表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
58/296

マチ針をクロスさせてコンセントに刺すと爆発する。

 言った矢先に初見トラップとかマジで禿げる。

 赤みを帯びた赤い突風が橋の上で渦巻き、俺やキクの自由を制限する。

 その中で空中にあるオブジェクトを解除しなければならないというオマケつきである。


 「俺は配管工じゃねえぞー!」


 さらには周囲に沸いた飛翔し、雷光を纏った魔法剣――バイスブレードの攻撃をかいくぐらなければならないという。


 「ロクロータさん!壁スイッチ復帰したー!頼むー!」


 空中にあるクリスタルを叩き、スイッチを解除しても再度、復帰するという仕様付き。

 格子状に渡された橋の上を縦横無尽に飛び回り、スイッチを叩き、中央部の広間で戦闘を繰り広げる赤い竜達のサポートに奔走する。

 ショットガンが火を放ち、飛翔し迫るバイスブレードを砕いてやる。

 オブジェクトから放出される魔力の影響を受けて延々と生み出されるバイスブレードが中央に位置する広場に飛翔していく。


 ――中央での戦闘を悉く妨害するためのトラップだ。


 「ちょ!ロクロータ!バイブ入れないで!スイッチ切って!痛いっ!痛いってば!あん!あ、あっ!」


 キクさんもうちょっと言葉を選べと言いたくなる。

 バイスブレードを出現させるオブジェクトまで剣を『壁蹴り』して肉薄するとオブジェクトをソードで切る。

 手近なオブジェクトをボウガンで撃ち抜き、風の強さを弱めると俺は主戦場となっている広間に戻る。


 「この守護獣パンツァードストームを倒せば最深部への道が開けるはずです!」


 巨大な猛牛の攻撃を盾で防ぐマーシーが俺にそう叫ぶ。


 「パンストのストレンジ気をつけとけよ!ガードしててもノックされて橋の上からぶっ飛ばされるから――って言ってる側からっ!」


 赤い竜がパンツァーストームの突進を真正面から受けて吹き飛ばされる。

 風の勢いもあって赤い竜の身体が広場から押し出され、奈落に向けて一直線。


 「キクっ!」


 チェーンストックで赤い竜をフックで引っかけるとキクが慌ててもう一本のチェーンフックを赤い竜に投げつける。

 すんでのところで落下死を免れた赤い竜を引き上げ俺とキクは大きく息を吐く。


 ――ワンヘビーならフックが2本必要なのだ。


 相方がキクさんだからよかったものの、知らない初見さんだったら間違いなく赤い竜は死亡履歴をもう一つ刻んでいた。


 「おっかねー、マジ、おっかねー!」

 「手間かけさせんなっての。あーもう、また壁復帰かよ!」


 中央部の広間に薄く輝く壁が広がり移動範囲の制限をかける。

 その壁に触れたテンガやシルフィリスの移動速度が著しく落ちている。


 ――そんな中、パンツァーストームの突進を避けるのは難しい。


 さらにはバイスブレードの攻撃によるノックバックでの邪魔も入ればストレスがホッハしてしまう。

 俺はダッシュで橋の上を走り、助走をつけるとジャンプしてムーンサルトでさらに飛距離を稼ぎスイッチを叩く。

 壁のスイッチを叩き終わったと思えば、バイスブレードのスイッチが再び復帰しており中央の広場から悲鳴があがる。


 「ちょ!ロクロータ!バイブ!バイブ!あっ!痛っ!スイッチ最大じゃない!こんなの耐えられないわよっ!早く切って!あ、やぁ~っ!」


 いや本当に、キクさん言葉を選べと。

 面白いからしばらく放っておきたいのはやまやまだがガードの上からノックバックを取られると戦いづらいはずだから急ぐ。

 両手に店売りボウガンを持つと天井にチェーンストックでフックを引っかけフックジャンプで飛ぶ。

 そうして、途中でムーンサルトでフックジャンプをキャンセルしてもう一度チェーンストックとスパイダーマンさながらの『ダーマジャンプ』を利用して高速で飛び回る。

 スイッチからスイッチを渡り歩き、サポートに徹するアーチャーさんの仕事を果たす。

 中央ではストレンジモブ――インスタントダンジョンの中ボスである巨大モブとの激しい戦闘が繰り広げられている横でのことだから何か一人だけのけ者にされている感がある。

 だがしかし、似たような状況で戦っていたこともあるのでこういう場合、アーチャー系がどれだけ仕事してくれたかで中央の戦いやすさが全然違うことからそのありがたみを知っているのだが。


