な煽りスキル実装したし!

 運営、このゲームどこに向かっているのかと小一時間くらい――


 「俺のPKカス野郎としての煽り耐性を舐めるなよ?そんな見え見えの釣り針に釣られク――」

 「なんか、ちょっとだけマスターが可愛く見えちゃいました♪なんだぁ、私に対する酷い仕打ちって照れ隠しだったんですね?」


 ――ほっこりしているチュートリアに俺の怒りが有頂天ッ!


 上方スルーから爆炎水晶設置のムンサルキャンセルからチェーン投擲フックジャンプで上空へタックル、そこから更にチェーン、フックジャンプのホールドと荒ぶるだけ荒ぶって――


「釣り針が佐世保の古い球磨型軽巡洋艦の1番球磨だクぅマァァァァッ!!」

 「にぎゃあぁあああああ―――――ッ!―――」


 高々度からの格闘スキル『マティマティカ』――通称『爆炎筋肉バスター』。

 爆炎水晶の爆炎がチュートリアの悲鳴をかき消し、爆炎の中を俺はゆらゆらと炎を曳いてフシュルフシュルと荒い息を巻きながらビーストどもを睨み付ける。


 「すばらしく運が無いなぁ……轟沈か解体か、シベリア送り、いずれも好きなモンを選びやがれェ……てめえら一人残らずさようならバスにゃん君のことは忘れないクホホぉッ!」


 爆炎水晶の上げた黒煙の中、怒りが有頂天な俺の恐ろしい形相に畜生共がびびって震え上がっている。


 「こえー!やっぱりむしょくどーてーだ!」

 「いたいのはいやだぞ!あやまる!あやまるからゆるして!」

 「ごーめーんなさーいー!ゆるしてむしょくどーてー!」

 「おいこいつむしょくどーてーとちがうぞ?むしょくどーてーはもっとばかそうだもん!」

 「あのふくむしょくどーてーのふくとちがうのか?」

 「おこってる!むしょくどーてーがおこってる!」


 意味不明な言動を繰り返すビーストどもにチェーンソードを突きつけ、俺はゆらりゆらりと揺れる。


 「いまさら謝って許されると思ってんのw思ってんのwミリグラム程しかねえ脳ミソしかねえ畜生どもがぴすぴす鼻鳴らして可愛さアッピルしたところで、最早現実世界でリアルモンクタイプの俺が基本長寿タイプなお前達の寿命はここでオワコンだ。運営の悪意ごとプギャーしてやんよぉ」

 「ぷぎゃー!おっかねえー!」

 「なにいってるかわかんねえ、つよそうだ!ぷぎゃー!」

 「あれぎゅんぎゅんまわってるぞ?つよそうだな!」

 「だが、むしょく!」

 「さいばとろんさんぞくだんはむてきだっ!ひるんだらだめだぞ!わたしにいいかんがえがある!」


 さっき俺の周りをぐるぐる回っていたクマビーストが俺の後ろで気絶しているチュートリアを引っ張りあげ、その喉元に斧を押し当てた。


 「このおんなのいのちがどうなってもいいのかっ!おお!なんか、さんぞくっぽいぞ!」

 「さすがこんぼい!しれーかんっぽいぞ!」

 「ひとじちすげー!はじめてみたー!ひとじちかっけー!」

 「あれ?ひとじちとればむてきじゃねー?」

 「むしょくどーてーにもかてるぞ!すげーなこれ!ひとじちこれははやる!」


 アホの子どもが精一杯の抵抗をしてくれますが俺はアホとバカよりランクの高いキチガイクラスに居るのですよ。


 「人質ダトー、オノレーナンテヒキョーナマネヲー」

 「うぅ……あれ?あれれ?一体何が……うわぁ!マスター助けて!なんか、いつの間にか人質にされてるっぽいんですけど!」

 「オノレーナンテヒキョーナマネヲー」

 「なんで棒読みなんですか?面白そうに笑ってないで助けて下さいよ!なんか最近災難ばっかりな……最近?ずっと?……と、とにかく助けて下さいっ!」

 「そうか、よくわかったチュートリア。お前の犠牲は無駄にはしない」

 「あれ?私、そういう話しましたっけ?助けてっていったのになんか、マスター私ごとがっとーざへぅしちゃう気満々な気が……」


 俺の左腕の中に新調した銃がマテリアライズされ凶悪な銃口がチュートリアに向けられる。


 ――12.7mm機関砲。


 バルカンって奴だ。

 単位時間攻撃力を求め、射程を削った『ブッパ』特化の中距離機械武器だ。


 「火力+1対空+1で駆逐艦からルイーダの酒場法で剥ぎ取ったブラック鎮守な一品でございますよ――砲撃開始ィィ♪」


 ――盛大にチュートリアとビス子どもの悲鳴がザビアスタ森林地区に響き渡った。


用語解説


ケモナー

 猫耳少女などではなく、旧アニメ「名探偵ホームズ」のような動物の形態に近い擬人化動物娘をこよなく愛する人達の別称。


そんな釣り針に釣られクマ

 煽りに対して放たれたアンカーをアスキーアートを交えて返す時の定型文の一種


球磨

 『艦隊これくしょん』出展。球磨型軽巡洋艦の1番艦『球磨』だキソ


すばらしく運がないなぁ

 『PSO2』出展。武器防具強化時のNPCが失敗時に煽る台詞。


クホホ

 『ラグナロクオンライン』出展。同上


さようならバスにゃん君のことは忘れない

 『パズル&ドラゴンズ』出展。テンプレパーティの過渡期に『ホルス』に+育成した萌えキャラ『バステト』を喰わせたテンプレの改略


 ブラック鎮守

 『艦隊これくしょん』出展。旗艦にした艦娘は轟沈しないことを利用し、疲労度に関係なく出撃させたりする悪徳提督の居る鎮守。


 

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