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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
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あおりあい宇宙

 プロフテリアに戻る頃には体調も大分回復していた。

 考えるべきことは一杯ある。

 だが、やるべきことと、やらなくちゃいけないことがわかったのは大きな成果だと思う。


 ――やるべきこと、やらなくちゃならないこと、やりたくないこと、そして、やりたいこと。


 それらは同じようで微妙に違っていたりするがその差異を理解し、咀嚼して考える必要はゲームでも現実でも同じことだ。

 そのためにキクの店にやってきたわけなのだが。


 「プギャーwざっまwマジざっまwデスペナ乙!デスペナ乙!」

 「うるせえ女子力ゼロのゲリ女。お前の尻の穴の匂いするから閉じやがれ」

 「何言われても響きませんわー!あー、飯ウマ!ゴミクッズ野郎がブレイクして死に散らかす以上に幸せな事態が他にあるんでしょうかロクロータさん?ゴミクッズブレイクですよゴミクッズブレイク!ザマァーwマジ、ザマァーwねえねえ今どんな気持ち!顔真っ赤で死に散らかして今どんな気持ち?デスペナ貰って来てどんな気持ちぃ?」


 さんざっぱらバカにするキクに何かの形で仕返ししてやる必要があるが今はそれを横に置いておこう。


 ――キクにはデスペナルティの話をした。


 記憶を奪われること、そして、ログアウトには最終クエストを終了させる必要があること。

 そして、その間には第一次限界クエストと第二次限界クエストがあること。

 どこか不安そうな顔をしていたが、目の前に本当にデスペナルティを貰ってきた人間を前にして、怖がる訳にもいかない。

 だから、不謹慎にも小馬鹿にして深刻にならないように振る舞っているのだ。

 そんなキクの不器用な心配は嬉しいのだが、だからといって感謝の言葉を述べれば余計に深刻になるだけだし、それよりなによりいまそかり、だ。


 ――メッチャ腹立つねん、人バカにするコイツのツラ。


 「おう、てめえも死に散らかして今の話の記憶ごとごっそりデスペナ貰ってくるか?俺ぁ構わんぞ?目の前にある便所紙を轢き殺しちゃったりすること、昔さんざっぱらやってきたから」

 「マジ怖いわーロクロータ先生メッチャ顔真っ赤でブチ切れとるわー。怒りが有頂天で私の寿命が八つ当たりでマッハですわー」


 凄んで見せても燃料投下するだけでした。

 人から見て下劣なこのやりとりだが、廃人同士にとっては挨拶みたいなものだ。

 思ったことをすぐ口にできるネット文化に生きる廃人同士にとって誰かがファビョればすぐ叩きに行くのは常識です。


 「畜生、俺今メッチャ不様だ」


 さんざっぱら叩かれるだけ叩かれてもそれをさらりと受け流せる精神的タフさが無ければやっていけません。


 「不様やなー。でも久しぶりに腹の底から笑えましたおすし」


 他人の不幸は蜜の味とはよくいったもンだ。

 お互い、こんなことばっかりしていればそのうち馴れてしまう。

 他人が見ればドン引きするような叩き合いや煽り合いでも逆に煽られない方がすっきりしない。

 SとMが合わさり最強に見えるのが廃人達。


 「ところでそのロクロータ先生をナイスキルしてくれたチューちゃんは?」

 「あれ?さっきまでその辺ちょろちょろしてたんだけど……あ」


 チュートリアは店の入り口からガタガタと震えて俺とキクを見ている。


 「……何してん?」

 「いえ、血の雨が降って八つ当たりで私まで殺されるかと思うと」


 顔面蒼白になってぶるぶると震えているチュートリアはドMだな。MっぽいのにM属性を持たせると叩かれすぎて頭がおかしくなって死ぬ。


 「殺さねえよ。つか、てめー俺が手当たり次第に殺戮を繰り返す殺戮マッスィーンか何かだと勘違いしてねえか?」

 「……違うんですか?」

 「PKっつったって色々あるし、あれはあれで大変なんだぞ?お前みたいなカスパッパだったらいくらぶっ殺してもいいんだが、逆に粘着されたり集団で来られたりする面倒くさい側面もあんだからな?」

