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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
37/296

マジ、クソゲー

 それはズゴックみたいな女だった。

 出荷された時からアスペクト比を間違えた体型でモデリング職人が徹夜明けに間違えて張り間違えたテクスチャが離れた目がモノアイの動くレールみたいな形になってる。

 一丁前にデュアルセンサーを装着したズゴックはフゴーフゴーと起動音を繰り返す。


 「やだ。私セダーと一緒に居る。帰りたくない」


 一緒に居る男はセダーというかヅダのような血色の悪い男だった。

 「つか、帰りたくねえっつってんだから、いいだろがッ!お前ら一体何しに来たんだよ!ジェナの母親なんか男を取っ替えひっかえしてるカスなんだから、帰りたくないって当たり前だろが!援助目当てで娘を手元に置いておきたいだけじゃねえか!」


 はい、怒られました。

 依頼者がカスってのがまず確定。


 「ですけど、いつまでもここに居るというのはよろしくないです。男の方であればきちんとしたお仕事をして、それからお嫁さんとして娘さんをもらい受けるのが正しい人のあり方です」


 珍しくチュートリアちゃんが強気です。


 「ギャンブラーの何が悪いんだ?ええ?冒険者だって似たようなモンじゃねえか。お前らはモンスター倒したりダンジョン潜ったりしてヤマ当てようとしてて、俺はギャンブルで一生遊んで暮らせるだけの金を手に入れようとしてるだけじゃねえか。そして俺は手に入れる。ナメんなよ?」

 「セダーかっこいい♪」


 はい、パチンカス確定。そして娘もゆるふわ確定。

 俺の隣でチュートリアが泣きそうな顔をしてやがる。

 俺はセダーとかいうパチンカスの隣で一緒になって苛めることにした。


 「ほらー、清く正しい精神はよ!チャンスやでー!嘘偽りなき清く正しい精神でこのパチンカスに人に道教えたれチュートリアちゃん!戦女神のイリアかっこいーなー!メイン正義来た!これで勝つる!がっとーざへぅ!がっとーざへぅ!」


 もはやどうでもよくなった俺は最高に悪い笑顔でチュートリアを煽る。

 だが日頃から苛められてそろそろ慣れはじめたチュートリアさんは格が違った。

 大きく深呼吸をして慈愛に満ちた顔で俺を含めたカスども見渡し告げる。


 「……暴力は何も解決しません。私は対話でこの悩める人たちを」

 「そう言って俺に惚れたんだろ?だけど、貧乳はお断りだぜ?セフレぐらいなら――」

 「――ホォリィバスとーざへぅ!」


 あっさりと暴力で解決しちまったい。

 すんげえ沸点低いのな。

 大型モブにすら大ダメージを与える必殺スキルを一般人なんかに向けたらそりゃばらんばらんに死に散らかしてくれますわ。

 流石ヅダ。自爆には定評がある。

 粉微塵に吹き飛んだパチンカスを見て娘がガタガタと震える。

 フシュルフシュルと息巻く一匹の野獣と化したチュートリアが少女を見据え恫喝する。


 「――帰れっ!親元へ帰れ!じゃないとうちのマスターけしかけますよっ!」

 「俺は一体てめーの中でどんな扱いになってんのか知りてえな」


 だが、野獣と化したチュートリアさんはずんずんと骸になったセダーことパチンカスに槍を突き立て少女を恫喝する。


 「少しだけ待ってあげましょう!その間に――」

 「怖いっ!やだぁ!怖い!助けて!ドリルが怖いぃ!たす、たす、助けっ――」

 「――マスター!がっとーざへぅ!」


 這いずって逃げようとする娘の髪の毛を掴み、俺は首筋にソードを押し当てる。


 ――ちなみに、これ格闘スキルの『ホールド』のモーションだったりするが今はどうでもよかったりする。


 けしかけられた俺は嫌々ながらも悪人を演じてみたりする。


 「ガタガタ抜かすなや?お前がパチンカスと居ようが腐れマンカスと居ようが構わねーけど、お前が帰らないと俺もおうち帰れねえんだわ?俺もおうち帰れなかったらお前もおうち帰れない。家に帰ってりゃいいってんだから、頭と胴体が離れた状態で家に帰っててもいい。よかったよかった。高速砥石で切れ味紫ゲージ維持だぜ?帰りたくねえってんならスパっとぶった切ってやんよー」

