表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
44/296

颯爽と買収して無罪放免、チュートリアだけ前科一犯(殺人)つきましたw

 結論から言うと、俺が無罪でチュートリアが有罪。

 俺は晴れて釈放されて、チュートリアだけが牢獄の中にぶち込まれる結果となりました。


 「上手に使えって言ったんだけどなぁ」


 面会に来てやるとどこか寂しそうな表情で俺を見上げる放心状態のチュートリアが居た。

 プロフテリア騎士団の地下に作られた薄暗い地下牢はかび臭く、どこか汚らしい。

 汗と糞尿の匂いがこもった地下牢に手枷をはめられて膝を抱えるチュートリアがどこか人生の敗北者の風体を漂わせ、見るも哀れだった。


 「だってぇ……だってぇ……」

 「このゲームの裁判って陪審員に釈明する機会が与えられるからそこでうまく交渉すれば無罪勝ち取れるんだぞ?」

 「釈明したんですよっ!相手の人が悪い部分もあったって!」

 「でも、人殺しはマズいでしょ人殺しわー。いっくら相手がパチンカスや腐れマンカスでも必死に生きてる訳だからさー?それをぶっ殺しておいて相手も悪かったっていったってはい無罪放免ってならないでしょ?ふっつー」

 「マスターだってがっとーざへぅしたじゃないですかっ!どうしてマスターが無罪なんですかっ!マスターこそ牢屋に入るべきですよっ!普通じゃないですっ!この結果どーみても普通じゃにゃーですよぉぉっ!」

 「お金払って陪審員を買収したからでっす」


 俺はさらりと答えて意地悪く笑ってやる。


 「陪審員の過半数の無罪勝ち取りゃ無罪放免カルマ解放される訳だから、そりゃ金払って出てくるに決まってんじゃん?他人の命より自分の金、陪審員も人間だってこった。パチンカスや腐れマンカスがいくら死に絶えようが自分の懐さえ潤えばそっちのほうがいいにこしたことはないじゃん?」

 「クズだ……本当にこの人クズですよ……牢屋に入ればいいのに」

 「陪審員との面会までは俺も牢屋に居たんだぞ?ほら、見てくれよ。退屈だったから鍵開けスキルの練習してたんだ。牢屋の鍵って鍵レベル高いから修練にもってこいなんだよ。さすがローグさんの鍵開けは育成度合いが違った。頑張れば半日で牢屋の鍵くらい……」


 俺はカチャカチャっとチュートリアの牢屋の扉を開けてやり、鉄格子を開いて見せる。


 「なぁ?凄いだろう?これで脱獄できる」

 「あ、ありがとうございますっ!マスター……へぷっ!」


 喜んで出ようとするチュートリアの鼻面を鉄格子で思いっきりひっぱたくとも一度鍵をしめる。

 鼻柱をしたたかに打ち付けたチュートリアは真っ赤な顔で今にも泣きそうになり俺を見上げる。


 「あの……ど、どうして閉めるんですか?」

「いや、それはマズいだろう。脱獄に手を貸したとなりゃまた俺捕まっちまうよ」

 「陪審員買収した人の台詞に聞こえないですっ!も一度くらいいいじゃないですかっ!」

 「もう鍵開けスキルも適当に上がったからいらないし、あと、ここのご飯あんまり美味しくない」

 「理由それだけっ!それだけの理由っ?」


 愕然とするチュートリアだが俺はコクコクと頷くとインベントリからクッキーを出す。

 それを牢屋の中に放ると適当に衣服も出してやる。


 「これ差し入れな?甘シャリは一気に食べると退屈になるらしいから一気に食うなよ?あと、着替え。風呂無いからきちんと着替えて清潔にしておくこと。病気になるとステータス激減しちまうから」