「そっち戻っても私を殺したりしないですか?」


 おそるおそる尋ねるチュートリアが面白くて俺は底意地の悪い笑顔を見せる。


 「おう、殺さないからこっち来い」

 「本当に?本当に?」

 「おうとも、俺今めっちゃ反省しとるのやでー。お詫びにクッキーやるよ」

 「わーい」


 とてとてと喜びやってきたチュートリアをがっちり『ホールド』。


 「ふへ?」

 「からのー?」


 キクさんが合いの手を入れてくれます。


 ――『ジャンプ』して地面に向けて格闘スキル『スルー』


 びたーんと重々しい音を立てて地面に倒れ伏すチュートリアの上でソードに持ち替えて『ダウンスラスト』。


 「にぎゃぁああ――!」


 踏みつけられた猫のような甲高い悲鳴を上げるチュートリア。

 重鎧装備だと『ダウンスラスト』とはいえ、そうそうダメージは通らない。

 とはいえ、遠距離職の『ローグ』にとっちゃメインとなる火力スキルだからそれでも3分の1くらいのHPは減ってるはずだ。


 「ま、ますたぁぁ……は、反省してるって」

 「反省はしてる。後悔はしてない」


 反省する気ゼロですはい。

 その様子を隣でバリバリとクッキーを食べながら見ていたキクさんはふんむと頷くと俺に視線を向けた。


 「今回も……んぐんぐ……『びたんスラスト』使えるっぽいね」

 「小ジャンプからの『スルー』で足下に投げれば持ち替えスイッチ余裕です。強引に『ダウンスラスト』のチャンス作れるから便利っすわー」


 別にチュートリアが憎くてダメージを負わせたのではない。


 ――まだ試していなかった『びたんスラスト』というモーションスキルの『コンボ』を試すためだ。


 「やっぱり、怒ってるんだ、怒ってるんだ」

 「あれはチャオズの分だ」


 適当にはぐらかしてチュートリアを放っておくと俺はもう一度、その場でスキルを素振りして『びたんスラスト』の感触を確かめる。


 「小型ボスをハメ殺すにゃ必須っちゃ必須だからな。つか、キクさんもやっぱり気になってたん?ババア選択だけど途中で遠距離職スイッチすんの?」

 「そりゃーね?ベース育成はバーバリアンの方がDPS出るし鍛冶も関連スキルで伸びがいいから選んでるけど、最終的に生産は遠距離職でしょー」

 「戦闘面じゃ今ひとつ信用に欠けるんだがぬ」

 「でも、デスペナ痛いでしょ?インスタントダンジョンのトラップで床ペロするよっかマシでしょうに」


 よろよろと起き上がったチュートリアにポーションを投げつけほんの少しだけ優しさと『道具知識』スキルをあげると俺はふんむと頷く。


 「確かに居てくれちゃ助かるっつーのが本音だぬ」

 「つか、あんた『投げポーション』できるまで『道具知識』高めたの?あれ確か40くらいからでしょ?」

 「俺、ぶっちゃけ『機械知識』スキル狙ってるからな」


 この際だから俺はキクに隠しカードを明かしてやる。


 「『機械知識』?あんた特殊職の『ガンナー』にでもなるん?遠距離射撃職の中じゃDPSだけは最高のPK職だけど、最終的な一撃ダメージじゃ一確取れないトリッキー職でしょアレ」

 「それで若干だけど末期に修正入ったろ?『機械知識』で機械系武器のダメージ増加ボーナス。俺がブレイバーを選ぶ理由がこれでわかるはずなんだが」


 キクが眉根に皺を寄せて考えはじめる。

 そして、一つの結論を思い描いたようで俺を見て後ずさる。


 「あんたえぐいわっ!えっぐ!ちょ、それ、待って!さっき小馬鹿にしたこと謝るわ!マジでごめん!」


 流石にお金の計算も早いことあってダメージ計算も早い早い。


 「なあ?俺のスタイルだとブレイバ一択だろう?」

 「なにその殺戮厨スタイル。ってか、前提厳しすぎるけど、あんたなら絶対やりかねないわ」

 「汎用職の酷いところは修正来ても他職も道連れになるからおいそれと修正できないという恐ろしさ」


 俺の秘めたる野望に恐れを抱いたキクさんがマジで怖がってる。

 ようやく傷が癒えたのか落ち着いたチュートリアが残虐な笑みを浮かべている俺に涙目で訴える。


 「マスターが全然懲りてないです。そして、何を仰ってるのかさっぱりです」

 「スキルの話をしてたんだよ。今、お前にやったように特定のモーションスキルを利用して特定のモーションスキルを使うことを『コンボ』。お前にもできる簡単なので言えば『トランプル』から『ピアッシング』みたいなモンだ。意識してなくても使ってたろ?」


 背中をさすりながら涙目で見えない背中を見ようと一生懸命ぐるぐる回るチュートリアは苛めたくなる子犬みたいだ。


 「でも、いきなり私にやらなくてもいいじゃないですかぁ」

 「インスタントダンジョン――エルドラドゲートを攻略する前にいきなり実戦で使ったんじゃこればっかりは命取りのコンボだから性能チェックだよ 


 ウィキに書いてあることが即できるならプレイ時間は要りません。

 それらの情報を身体で確かめて、自分のものにしなくちゃいけない。

 そのための情報と実際の使い勝手のチェックは誰でもやってることだ。


 「エルドラドゲート……魔王が地上に置いた魔物の出現装置のことですよね?神界や魔界を繋ぐゲートですけど……もう、侵攻するのですか?」

 「クエストを進めていけば必ずそこにぶち当たるからな。この間の魔王のイリアだかってのもやがてクエストボスで戦うんだろ?ボスは何も大型ボスばっかりじゃない、ああした小型ボスの方が厄介な場合だってあるからな」