 「ほら!いつも通りのマスターですよ!怖いでしょう!あと全裸で走る変態なんですよっ!そんな変態に苛められるんですよ!毎日この人と一緒に居たくないなら素直に――あ痛ぁ!」


 いい加減チュートリアがおだちはじめたので後頭部をどつき倒す。


 「ちょっと待っとれや?」

 「――え?あ、ちょ、マスター?なんで私をひきずって……」


 俺はチュートリアをホールドで部屋の外に連れて行くと粗暴な行為に勤しむ。


 「にぎゃあぁああォォオン!!あっ!あぁ!ひぃああ、アアォォォン!」


 獣のようなはしたない悲鳴を上げてチュートリアが絶叫し、俺は再び部屋の中に戻るとすっきりした顔で告げてやる。


 「どや?おとなしく帰るか?それともやるか?」


 ぶんぶんと首を振るうカス娘の髪を引きずり俺はマンションから連れ出しさっさと依頼人の元へと戻る。

 道中を奇異な目で見るNPC共がうざったいがこれもゲームクリアのためだから致し方なし。


 「つか重いなこのカス。ズゴックみたいなツラして、こんな女のどこがいいんだ?いわゆるアレか?リア充特有の女を切らさないことがモテ男の秘訣とかいうアレか?でもズゴックはねえよなぁ、女じゃなくてモビルスーツだろモビルスーツ。モビルスーツ同士じゃねえとドッキングとか無理だよなぁ。俺のコアファイターも変形しねえよ」


 NPCのデザインまでは気がまわらなかったのだろうか水陸両用体型のカス娘を連れて広場に付く頃にはチュートリアが追いついていた。


 「マスターなんで私に粗暴な行為を振るうんですかっ!」

 「いちおう、これ持ってくのがお仕事やん。大丈夫だって。着いたらきっちりかっきり母親ともどもがっとーざへぅしてやるから」


 俺はもはや物言う気力すら無くしガタガタ震えてるズゴックを引っ張り母親の元にたどり着く。


 「はい、連れてきましたよ」

 「ああ!やっぱりゼダーのような男と一緒に居るから酷い目にあって!今度一緒になる家族は品のいい家族なんだからしっかりしたところを見せないとだめでしょうに!誰にでもそうやってなびくからだらしがない女として見られるんです!」

 「お母さんだってそうじゃない!誰彼構わず男をとっかえひっかえして!私を育てるのにとか言い訳にするのやめてくれる?いい加減うざいんだけど!私一人で生きれるし!」


 持って行ったとたんにズゴックとズゴック母が親子喧嘩を始める。

 ここで連続ミッションのボーナスで二人が輝くが、俺はもはやこれ以上この家族に付き合うのがあほらしくなっていた。


 「マスター……これって連続依頼の反応ですよね?」

 「依頼の中にゃ連続でこなしたらボーナスがつく依頼もあるが、ロクでもねえ結末なのは確かだ。見てみろよ?バカ娘もバカ親も同じレベルだろ?バカバカ男に股開いて食いつなぐ女蟻地獄。寄ってくる男も頭が悪い始末ときたもんだ。こんな奴ら生かしておいてチミの求める世界の平和はやってくるのかね?バカが連鎖するビックコンボボーナスでも狙ってみる?」