 一度、話だけ聞いてた牢屋に入った人への差し入れ行為をやってみたかったんだ。

 その夢がゲームでかなうなんてなんか素敵。


 「マスターが優しいです。でも、ものすごく納得がいかないんです」


 ぽろぽろと涙を流し石畳の上に転がるクッキーの包み紙を見つめているチュートリアがどこまでも哀れだった。

 だが、俺はそんなチュートリアを励ますようにあざ笑う。


 「まー、いいじゃないか。ずっと狩りだとかクエだとかで忙しかったから休暇だと思えば。少し骨休めでもしてるといい」

 「休暇?これ、休暇ですか?私、今、凄くくつろいでるように見えますか?見えますか?」


 三食昼寝付きで雨風凌げる生活してるのに贅沢だよな。

 俺の居た現実じゃそれすらままならない人たちが一杯居るというのに。

 つか、ニュースだとかで寒くて警察署の前までタクシー走らせて強盗仕掛ける人だっているというのに。

 全然苦労が足りてないな。

 俺はチュートリアが少しでも精神的に成長してくれればと思ったが、ぶっちゃけそんなことはどうでもよかった。


 「さて、面会時間はこれくらいにしましょうか。どうやら放っておけば、牢屋の鍵を開けられて逃がしてしまいそうですので」


 俺がもたもたしている間に面会時間が過ぎてしまった。

 まあ、ぶっちゃけ無事にしているかどうかと薄い本みたいな展開になっていたらそれはそれで面白いかもしれないという興味本位で見に来た訳であって。

 本来の目的はこのマーシーというNPCにある。

 マーシーはチュートリアと面会する俺を迎えにこのかび臭い地下牢まで来たのだ。

 どこか憮然とした表情には幾ばくかの怒りが見られる。

 俺は舌打ちすると適当にインベントリから甘シャリを出すと牢屋の中に放ると、チュートリアに背を向ける。


 「まぁ、元気にしてろよ?気が向いたら出してやるから」

 「ほ、本当ですよね!出してくれますよねっ!ま、マスター!」

 「気が向くといいね」

 「なんで人ごとなんですかっ!自分の意思ですよねぇ?ねー?」


 俺は答えることなくチュートリアの牢屋から離れ、マーシーと共に地下を出る。


 「行かないでぇ!ますたぁっ!寂しいですっ!ますたぁっ!一緒に居てくださいぃぃっ!」


 悲痛なチュートリアの悲鳴がどこまでも悲しげに地下牢に響いた。


◇◆◇◆◇◆


 俺はプロフテリア騎士団の副団長室に招かれ、ソファに座らされる。

 マーシーは俺と対峙するように自分の事務机につくと、俺を見下ろした。


 「我が国の裁判がまともに機能してないのには、落胆するわ」


 ゲームとして簡略化されているから当たり前の話だ。

 長時間拘束を受けたり罰払があったり犯罪行為のペナルティも現実と比べればゲームということで軽い。

 そしてとりわけ、その罰を回避するための手練手管が色々用意されていたりする。

 違法行為も現実でやれば犯罪だが、ゲームでやれば無罪。


 ――現実でできない犯罪をしたいという欲求を受ける受け皿となるのもまたゲームだということ。


 「皮肉が言いたいのか?俺は正式に裁判を受けて無罪になった。別に今、お前の言うことを聞いてやる必要もない」


 ぴしゃりと叩きつけ、俺はマーシーの顔を真正面から嗤ってやる。

 気を悪くしたマーシーは鋭い瞳で俺を睨みつける。


 「あなたに従うイリアがどうなっても構わないと?」

 「由緒正しき騎士様が人質を取って脅すとはね!俺はそういった手口大好きだよ!さすがマーシーちゃん、俺達にはできないことを平然とやってのける。そこにしびれるあこがれるゥ!騎士団万歳!副団長最高ッ!」


 さんざっぱら煽ってみる。

 だが、このNPCは一度怒りの表情こそ見せるものの大きく息をつくとどこか腹の据わった目で俺を見つめてきた。


 ――IRIAにも珍しいのがあるもんだ。


 「一人の少女の首を刎ねることくらいは造作ないことよ?戦場ではもっと多くの人間を死に追いやってきてるもの。今更、ひとりくらい」

 「じゃあやれよ。別に俺はアレがなくても構わんぞ。さぁやれはよやれ。やれないんだったら俺がチュートリアの首を刎ねようか?得意やでー?がっとーざへぅ!」


 俺は鼻を鳴らして笑い飛ばしてやると、ソファーにどっかりと寝そべった。

 こういった面倒くさいやりとりをするのもIRIAらしいが、俺は現実でもこういったしち面倒くさいやりとりは反吐が出る程嫌いだった。


 「あなたには、駆け引きが通じないわね」

 「下らないんだよ。てめえの命一つでぶつかってこい。何が欲しいのかわからんが、まだるっこしい真似してんじゃねえ。それとも何か?悪党相手に悪党よりゲスい真似しなくちゃ言いたいこと一つも言えないのかよ騎士団は。ゲスと自覚してる悪党よりカスいじゃねえか」