 チュートリアはどこか釈然としない様子で俺を見上げると鼻をぴすぴすと鳴らす。


 「マスターがやる気になってくれてるのは嬉しいですけど、なんか、なんだかです……」


 俺はいつまでも憮然としているチュートリアを放置するとキクに肝心要のバカ野郎のことについて尋ねる。


 「つか、キクさんや。あの赤いトカゲはどこ消えやがった?クリリンの分が残ってるんだが」

 「あれなら、颯爽とどこかへ消えたわよ?『俺の代わりにザマァしといて』って」


 キクはどこか白々しくそう言って俺から視線を外したもんだから合点が言った。


 「なあ、キクさんや。赤い奴は他に何か言ってなかったか?」

 「何か言ってましたけど、それが何か」


 隠し立てしないあたりがキクさんのかわうぃーところ。


 「さて、キクさんや。あなたもうご事情について概ねご理解していらっしゃいますね?」

 「はい、ロクロータさん。あんだーすたんどでございます。ご確認願えれば幸いだと思いますが、今、おそらくロクロータさんのステータス画面の一番下に死亡履歴1と出てくると思います。そして、赤い竜のステータス画面にもそれと同じのがありましたのでございますです」

 「はぁい、俺の予想、大・当・た・りィ~!」


 赤い竜マジでバカ確定。死ねばいいのに。


 「あんの野郎ぅ!自分がデス履歴ついたからって他人にもデス履歴つけていきやがったんだな!おかしいと思ったんだよ!こんな異常な状況で他人死亡させるなんてちょっと考えりゃ危険だってわかんのに!」

 「わ、わ、わぁ……」


 俺の怒りの矛先がいつ自分に向くかわからずチュートリアがカウンターの裏に逃げ込む。

 キクさんが何を言ったらいいのか困ったような顔で視線を逸らし呟く。


 「いやぁ、私も最初聞いたときアホかと思いましたよ。マジマジマジかって話ですはい。あいつが自慢げにステータス画面を見せびらかしてくるから、見ててアホやなーと思ったら最後の欄に『死亡履歴1』って書いてありましてそれなにー?って状態でしたはい」

 「わかるかっ!?俺ほぼそのとばっちりやで!自分の履歴に1刻まれたなら他の人にも1刻めばいいじゃなーい的な発想やであの赤いの!理解できます?理解できちゃうのが俺悲しいけどあいつ真性のバカやでほんまー!」

 「私、生産プレイヤーなのでーってとりあえず見逃してもらいましたのん。本当に、いや、本当にロクロータさんご愁傷様です。いつぞやロクロータさんがおっしゃってた『あの赤いのだったら1回2回死んでてもおかしくないから手厚く保護してやらな』とおっしゃってましたがまさにその通りでございました」


 正直俺自体が不安定になっていたのもある。

 それでやけっぱちになっていて結果、色々と知ることができて目的が定まったから結果オーライってのもある。

 だが、しかし!

 それまでに至る経緯で色々と問題がありまくりでございますよっ!


 「野郎ぅ、覚えておけよぅ……俺がブレイバー完成の暁にはあいつを真っ先に血祭りにあげてやンよぉぉ」

 「マ、マスター、赤い竜さんは仲間、なんですよね?」

 「俺、記憶奪われちゃったからなぁ。デスペナルティって恐ろしいねー、いや、本当に恐ろしいわー。つか、君だぁれ?俺の敵ぃ?つか、ラストアタック君だったよねぇ?君だったよねぇ?」

 「自分の記憶全然奪われてないのにっ!つ、都合がいい場所だけ覚えてるとか!理不尽ですよマスタぁぁ!」


 俺は様々な『コンボ』を教育と称してチュートリアちゃんに叩き込むのであった。

スラング解説


・ ○○と○○が合わさり最強に見える。

・ ○○を持たせると頭がおかしくなって死ぬ。


FF11の有名廃人の残した名台詞からの抜粋。


ダークっぽいパワーはナイトに持たせると光と闇が合わさり最強に見える。

逆に暗黒騎士に持たせるとあたまがおかしくなって死ぬ。


のように使う。


・ クリリンの分、チャオズの分


ドラゴンボールから。転じて意味不明に他人に危害を加えるときに使う。

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