 「あっちゃん壁ー!」

 「バイブ前後からとか無理無理!やぁ!あ、あっあぁぁー!」

 「あーもううっせえな!落ちたら死ぬんやで俺!マリオと違って無限増殖できんぞ俺!もそっと俺の残機大切にしてくれや!」


 使いっ走りをしてるようでなんだか釈然としねえ。


 「ろーたー!がんばれー!ひるがえりてあらましのー『韋駄天』!」


 テンガ、そのサポートは俺じゃなくて真ん中の人達にかけてやろうな。

 だが、俺の今の心情を汲んでくれてるのがテンガだけだということにちょっとだけ感動した。

 バタバタとスイッチを入れたり切ったりしている間に、中央の広場で一際大きな光があがりパンツァーストームが燐光を上げて消滅する。

 それと同時に室内を満たしていた乱気流が消え去り、身体が自由になる。

 キクさんをあれだけヒィヒィ言わせていたバイスブレードの群れたちも消え去り、ようやく部屋の攻略が終わったことを知る。

 俺は最後まで気を抜くことなくチェーンストックで中央の広場まで戻ると、静かに息を吐きその場に座り込む。


 「――ぶはぁ……」


 ――極度の集中を続けた時にのみ訪れる脱力感がどっと押し寄せる。


 シルフィリスがどこか心配そうに俺を見つめておずおずと声をかける。


 「……ロクロータ殿、大丈夫、なのだろうか?」

 「大丈夫じゃねえよ!下ルートでもキッツいぞコレ!初見のアーチャーだったら間違いなく乙るぞ!バランス調整しっかりしとけやなーもー!」


 俺は荒く息を吐きながら毒づいてみせるがレベル帯にしては適正な難易度だと思う。

 ただ、死亡したら凶悪なデスペナルティが待っているという恐怖が必要以上に俺の神経をすり減らしただけだ。

 デッドアクションより凶悪な落下死を防ぐ方法は唯一プレイヤースキルと集中力のみが保護耐性となる。

 仮想現実とはよくいったもんでそんなもん現実感覚でやらされたらたまったモンじゃねえ。


 「ロクロータさん、いこーぜー?」

 「少し休ませろよっ!何も考えずに敵殴ってるだけなんていいなぁ竜ちゃん俺とかわろーぜ?」

 「やーだーよー!あっちゃんがアーチャーやってくれるから一緒に来たんじゃないか。他の人だったら俺来ないわー、ないわー」


 こいつなりに労ってくれてるのか認めてくれているのかはよくわからないが評価されてるモンだと受け取っておく。

 その向こうでキクちゃんが涙目になりながらポーションを口に含んでいた。


 「うぅー、バイブのビリってする感覚嫌だわー。なんか、昔、家庭科の裁縫の時間に暇だからマチ針をクロスさせてコンセントの中に突っ込んだときのことを思い出した」

 「キクちゃん色々全部アホやなー?」

 「だって!電気みたいにビリっとすんのよ?痛いじゃん!」

 「のわりには気持ちよさそうにアンアンとヨガッてたじゃねえか。バイブさんにそこまでやられると俺男としての自信なくすわー」

 「黙れ童貞。貴様の粗末なダガーはインベントリの奥で風化してしまえ」


 とはいえ、傍目に見ててもキクのようなゼロヘビーの状態だとバイスブレードによるノックバックとパンツァーストームの連携、トラップの風の影響を受ければ開発の思惑通りリングアウトして落下死になる。


 ――前衛職や中途半端な火力職を一掃してくれるトラップダンジョンならではのギミックだ。

 精神的にもきっついのは理解している。


 「はぁ……」


 俺は大きく溜息をつくと立ち上がり、ソードを鞘に収める。

 エリアの攻略を終え、攻略してきたルートの長さ、そして、倒した敵の数、質、そして、攻略してきた難度から確信する。

 ショットガンに弾を詰め込み、もうぞろという感覚にテンションを無理矢理引き上げる。

 それらを察したのかマーシーが訝しむ。


 「……ロクロータ、様?」


 俺は苦笑すると応える。


 「もうぞろ、最深部なんだろう?」

 「え?あ……なぜ、わかるのですか?」


 マーシーにはどこまでも理解ができない。

 だが、いくつものダンジョンを潜り抜けてきたからこそ理解できる。


 「これ以上はねえよ。無え。何度も超えた、何度も克服した。だからこの先で終わりだ」


 経験則が割り出した終局に理由は語ることができない程に存在する。


 「だね。中ボスも終わったし、後はボスだけだ」

 「まぁ、そろそろ飽きてきたころだしねー」


 多くの経験が導き出した解答というのはいつだってシンプルに直感させてくれる。


 「……ボス、なんだろうぬぅ」


 俺はどこか疲れた声で呟いた。

 赤い竜も強がってはいるがもはや察しているだろう。

 キクさんについてはその影響すら出始めている。


 「……デスペナルティ覚悟での突貫ができねえから、きっついわ」


 ――凶悪なデスペナルティは冷静な判断力を奪っていた。


 「クリムストゥリス相手にどこまでできるかねぇ」


 俺の呟きに応えたのはマーシーだった。


 「魔角獣クリムストゥリスは最早、居ません。この最深部に居るのは――魔王マルネジアが残した封印のみです」

 「あん?」

 「我々が最深部に到着した時に伝え聞く魔角獣クリムストゥリスの姿はありませんでした、そのかわりに魔王マルネジアが残したファミルの封印が残されていました――我々にはどう足掻いてもその封印を解くことができませんでした」


 どこか沈痛な面持ちで語るマーシー。


 「それで、俺達レジアンが必要だと知ったんだな?」

 「――ええ、万策尽きた我々の前に現れた魔王マルネジアのイリア……いえ、カーマリィが教えてくれた」

 「カーマリィ――ああ、便所コオロギのことね?」

 「おそらく、この先で待ちかまえているはずです……今のカーマリィは魔王のイリア。魔王の力を継いだイリアは――強力です」

 「小型ボスモブって奴なんだろうなぁ……」


 俺達は最深部に至る回廊を下りながら、どこか沈痛な面持ちになる。


 ――それでも帰るために、クリアしなければならない。


 地獄級ノーコンクリアとかぶっちゃけ無理ゲーですわ。


 「いこーぜ?あっちゃん」


 赤い竜が大剣を肩に担いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