 俺は親指を立てて下に向けてやると絨毯に唾を吐いた。

 悪辣に振る舞う俺にマーシーは静かに頭を下げてどこか暗い目で口を開いた。


 「非礼は詫びましょう。だが、私たちはどうしてもあなたの協力を仰ぎたい。それだけに必死だと理解して欲しい」


 俺は寝そべった状態から座り直すと、身を乗り出しマーシーを睨み据えた。


 「はじめからそう言え。お前は今、貴重な時間を半日無駄にした。その半日でできることがあったはずだ。このksg」

 「であれば、偽悪的に振る舞うのはやめて貰いたい。私も真意をあなたに明かす。だからこそ、絡め手を使って無理にでもここに呼び止めたのだから」

 「必死さは理解したよ。だからこそ、話を聞こう」 


俺は姿勢を正すとマーシーに向き合った。

 マーシーは静かに手を組むと身を乗り出して俺に告げる。


 「まずは礼から言わせて貰いたい。オーベン城では潜入、そして撤退とウィングコマンダーを退けてくれた。おかげで不要な犠牲者を出さずにすみました。それこそ、私の身体なんていくら穢されても構わないくらいに」

 「思考者の椅子は確認しなくてもいいのか?」

 「……撤退戦の最中、もう一度オーベン城要塞に向かうあなたを部下が見ています。深夜をすぎてもウィングコマンダーの襲撃が無かったということはそういうことなのでしょう?」


 尋ねられて俺はそういえばと思い出す。

 キクの店の前でうんこした後に俺専用便所を手に入れるためにもう一度ウィングコマンダーをソロで叩き殺してきたんだ。

 その時のことを言ってるのだろう。

 だが、そんなことまで記憶しているあたりIRIAというのはある意味凄い。


「俺は俺で便所を手に入れる目的があったからな。別にお前らがどこで死に散らかそうが勝手だろうに。礼なんざ言われる筋合いは無い。たまたま俺が居た幸運にだけ感謝すりゃいいじゃないか」

 「謙虚、ではないんでしょうね」

 「その通りだ。礼なんざ言われて次もまた当てにされてたまるか。俺は勝手にやらせてもらうよ」

 「多くの人間がモンスターに蹂躙され、命を散らす。それに痛痒すら感じず、おのが欲を全うするのですか」

 「モンスターも勝手、人間も生きるのに勝手。ゲームの中の他人事になんで好きこのんで首を突っ込まなきゃならないんだ」

 「ゲーム?あなたは、これをゲームと言ったか?」


 マーシーはどこか凄味のある声で俺に言った。

 だが、俺は鼻を鳴らして答えてやる。


 「ああ、ゲームだ。俺の居た現実から気がつけばゲームの世界へトランスミッション状態だよ。ずっとこの世界に居るお前たちがよしんば長年生きていて愛着があろうが俺には消費すべきゲームのコンテンツだ。それっぱかしか、生き残るのに必死だよ。勝手に連れてこられて魔王と戦えって話だ」

 「それがレジアンの使命ではないのですか?」

 「使命なんざ糞喰らえだ。何で俺が見ず知らずの世界のお前達のために戦わなくちゃならないんだ?マーシーさん頼むぜ、俺達の世界の不景気なんとかしてくれよ。それがあんたの使命だぜ?俺の国の不景気すげえんだ。毎年人が3万人自殺する。大変だねー?こりゃー救わないとならんわー。やれるやれる絶対やれるマーシーさんなら絶対できるってそこでアキラメンナヨー」