 「マスターは世界の平和とかどうでもいいと思ってらっしゃると思いますが、この家族を救っても世界の平和的に見ても果てしなくどうでもいいでしょうね」


 俺の意向を汲んでくれたのかチュートリアは何も言わずに槍に持ち替える。

 エルドブレードに武器を持ち帰ると、俺は母親の背後に回り込みチャージを開始する。

 娘の背後に回ったチュートリアが槍を構えて腰を落とす。


 「あんな男のところに出入りして淫売として見られたらどうするんです!」

 「おめーが淫売だろーが!人のこと言えんのかよクソ親!」

 「チャージエンドぉ!」

 「ホォォリィバスタァァア!」


 ――大火力スキルをバカ親子に振るい、バチャコーン!と血煙に変える。


 広場の往来に飛び散った血飛沫はシュールっちゃシュールだが誰も気にとめない。

 気にしてはいるような素振りだがあえて声をかけないといった方が正しい。

 俺はふぅ、と息をつき清々しい笑みでチュートリアに微笑みかける。


 「手が滑った滑った」

 「そうですね、豪快に滑って気がしますがそれもやむなしがっとーざへぅ!」

 「一発で死に散らかしたなズゴック。火力インフレの中でBグーの底辺じゃ生きていくのも辛かろう。箱あけてCグーのボールカスタムから人生やり直して来い」


 俺は死に散らかした死体に鍔をはきかけると、大きく溜息をつく。


 ――またまたカルマが増えた。


 もうぞろ犯罪者としてプロフテリアを歩けなくなる。

 連続依頼をこなして人望を集めてもいいのだろうが、そうなるとこんな下らない相手に金やら労力を使わなければならなかったり、結局救いようがなかったりする。

 チュートリアが大きな溜息をつきながら肩を落とす。


 「はぁ……こんなことを繰り返して、世界が救えるのでしょうか。ワン」

 「お?約束覚えてたんだな」

 「忘れたフリしてても絶対に、苛めてきますもん。なら、最初から諦めますよワン」


 後ろ向きなのか前向きなのかわからないやけっぱちになったチュートリアはいけない積極性を発揮しだす。


 「さぁ、首に鎖巻いて縛って下さい。犬耳でも尻尾を下さい。わん、わわん!ご主人様。私をどうか犬と呼んで下さい。クゥン、クゥーン」

 「引くわー、ドン引きするわー。つか、ぶっちゃけここまで本気でやられるとお前の性癖疑うわー。周り良く見ろよ?往来のど真ん中でそういうことする普通?一緒に居る俺がメッチャ恥ずかしいわ」


 いや、これは割と本気。

 ぶっちゃけ、イライラするクエストばっかりやらされてたから当てこすりで賭けを持ち出した訳で、こいつが犬になろうと裸になろうとどうでもいいわけでそれを真に受けて往来で膝を折ってわんわんとかやられると、本当にどん引きですよ。

 ぴしりとチュートリアの何かが音を立てて崩れた。    

俺は犬になりきろうとしているチュートリアを放って、沈みかけた太陽を眺める。


 ――また、一日が終わる。


 人がそぞろに家に戻りはじめ、俺はまた一つ、正体の無い焦りを覚える。


 「チュートリア、そこでずっと待て」

 「え?」

 「……俺ぁ、帰る」


 ――限界だった。

 これが、限界だった。


 「ますたぁ……ちょ、ますたぁ……」

 「……いつまで、こんな下らないことをしなくちゃなんねえんだ。面白くもなんともねえよ。ふざけんな。ふっざけんな。舐めンのも大概にしとけし。こんなカスども相手にして時間なんざ使ってられっかよ。俺ぁ生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ?そこんとこ理解してこんなふざけたことしてんのか?アア?」


 俺の尋常じゃない様子に何かを察したチュートリアはIRIA積載型のNPC。

 プレイヤーの反応から学び、学習して反応する、タダのNPC。

 周りにいるのも全部、全部、全部がNPCだ。


 ――ぶっ殺して回ろうか?