 俺は嗤いながら小馬鹿にすると再び真面目な顔つきを作る。

 俺の言わんとすることを理解したのかマーシーはどこか言葉を探すように視線を宙に泳がせる。


 ――不本意なまま呼ばれた人間に対し、言葉を継げない。


 「俺が戦うのは元に居た世界に帰るためだ。それ以外はどうなろうと知ったこっちゃない」

 「どうすれば戻れるかわかっているの?」

 「大筋はな。そして、あんたが何を言いたいのかも概ね理解しているツモリだ」


 俺はまだるっこしい駆け引きの流れをぶった斬ると告げた。


 「――オーベン城のエルドラドゲートの攻略だ」


 マーシーはしばらく俺を見つめた後、大きく溜息をついた。

 何から話せばいいのかわからず手を組み直したり、肩を落としたりしている。

 俺はソファに背中を預けると淡々と語る。


 「あんたのスペックじゃ最深部までの到達は容易だろうさ。装備の外観から見るに概ね70から80くらいのレベルのパラディン系上位のホーリーナイトだ。付随する連中だって50そこそこ。対するオーベン城の適正レベル帯が40くらいだ。攻略できない訳がない」

 「……レベルとは何のことか理解できないけど、概ねそのとおりよ」

 「だが、最深部に到達したはいいがお前達にはエルドラドゲートを封印することができなかった。その資格がなかった。違うか?」

 「お見通しね。レジアンとはそういうものなのかしら」


 肩をすくめてみせるマーシーに俺は自分の推察を語ってやる。


 「レベルも上げた。ユニークもある程度討伐した。現状のオワコン状態でフラグ解放待ちの限界クエスト。メインクエストもある程度消化して、やることがなくなりつつある。そんな中、未だ俺やキク、赤い竜といった確認できる現実からの接続者――レジアンが手をつけていないコンテンツがインスタントダンジョンの攻略――つまりはエルドラドゲートの攻略だ」


 何を言っているのか理解できずにマーシーは目をしばたかせる。


 「……エルドラドゲートはつまり、俺達レジアンの為に用意されたものなんだろうさ。それをお前達NPCが一生懸命攻略してもフラグは立たない。つまり、攻略はできないってことなんだろう?だから、お前達は攻略できるだけの力を持っている俺に声をかけた。違うか?」

 「――悔しいけど、その通りよ」


 マーシーは大きく溜息をつくと悔しそうに認めた。


 「そろそろメインクエストがインスタントダンジョンに差し掛かる頃だと思ったよ。いつまでもパチンカスや腐れマンカスどもを血祭りに上げる討伐クエストじゃ嫌がらせにも程があんだろって話だ。そこにお前がメインクエストとしてインスタントダンジョンの攻略を依頼する。そういった話の流れだ」