 それでも納まらない焦燥感に俺は自殺を決めてみる。

 そう、何度か死ねば解放されるなら。

 死ねば、ログアウトできるなら。


 ――それも一つの手段だ。


 デスゲームの可能性もある。

 そうじゃない可能性だってある。

 検証には自分の命を賭ける。


 ――だが、それで戻れるなら。


 「コール、デッテイウ」


 俺は追いつこうとしたチュートリアを放ってデッテイウを召還する。

 爆風を纏い召還されたデッテイウが甲高い嘶きを上げて、暗闇に赤い瞳を輝かせる。

 俺は無言で背に跨ると、腹を蹴飛ばし手綱を引く。

 デッテイウは無言で俺に答えると翼をはためかせ、追いすがるチュートリアを置いて空に舞う。

 俺は何度も羽ばたかせ空に飛ばすと高度を上げる。


 「マスタぁぁぁぁ!」


 地上で叫ぶチュートリアを振り返ることなく、俺は空を目指した。


 ――冷えた空気が肌寒く、だが、それでも高度を上げて雲を切り裂く。


 どこまでも現実な感覚にこのゲームの悪質さを改めて認識する。


 「――ご主人。どこまで飛べばいいんですか?」


 デッテイウが俺に尋ねる。


 「なあよ?自分が本当は死んでるかもしれないと思うことってあるか?」

 「死ぬのは、怖いです。ボクは特にそう思います。でも死んでるかもって思ったことは、無いです」

 「そうだよな。お前達はそういう風に『作られて』るからな」


 ――太陽が沈み、夜空に星が瞬きはじめる。


 雲を切り裂き雲海の上へ抜け、俺は星空の海を竜に跨りどこまでも飛ぶ。

 眼下に広がる壮大な雲海がどこまでも広がる。

 雲海の切れ目から王都プロフテリアの光が見える。

 そのプロフテリアから北にはエクスブロ火山が壮大に雲を頂き、雲海の上にその山頂を覗かせていた。

 どこまでも広がるブレド大樹林を超え、その先に海が広がる。

 星空を映した海は綺麗に輝き、合わせ鏡のように星空を作っていた。


 ――どこまでも幻想的で美しい世界は、俺の世界じゃあない。


 「一週間以上、水や飯を食わないと、人ってどうなるか知ってるか?」

 「死ぬ、んでしょうか」

 「そうだ。死ぬんだよ。そいつぁ、怖い事だ」

 「……ですね」

 「俺の居た世界に在る身体が、今、そんな状態だよ」


 デッテイウが黙る。


 「俺は、自分の居た世界に帰りてえんだ。この世界のカスどものくっだらねえ悩みを聞いて回りてえんじゃなくて、今にも死んでる自分の身体を助けてやりてえんだ」


 俺は吐き出してしまい、決壊した。


 「ゲームであれば、クリアがある。エンディングだ。それ以上の世界は無く、スタッフロールが流れ、終了となる」


 俺は泣いていた。絶望に心が折れ、決壊した俺の心。


 「そこから先の攻略は全くなく、目に見える、そしてどこまでも決定的な終わり。――だが、しかし。これはゲームはゲームでも途方もねえゲームなんだよ」


 呟いて、改めて認識する。

 俺が接続したのは、今、居るのは。


 「―― ネットゲームなんだ。MMORPG。終わりなんか、ねえんだよッ!」


 よく言われる言葉がある。MMORPGの共通認識でもある。

 飽きた時がゲームクリア。


 「飽きて、蔵を消して――そうやってゲームクリアして、次のネットゲームを捜し、新たな世界を冒険する。飽きることを許されない今、俺のクリアはどこにあるというんだ?」


 キクが怖がるのも理解できる。


 ――一週間以上。


 「一週間以上、俺やキクはこの狂った世界に閉じこめられている。誰か一週間以上飲まず喰わずで生きる方法を教えてくれよ!んな人間限界の攻略法はウィキにゃ載ってねえ!グーグル先生だって教えちゃくれなかった。無論、2chの情報掲示板にだって載っちゃいねえ。廃人達が隠し持ってる情報の中にだって、そんな情報ありゃしねえ!」


 星の海の中心、どこまでも広がる暗黒の中、俺は絶叫していた。


 「……ご主人、もう、戻りましょう。ボクにもわかる。ご主人様は今、とても不安定だ」

 「うるせえ!なんで!なんでゲームのNPCごときが人間理解した気になってんだ!ふっざけんな!作られた物の分際で偉そうに人間に意見してんじゃねえ!」


 俺はデッテイウの背中に立ち、剣を抜き放つ。


 「ご主人!早まら――」

 「リターン、デッテイウ!」


 足下から燐光となって消えたデッテイウ。

 俺の身体は何も支えるものが無くなり、落下をはじめる。

 ちんちんがふわっなんていうどころではない。

 叩きつけるような暴風が顔をひっぱり、俺の涙をもぎ取っていく。

 俺は耳元でガンガン鳴る風圧を切り裂いて叫んだ。


 「もう、死んでる!俺の身体は、もう、死んでる!俺はこんな狂った世界の中でずっと生き続けなきゃなんねえのか!?冗談じゃねえぞ!冗談じゃねえ!現実悲観してゲームの中に逃げた雑魚と一緒にすんなよ!現実で強くなれねえ奴がゲームでも強くなれるわけがない!現実ねじ伏せる強さの無い奴がゲームで無双できるわけがない!俺は、現実悲観してたんじゃねえ!現実と一緒にゲームを攻略してたんだ!なんで勝手に現実からゲームクリアさせてんだよ!紀伊店のかコラ!現実のログアウトボタンなんざ俺ぁ押してねえぞ!不具合対応しっかりしやがれクソ運営がっ!」


 ――どうにもならない現実に、ねじ伏せられる。


 そうして折れた心に、俺は悲鳴を上げる。

 そんなのをこの狂った世界のNPCといえど聞かれるのは俺の矜持が許さなかった。

 ちっぽけな、だが、どこまでも俺が人間であるための矜持。

 それだけ抱いて、俺は迫る世界に押しつぶされそうになっていた。

 迫る大地が俺と触れた時、俺は最後の最後の攻略をする。


 ――命懸けのログアウト。


 普通であれば、俺の現実の身体は死んでいる。

 だが、それでも病院に運ばれて一縷の望みでもあれば。


 「死んだって構うものか!もう、死んでるんだ!何度だって死んだんだ!今さら――今っさらだよっ!」


 まただ。

 また、俺を世界は拒絶する。

 何度も、何度も、立ち上がった。

 だけど、そのたびに俺はこうして挽きつぶされる。


 何度戦っても、俺は――


 「――マァァスタァァァ!」


 ――白い風が俺に一直線に奔ってきた。


 チュートリアだ。

 ホーリードラゴン『アンヘル』に跨り、戦装束を身に纏ったイリアは竜の手綱を引き竜を螺旋に回す。

 俺を抱き留め、地上へ激突するすんでのところで引き上げる。

 砂埃を巻き上げ上昇するアンヘルの上、チュートリアは泣きながら俺に罵声を浴びせた。


 「なんでなんですかっ!どうしてずっと待てなんて言ったんですか!死ぬためですかっ!わたしはそんな弱いマスターを知らないですっ!」


 星空に昇る『アンヘル』の背中で、チュートリアは泣いていた。

 俺はカッとして、チュートリアの胸ぐらを掴む。


 「なんでだッ!なんで助けたッ!てめえは待てと言われたら待つように作られたプログラムだろうがッ!」

 「マスターは言いましたよねッ!?人間なら、誰だって欲しい物があるって!マスターが欲しいのは死ぬことなんですか?」

 「てめえに、何がわかるッ!ネトゲの世界にぶち込まれて、現実の身体が死んでるかもしれねえ俺の気持ちの、何がわかるッ!」

 「ずっと、ずっと、黙ってたのは知ってますッ!いつか、話してくれると思ってましたッ!マスターはとても、強いから私を認めてくれないのも理解していますッ!だけど、だから、私はずっと、マスターについてくことを決めたんです――そんな、誰よりも強いマスターが好きだからッ!あなたなら、どんな困難なことにも負けないと信じたからッ!」


 悲痛に泣き叫ぶチュートリアが痛々しかった。


 「だから――マスターらしく、強くあって下さいッ!負けないでッ!」


 だけど、だからこそ、俺は、どこまでもそれが許せなかった。

 作られた世界、そこに横たわる悪意。

 それが、こんな安い茶番を作り、俺を翻弄しようとしていることが、どこまでも許せなかった。


 「――ふっざけんなッ!」


 俺はチュートリアの兜を力一杯、殴りつけた。

 バランスを崩した『アンヘル』から放り出された俺は空中でドラゴンをコールする。


 「コール、デッテイウッ!」


 ――空中で騎乗した飛竜の上、俺は悪鬼のような形相でチュートリアを睨んでいた。


 「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!――NPC風情が一丁前に人に期待をかぶせてんじゃねえぞッ!雑魚がっ!上から目線で俺に偉そうに説教しやがって!ぶっ殺す!ぶっ殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す!殺してやるぞッ!そんなふざけた言葉、二度と吐けねえように、叩き殺してやる!」


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