 「そこまで理解しているのであれば、話は早い――」

 「――チュートリアの解放が条件。それが取引材料だろう?」


 俺は言葉を継ごうとするマーシーを遮り被せた。


 ――まだるっこしい真似はたくさんだ。


 クエストの依頼文章なんざ読む必要はねえ。

 どこで何をしてくりゃいいのかだけわかればクエストなんざ回せる。


「いいだろう。受けてやんよ。ちなみに尋ねるがエルドラドゲートの色は何色だった?」

 「え?」

 「色だよ色。色盲じゃねえんだろ?だったらエルドラドゲートの光の色が何色だったかくらいは覚えてんじゃねえのか?」


 別に後でキクのところにあるヴォーパルタブレットを見ればわかる話でもあるのだが足を運ぶよりか尋ねた方が早い。


 「……緑色、だったわ。うん、間違い無い。中には色々な仕掛けが多く、騎士を中心として編成した我々では苦労したわ」

 「緑色ね。罠ダンじゃねえか。ナイト中心で行けばそりゃ苦労はするわな」


 インスタントダンジョンのゲートの色はそのダンジョンがどの性質を持っているかを表している。

 オーベン城要塞のような緑であればトラップや仕掛け中心のトラップダンジョン――通称『罠ダン』

 赤であればモンスター討伐中心の『赤ダン』、黄色であれば謎解き中心の『クエダン』。


 ――後半になれば複合ダンジョンなんてのもあるから攻略が大変になる。


 マーシーはどこか歯にものが挟まったような声音で先を続ける。


 「問題はどうやって再びオーベン城要塞まで到達するか、なのだけれど……」

 「方法は二つある。前回俺がやったように一人でさっさと行ってしまうか真正面から敵をすり抜けていくか。まあ、どっちもたいした手間じゃあないんだがな」

 「……騎士団の名誉の為に、敵を殲滅して欲しい」


 マーシーの身体が淡く発光する。


 ――メインクエストの表記だ。


 「この戦に我々は大きな犠牲を払っている。死した騎士の数も少なくはない。そして、その騎士達に信頼を預ける国民の期待も。我々は……いえ、我々が勝たねばならない」

 「冗談じゃねえぞ。勝つ気の無い雑魚っぱちども引き連れて勝てだなんて俺の勝ち馬ライダー騎乗用の座席はそんな広くは……まぁ、なんとかなりそうな気もするがな」


 俺は面倒くささから断ろうと思ったが、メインクエストとなれば話は別だ。

 どっかの赤い竜みたく途中でクエストが断念されるのだけは勘弁願いたい。


 「……私の指揮ではあれが限界だ。あなたがもし戦女神のレジアンだというのであればその力を振るって欲しい」

 「俺にそんなことできると思ってるの?」

 「――戦女神とはそういうものだと、我々は知っている」


 なるほど。

 だから信望を集めろというのが初期のメインクエストだったりするのか。

 パチンカスや腐れマンカスばっかり相手にして数値的な信望しか集めてなかったが本当はここに繋がる予定だったのか。


 ――連鎖クエストはその場で放棄しまくってたからなのだが、本来であればこの時点で必要に足りる信頼は得られていたかもしれない。


 「できないのか?」

 「できるさ。得意だよ。ただ、正直、今回は俺の得意な方法じゃあない方法でのやり方になるがな?モンスター相手だろ?楽勝だよ、楽勝」


 思考能力の無いモンスター相手での集団戦闘ははっきりいって楽勝である。

 それこそ、普通の人達が作業にしてしまうくらいに。


 「頼もしい。だが、我々には問題がもう一つある」

 「あん?」

 「……君が指揮を執ることをどうやって了承させるか、だ」


 マーシーはどこか困った顔で俺を見つめてきた。


 「君には実績が無い。名だたる傭兵団の旅団長ともなれば納得は得られようが、多くの騎士達を素直に従わせるには力を見せてもらわねばならない。その方法をどうするか、それが問題だ」

 「ふんむ」


 こういったクエストの話は初めてだ。

 大概の場合、何をしろ、こうしろ、という話を振られるのだがこちらに解決策を求めるというのは特殊だ。

 全く前例が無い訳ではないが、その場合、いくつかある選択肢の中から最も正解に近い解答をしてやることでフラグが進んだはずなんだが。


 「……地道に俺が傭兵でもやって名声でも稼いでくるか?名声が必要だっていうんならそれが一番手っ取り早いんだが」


 俺は最も解答に近いだろう解答を振ってやる。


 「それでは、間に合わないのだ」


 どうやら違うみたいだ。


 「ふんむ。じゃあ、諦めようか」

 「……諦める訳にはいかない」


 マーシーはどこか鬼気迫る表情を見せそう断じた。

 ちょっとおちょくっただけなのだが、それにしては必死すぎんだろ。


 「だから、期限を三日間と定めさせてもらった」

 「あん?」

 「――あなたが、我々を指揮し、オーベン城要塞のエルドラドゲートを封鎖するまでの期限。これを、三日間とし、もし、それが達せられなかった場合」


 彼女は俺をどこまでも逃がさない追跡者の目をして言った。


 「――あのイリアの死刑を執行する」



   ◆◇◆◇◆◇


 牢獄の中では一人膝を抱えるチュートリアがぽそぽそとクッキーを囓っていた。


 「もぐもぐ……クッキーって喉乾くからあんまし……もぐもぐ……あ、できたできた。看守さーん!チョウチョできたー!おーい、誰かー……くすん」


 包み紙を折り紙にして遊んでみるが、本来であればそんな状況ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